第33.2話 名ばかりの侯爵

(侯爵令息視点)



俺の名はオルフェ・イーノック。侯爵令息だ。一応上級貴族の立場にあるのだが、少し事情があってあまりその立場を上手く誇ることができない。何しろ侯爵と言っても名ばかり扱いされてしまうからだ。



俺が生まれる前にドープアント王国は戦争で敗けた。その時の戦いで上級貴族が数多く亡くなってしまったため、国力の低下を抑えようとした当時の王家は、強引に生き残った貴族の昇格をなさったのだ。



うちのイーノック家もその一つであり、もとは伯爵家だったところを強引に侯爵まで昇格されたわけだ。だが、その事実を快く思わない者が多い。我が家を名ばかりの侯爵とか呼ぶものも少なくない。特に伯爵や辺境伯の立場の者達に我が家を嫌うものが多い。



……うちの家は戦争で大した功績を上げていないせいなのもあるが、そんな家の嫡男に生まれた俺は肩身の狭い思いだった。だからこそ、俺は少しでも大きな功績を求めるようになった。名ばかりの侯爵などと呼ばれ続けるわけにはいかない。どんなことでも周りを見返すだけのことをしてみせる。たとえそれが、上の立場の貴族の小間使いだとしても。




――しかし、まさか侯爵令息である俺が伯爵令息に小間使いのようにされる日が来るとは思わなかった。




「ガンマ殿下の婚約者のミロア嬢の様子を見に行ってほしいのです。どのように変わられたか、どのように考えておられるのか、私に報告してきてほしいのです」



俺の前に現れて頼み事をしてきたこの男は伯爵令息マーク・アモウ。宰相の息子で王太子の側近だ。接点はなかったのだが、学生の立場故に顔を合わせることもある。そんな男が頼んできたのは、公爵令嬢の様子見だという。



この男は伯爵令息。つまり俺よりも立場は下なのだが、腐っても王太子の側近だ。悔しいが王族に関わる頼みごととあらば俺は断れない。



「わ、分かった……」



悔しい反面、丁度いいかとも思った。何故なら公爵令嬢……ミロアとは俺の幼馴染なのだ。



ミロア・レトスノム。俺の幼馴染は公爵家の娘であり、幼い頃は仲が良かった。だが、彼女が王太子の婚約者になってからは疎遠になった。あの頃の俺は少しミロアに惹かれていたんだけど、彼女はガンマ殿下一筋って感じになってしまったから諦めたけどな。



「何故、そんなことを俺に頼む? ミロアとガンマ殿下の間に何かあったのか?」


「……ここだけの話なのですが、ミロア嬢はガンマ殿下に愛想を尽かされたようなのです。公爵である父親に婚約解消を頼むほどに」


「え?」



聞き捨てならない事を聞いた。

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