第4話 誰かの記憶
その後のことはまるで覚えていない。立ち上がったことも、帰りの馬車に乗ったことも、公爵邸に戻ったことも。かすかに父親から心配されたような覚えがあるくらいだ。ついでに、侍女がオロオロ動揺していたような……。
しかし、ミロアが自室の窓から飛び降りたことだけは頭に残っている。感情任せに自身で決めた自殺なのだから。そして、その過程で見た走馬灯と『別の誰かの記憶』のことも頭に残った。
◇
「う、ううん……」
真夜中、ミロアは目を覚ました。暗くても自身の屋敷の天井が見える事は分かるが、彼女の頭の中はそれどころではなくなっていた。
「私………は?」
最初にミロアの脳裏に浮かんでくるのは、走馬灯の最後に見た記憶、少なくとも彼女とは全くの別人の人生の記憶だった。そんなものを見てしまったミロアは困惑するしかない。
「わ、私は、ミロア……よね? もしかして違うの?」
自分とは違う人間の記憶。そういうものとしか思えないものを見てしまったミロアは、自分が何者なのかすら分からなくなる。彼女自身の記憶はあるのかと不安にもなったが、自分が『ミロア・レトスノム』だという記憶はしっかり頭の中にある。
「私はミロア・レトスノム……………それは紛れもない事実。だけど、『この女』の記憶は何なの? どうして私の頭の中に?」
自分は『ミロア・レトスノム』。それはハッキリ理解できる。しかし、今の彼女の頭には全くの別人の記憶もある状態だ。それが今の自分の頭の中にあるのだと彼女は何となく理解した。
「………とても尋常なことではないわ。私に何が起こったというの?」
走馬灯を見ている時に流れ込んだ他人の記憶、異常な事態に恐怖し動揺するミロアは、家族や身近な人たちに相談しようとベッドから起き上がる。転落した影響で体が痛むがそんなことはどうでもいいくらいに。
「私は………いや、駄目ね。変に思われるだけ……」
しかし、起き上がったと同時に、こんな話をしていいものかと思った。
体の痛みが教えてくれたが、ミロアは窓から飛び降りたのだ。それでは頭を打った衝撃でおかしくなったと思われそうだ。そもそもミロア自身も自分の頭がおかしくなったのではないかと疑っている。それなのに誰かにこんなことを告げるなんて……。
「こんなこと、人に話すべきではないわ。まずは、この『誰かの記憶』を整理してみましょう」
ミロアの頭にはまだ走馬灯の時に流れ込んだ記憶が残っている。ただ、そのすべてを処理できているというわけではなかったのだ。今は一人なのでじっくりと『誰かの記憶』を思い出しながら、その内容を暴いてから判断したほうがいい。ミロアはそう思って目をつむり記憶を思い出す。
「私じゃない女の人の人生の記憶みたいね……国も人種も文明も違うみたい……外国? でも、『ニホン』なんて聞いたことがない……海を超えた先の国の人? でも、文明は見たこともないというか、すごく発展しているように見える……ん? 本? 小説を読んでるけど、見たこともない文字……でも、内容が分かる?」
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