第86話 野心に利用され
「――後は最初の方で言ったように王弟は王家から除籍となりました。王弟が有能な方だったことと、国王陛下も御令嬢に思うところがあったもあり、伯爵位を賜って今のアモウ家を興しました。結局、王弟夫妻の願いに反して戦争は起きてしまいましたが、王弟は伯爵となってからは領民のため国のために仕えたそうです」
「……そういうことだったのね。これで納得したわ。マーク・アモウが私のことを探ろうとしている理由も何だか見えてきたわ」
(そういう背景があるとすれば……クーデターでも起こせば王家の乗っ取りも不可能ではない。強い味方がいれば王位の簒奪なんてことも、ねぇ……)
おそらくはマーク・アモウも自身に王家の血が流れていると知っているのだろう。だからこそ、然るべき時にその事実を明かして今ミロアが想像しているようなことを企んでいる可能性もありえるわけだ。
(父親が宰相であることを利用して王家の弱みも握れそうだし、何より王子の側近……それでいて私に……これはもう、確定じゃないの?)
「……お嬢様、マーク・アモウは……」
「だいたい分かるわ。私の婚約者にでもなって自分が高みに登る踏み台にでもと考えているんでしょうね」
「! お気づきになられましたか!」
「自然とそういう答えが出てくるでしょう。オルフェを利用しようとしたり、主の殿下を諌めなかったり、同僚までああなったのに……思えば、いけ好かなかったのよね。腹黒そうだし」
ミロアは額に手をおいてため息を吐く。重い話を聞かされた上に、ガンマとは別の意味で面倒な男に狙われていたと分かったのだから頭も重くなる。面倒な男たちの野心に利用されたくないのだ。
「……ガンマ殿下も嫌だけど、マーク・アモウも同じね。あんな二人に関わりたくないわ」
「お嬢様……」
「できることなら退学……は無理か、公爵家の顔に泥を塗るし。留学も難しいわね。我が国は上級貴族ほど留学に制限があるし……」
ミロア達の通うスマートブレイブ学園は留学生を受け付けない。それは国の方針だ。そして逆に留学に関してはかなり厳しい制限があるのだ。過去のことがあって、情報流出を恐れているからだ。王家と関わりがあったミロアならば留学など許されるはずがないのは間違いない。
「学園の退学は確かに公爵家の痛手ですが、その程度の痛手ならば旦那様は問題ないとおっしゃると思いますよ?」
「そんなこと私の口から言えると思うの?」
「お嬢様が望まれないのであれば……」
「今まで散々我儘言って迷惑かけてきたのに……これ以上負担をかけるなんて私が嫌なのよ……お父様の苦労はきっと相当なものよ」
「……」
そこまで言われてエイルは何も言えない。確かにミロアは父バーグに大変苦労させたと言える。義母親子を拒絶し王子と仲がいいと嘘を付き、挙げ句には窓から飛び降りたのだ。それをよく知るエイルはそれらを否定できない。
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