第60話 国王と王妃
ゴウルがヤミズーク・マスカレード伯爵の屋敷に潜入を始めた頃、王宮でとある夫婦が揃って頭を悩ませていた。
「ガンマは……やはり自室でも荒れておるようだな」
「そうですね。王太子じゃなくなるとどころか男爵になると聞いてますます追い詰められたのですから当然かと……」
「「はぁ〜……」」
ため息を吐くのは青い瞳と白髪交じりの黒髪に長い髭を靡かせた中肉中背の男、ドープアント王国の国王ファンタム・ドープアント。そして、その向かいに座って同じくため息を吐くのは赤い瞳と漆黒の長い髪の若々しく見える女性、王妃マーギア・ドープアントなのだ。
「公爵の要求をのむしかなかったとは言え、流石にガンマを男爵にというのは不味かったな。ガンマの気持ちを考えて、もっと妥協していれば……」
「ですが、あの公爵に妥協は難しいでしょう。我が国の大英雄であり、唯一の公爵なのですから。むしろその程度で良かったと考えたほうがいいくらいでしょう」
「その結果に納得できないのはガンマだけ、か……」
先日、国王と王妃は息子にして第一王子であるガンマに公爵と話し合って婚約破棄のことを伝えた。無論、ガンマが学園を卒業した後に王族から除籍して男爵になることも同じく。その結果、ガンマが納得できなくてヤケを起こしたのだ。
『ふ、ふざけるなぁ! どうしてこの僕が男爵になんかならなきゃいけないんだよ! 父上! 母上! 僕はいずれ国王となってこの国を支えることが使命だと貴方達は言ったはずじゃないか! 僕はそのために生まれてきたんじゃないのか! その僕が王太子の立場だけじゃ飽き足らず男爵にされるだなんてあんまりだ! 政略結婚でミロアと婚約させたくせに婚約が破棄されれば僕を捨てるのか! もう一度ミロアを婚約者にすればいいじゃないか! 力ずくで言うことを聞かせたり王命でも出すなりすればいいじゃないか! 僕は認めないぞ! 僕は国王になるんだ! うるさい! 僕にさわるな! うわ嗚呼嗚呼ああああっ!』
半狂乱に陥った息子ガンマを国王と王妃は自室に軟禁した。親として、あまりにも見ていられなかったのだ。
「どうしてこのようなことになってしもうたのか……王家のためにと幼い頃に政略結婚を組んだのが早計であったか……」
「ですが、当時は戦争に敗けた王家の求心力を高めなければ大変なことになっていたでしょう。王家の威信を支えるためにも公爵家との婚約は必須でした。今の時代ならそうでもないのですがね……」
「そういう意味でもガンマには悪いことをした……。この反省を生かして第二王子のアナーザの婚約に関しては前よりも気をつけなくてはな」
二人はガンマの将来を憂いつつも、新たな王太子となるアナーザの将来を重んじる。最優先に考えるのはガンマではなくアナーザの方になるのは王族として必然なのだから。
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