第17話 動揺させる

「み、ミロアよ。僕の気を引きたくて随分と印象を変えたのだな……」



冷静に努めようとしているが、ガンマは明らかに動揺している。それが分かる顔を見てミロアはそう判断した。少なくとも最初の作戦は成功したわけだ。



(これだけ外見が変化した私を見ればこの王子は動揺すると思ったわ。でももっと動揺させてあげる)


「しかし、一体どういうつもりだ? お前の父君のレトスノム公爵が僕とお前の婚約を解消してほしいなどと申し出たんだぞ! わざわざ公爵が王宮に出向いてきたせいで僕や父上と母上も大変だったんだぞ!」


(ざまあみろだわ。いえ、ざまぁ!)



ガンマは王宮でのことを思い出して怒鳴り出すが、ミロアは顔色変えることもなく淡々と返答した。内心では苦笑していたが顔には出さずにポーカーフェイス。



「それは私の方から父にお願いしたのです。私とガンマ殿下との婚約は続行不可能と判断しましたので」


「な、何?」


「ガンマ殿下は学園で仰っていたではありませんか……私のことを愛していない……『愛の無い政略結婚にすぎない。結婚することは仕方がないが、その先にお前を愛する僕はいない。お前が僕に愛されるなどと思うな』と」


「そ、それは……そうだが……」



ミロアは覚えている範囲でガンマのセリフをスラスラと述べる。ガンマの方は確かに自分が口にしたことなので気まずそうに視線を落としてしまう。



「あの時、そんなことを言われても信じられませんでしたが、学園で突き飛ばされてやっと気付かされたのです。私とガンマ殿下の婚約は間違っていたことを」


「お、おい……!」



それも事実だった。ガンマはミロアのことを愛していないと言った後、突き飛ばしたのだ。その後、ミロアは学園を休み、その間に公爵が婚約解消を申し出たのだ。婚約解消を申し出られても仕方のない話だが、ガンマにとっては腹立たしかった。あの後、両親である国王と王妃に学園でのことがバレて叱られたからだ。



「た、確かにそんな事もあったが、何も公爵に頼んで婚約解消までする必要はないだろ! あれだけ僕につきまとってきたくせに今更何だ!」


「そのことは私も反省しております。私のせいで殿下に不快な思いをさせたことをお詫びします。金輪際、私は殿下を追わないと誓います」


「なっ!?」



ガンマは目を見開いた。あのミロアが自分を追わないと言い出したのだ。信じられぬ言葉ゆえにガンマは自分を追いかけてきたミロアの姿を思い出す。うっとおしくて目障りでうるさくて面倒な女だったミロアの姿を。



(こ、こいつ、本当にミロアなのか!?)


「ですから、どうか殿下からも婚約解消の件につきましてはご了承ください」


「何だと!?」


「願わくば、殿下から国王陛下を説得して婚約解消をお認めに―――」


「ふざけんな!」

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