第56.3話 先輩
(『陰』視点)
エイル殿が侍女になっているのは非常時に『陰』として旦那様やその御家族であるお嬢様をお守りするためだと聞かされている。事実、エイル殿は非常に優秀な『陰』だと今理解できる。無断で入れないようにしていた小生の部屋に入れたのもそうだが、小生と二人でいる今の雰囲気が普段と違うのだ。
「君が遅れて専属騎士になったのはこっちの落ち度だけど、気にしないでお嬢様に従ってほしい」
「分かっておりますとも」
「よろしい。では、昔話はこれくらいにして本題に入ろう」
「はい」
本題……お嬢様のためになる情報を学園で掴んでくることだ。そのためには詳しい詳細を全て頭に入れる必要がある。ガンマ殿下とその周辺は勿論、その他全てだ。
「お嬢様の望んでおられるのはガンマ殿下とその側近と取り巻きの者達、それに元側近と殿下が執心しているとされる男爵令嬢。その他にお嬢さまに関わろうとする可能性のある者全てを調べてほしい」
「それは承知しております。ですが、それだけを言うためではないでしょう。学園に不法侵入するのは我ら『陰』でも難しいはず……何しろ先代の『陰』の方々の手によって造られた学園なのですから」
スマートブレイブ学園は、戦争以前あったとされるマスカレード学園の崩壊した後に建てられたことで有名だが、その建築に先代の『陰』の方々が関わっていたのだ。マスカレード学園の崩壊は間者の手引に寄るもの、それならばと決して間者や侵入者が入れないように『その手』に詳しい『陰』に知識をもらって造られていたのだ。
「その通り、今の学園は『陰』ですら容易に入り込めぬことを前提に造られた。だからこそ、不法侵入は不可能と考えるが必然。お嬢様の足を引っ張らぬためにも今回は搦め手でいくしかない」
「その搦め手とは、学園内にいる『陰』に接触……今は教師をやっている者ですね」
「理解が早くて助かる」
小生……『ゴウル・アンディード』には学園の教師に知り合いなどいない。だが、『陰』としてなら話は別だ。そしてそれはエイル殿も同じ。いや、エイル殿のほうが顔が広いとも言える。これはそういう話なのだ。
「学園の『陰』……だった方には私から書状を書く。君はそれを渡すだけでいい。つまり、学園ではなくてその方の屋敷に忍び込み直接渡すだけでいいわけだ」
「……その方とは?」
エイル殿がどこか敬意を払い、今は屋敷を持つ。それが学園の『陰』だった者。それだけの情報で小生は大体予想がついた。我らの大先輩だということに。
「その方は学園の学園長でございますか?」
「その通り、スマートブレイブ学園の設立者とされるヤミズーク・マスカレードその人だ」
我らだからこそ分かるほどの大物との接触。それだけで小生は死すらも覚悟してしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます