第44話 根本的なところ

(前世の記憶も知識も関係なく……『私』の気持ちだけを伝えないと!)


「オルフェ、そんなこと気にしなくていいわよ!」


「ミ、ミロア!?」


「オルフェは、自分の家のためにやっただけなんでしょ!? それは貴族として仕方がないという道の一つだし、オルフェが周りを見返したいってことくらい分かるから、私は全然気にしないわよ!」


「っ!」


「だ、だから、私が許すかどうとかは考えなくていい……わけじゃないんだけど、私のことを側近のやつに報告するくらいでオルフェが気落ちする理由にしないでほしいの……! わ、私も今、頭が上手く整理できないからあれだけど……オルフェが、その……」



オルフェを励まそうとするミロアだったのだが、思ったよりも上手く伝えることができない。前世の記憶と知識に頼らずに、『ミロア・レトスノム』として声をかけようとするだけでミロアは上手く伝わるようにできなくなっていた。



(ど、どうしよう……本当に何を言えばいいか……こういう時は……って違う! 今は前世の記憶とか必要なくて)


「ふ、ふふふ……は、はははは……」


「え? オルフェ?」



しどろもどろになるミロアだったが、突然オルフェが軽く笑いだした。何事かと思ったミロアは思わず思考が止まってしまった。



「いや、御免。今だけ昔のミロアを思い出したんだ」


「昔の私?」


「うん。俺達が子供の頃、ミロアは今みたいに慌てると言いたいことが伝えきれなくて、滅茶苦茶になってただろ。今さっきのはその時のミロアと全く同じだったんでつい笑いがこみ上げてな……」


「なっ!? そんな昔のことを!?」



顔を少し赤く染めるミロアだったが否定できなかった。確かに子供の頃のミロアはオルフェの言うような少女だったのだ。ミロアもそのことを覚えているため恥ずかしくても反論できない。



「ひ、卑怯者……でもないけど、今そんなことを言ってる場合……いえ、遊びに来たんだから別にいいか……ってデリカシーが――」


「ぷっ、くふふふふ……ガンマ殿下のことが嫌いになって大人っぽくなったと思ったけど、根本的なところは変わってないんだな。なんだかホッとしちゃったよ。お陰様で気分が晴れたから気落ちする気もなくなったな」


「はぁ!? 何よそれ……」



オルフェに根本的なところは変わってないと言われてミロアは体中の力が抜けた気分になった。前世の記憶の影響で自分は全てにおいて変わったのだと思いそうだったのに、幼馴染にそんなことを言われてしまうと何だか自分が馬鹿みたいに思えてしまったのだ。



(あ、あれ〜? 私って本当は心だけなら変わってないの? それはそれで困るんだけど……子供のまま成長してないなんて言われるのはちょっと……)



そして、オルフェの言葉を『子供のままだ』と解釈したために情けなくも思った。

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