第20話 後ろ盾

「ガンマ殿下は王太子の地位におられるようですが、それはレトスノム公爵家が後ろ盾であるゆえに王太子の立場が確約されているのですぞ。その後ろ盾たる理由がお嬢様との婚約でありまする」


「ですが、言い換えれば公爵家はそれほどの力があるということです。公爵家単体の力は王家に及びませんが、公爵家の親戚や同じ派閥の貴族と手を組めば公爵家は王家すら上回る力がある。言っている意味がわかりますか?」


「な……な……」



つまり、レトスノム公爵家がその気になれば『力』で婚約解消もしくは婚約破棄くらい可能だということだ。



「そんな……そんな……」



腐っても王太子なのかガンマはダスターとスタードの言いたいことを理解したようで、見るからに顔を真っ青に変える。ただ、それでもまだ言いたいことはあるようだ。



「そ、それじゃあ、僕はどうなるんだ……? 婚約が解消したら僕は――」


「廃嫡。王太子から外されるかもしれませんね(そうなるといいけどね)」


「……」



ガンマはうなだれる。実を言うと、ガンマは両親に叱責された時に『王太子から外すことも考える』と言われていたのだ。レトスノム公爵家との政略結婚が白紙になれば後ろ盾が無くなる。つまり、王家と公爵家のパイプ役が無くなるわけだ。それゆえに王太子はガンマでなくてもいいということになる。


もっと言うならば、公爵家との縁が無くなればそれはガンマの責任になる。そんな者は王太子にふさわしくないと言われても仕方がない。



(いい顔ね。ミーヤ嬢のことを話題にしていたらここまで話が通じることはなかったわ)


「み、ミロア……今まで蔑ろにしてきたことも謝るから許してくれ。だから婚約解消だけは――」


「殿下は我らのお嬢様を蔑ろにされていたか」


「許しがたいことだ」



ダスターとスタードは、『蔑ろにしてきた』と聞いてガンマに詰め寄ろうとする。それも見る人の誰もが怖いと思わせるような顔つきで。要するに怒りの顔でガンマに迫るのだ。



「ひいいいいいい! ごめんなさいいいいいいいいい!」


「「だったら立ち去れ!」」


「はいいいいいいいいい!」



ガンマは恐怖に負けて客間から出ていった。そして、そのまま屋敷からも出ていった。屋敷から遠ざかっていく王族専用の馬車を眺めながら、ミロアはほくそ笑む。



「ぷっ、ふふふ、うまくいったわ……いいえ、まだね」


「お嬢様?」


「すぐにお父様にも知らせないといけないわ。今日中に帰って来るのでしょう?」



ミロアは後ろに控えるダスターとスタードを振り返る。その二人からはミロアの望む通りの言葉が返ってくる。

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