第27.3話 『陰』

(公爵視点)



明日の朝に王宮に向かうことに変わりはない。だが、ミロアの言う通りの準備を整えてから行くつもりだ。今日のうちに私の護衛と屋敷に残す兵の人選を決めておこう。



ダスターとスタードは信頼できる強者だが老兵だ。ミロアの信頼もあるから屋敷の守りに置くのは確定。あの二人の息子たちを私の護衛に連れて行くことにしよう。親子揃って公爵親子を守ってもらうのだ。



私の護衛には長らく仕える者達でよかろう。戦争の経験もある者もいるゆえに奇襲・暗殺などに対処できるはずだ。『そういうこと』に経験がある者もいるから、本当に何かあっても大丈夫だろう。



若すぎる騎士にも屋敷に残ってもらうか。ミロアはどうも護身術を学びたいらしく、教えてくれる相手が必要なはずだからな。その相手には若い騎士がうってつけだ。女性騎士のなかでずば抜けた実力者がいるがミロアとは五歳くらい上でしかない。彼女ならミロアによく教えてくれるだろう。それに彼女はミロアの専属騎士候補だ。これを機に信頼関係を築いてくれるといい。



「他にも明日になる前に決めておくことが山積みだな。こんな気持は久方ぶりだ」



戦争の時代だった頃を思い出す。結局負けてしまったが、私も剣を振るって戦って計略を駆使して生き延びた猛者だと自負している。こんなふうに護衛の騎士を人選して作戦を考えるのはその頃の気持ちを少し思い出してしまう。



「例えるなら敵は王家、勝利条件はミロアとの婚約の白紙。その上で生きて屋敷に帰ることか……ふっ」



思わず苦笑する。仕える王家が仮想敵とするなど皮肉なことだ。いくらなんでも昔を思い出し過ぎだと自嘲する。しかし、娘のためならば王家だろうと容赦するわけにもいかん。



「『陰』を呼べ」


「はっ」



初老が目立ってきた執事長に命じて『陰』と呼ばれる者達を呼ぶ。彼らは我が公爵家の裏方に徹する特殊部隊のようなもの。裏方というのは情報収集や敵情視察・間者などの仕事のことだ。時には公にできないことも請け負う者達であり、彼らもまた私とミロア、そしてスマーシュとイマジーナを守るためにこれから働いてもらうことになる。



「『陰』達よ、よく来た。これからお前達には私達家族全員を守るために働いてもらうことになる。頼りにしておるぞ」


「命令を待っていました。ありがたき幸せ」



代表として年長の男が礼を述べる。目の前の男は若い頃の私を守るために尽くしてくれたが、今は『陰』の長をしている。私の信頼も厚い。だからこそ、もう一つ頼むことがあるのだ。



「お前達の中で誰か、ミロアの専属騎士の一人になってくれないだろうか?」

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