第89話 私はモブになりたい
学園の状況報告は一旦一休み。あまりの情報量にミロアがついていけなくなったというか嫌気が差したために、一度休んで頭を冷やしてからということになった。
「……もうやだ、学園はどうなってんのよ。魔の巣窟にでもなってんの?」
「……同感です」
ベッドに倒れ込むミロアは愚痴をこぼし、エイルも同じ感想を抱く。事実、学園は非常に面倒なところになっていた。今後の方針を決めるためにも、一旦休みくらいは二人共ほしかった。
「……まさか、そんな事になってたなんて。オルフェは大丈夫かしら?」
「報告によるとローイ・ミュドに絡まれても受け流し、時には笑ってはぐらかすなどしているようですので、オルフェ様は精神的に問題はないかと思われます」
「でも、それは今のうちじゃないの? 次第に周りの生徒はローイ・ミュドのことでオルフェにも注目し始めるわよ。下手をすればもう目をつけられているかも……」
「ありえないことではありませんね……」
「オルフェは普通の人なのに……」
ミロアの目からして、オルフェはあまり目立たないタイプの人間に見えた。決して頭が悪いと言うわけではないが、非常に優れているというわけでもない感じだ。ガンマの側近たちのような目立つ特徴もないくらい地味で目立たないとも言える。
それでいて、ミロアの幼馴染で今味方をしてくれている人だ。だからこそ、ミロアはオルフェに対して申し訳なく思わずにはいられない。
(オルフェは……普通の人だ。一時は攻略対象とか思ってたりしてたけど、頭脳明晰じゃないし武芸に秀でてるわけでもないし、お金持ちでもないし……言っては何だけどガンマ殿下や側近連中ほど美形ってわけでもない。悪い言い方だと『モブ』……いや、こんな表現は駄目か。とにかく普通の侯爵令息……こんなことに関わらせて本当に悪いことをしたわ。こんな状況、モブの手に負えない………いや、だから、モブじゃないってのに………)
オルフェに対する罪悪感を抱くミロアは、前世の知識を引っ張り出すが、かえって整理がつかなくなる。
「モブになりたい………」
「え?」
遂には、心の声が漏れてしまう。
「………どうせなら私がモブになりたかったな」
「お嬢様………(モブって……気にしない気にしない)」
(私がモブになれば、男達は私に執着しなくなるだろうけど、私がどうすればモブになるのやら………。王太子の元婚約者で公爵令嬢がモブになるのは難しい………)
『モブ』という聞きなれない単語がミロアの口から出ても、その単語の意味が分からないが大して気にしないエイル。今のミロアにすでに慣れてしまった証拠なのかもしれない。
(そもそも、なんで私なんかに執着するかな〜? 少し前までは婚約者が引くようなヤンデレストーカーだったんだけど……この国の唯一の公爵の家がそこまで魅力的………だよねー。貴族の縁繋ぎって重要だもの。立場を考えれば仕方がないか………)
ミロアも仮にも公爵令嬢だ。いくら前世の記憶があったとしても、今を生きる自分の立場の重要性くらい把握しているくらい今の世界に染まっているのだ。だからこそ、ガンマ達の気持ちを貴族としては理解できてしまう。どんなに嫌でもだ。
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