敗けヒロインの戦後処理

シンドローム

もっかい好きになってよ

第0話 空が青いなぁ

 昼休み。4月のまだ冷たい風を肌に受けながら、今時珍しく開放されている屋上で缶コーヒーを啜る。

 透き通るような空に浮かぶ雲はまるで⋅⋅⋅⋅⋅


「白いなぁ⋅⋅⋅⋅⋅」


 まるで⋅⋅⋅⋅⋅喩えが思い浮かばなかった。雲は浮かんでいるのに喩えは浮かばないとはこれ如何に。

 俺のような感性がイカれてる人間も落ち着くような日和だというのに、隣にはこの世の終わりのような顔をした女子がいる。


「⋅⋅⋅⋅⋅アイツら一緒にお昼食べてるのかな⋅⋅⋅⋅⋅」


 聖川 周。俺の親友の幼馴染みでクールな雰囲気を纏った女子。端正な顔立ちに、それなりに豊穣を向かえつつある体つき。眼を引く長い黒髪。ざっくり見て整った容姿をした⋅⋅⋅⋅⋅美少女と言って差し支えない娘。

 そんなバッチリヒロインな彼女は、現在進行形で失恋している。かれこれ半年は眼に光がない。


 敗けヒロイン。ラブコメなどで見られる、メインヒロインのライバル的存在。メインヒロインに負けず劣らずのスペックを有していながらも、主人公と結ばれることは決してないという残念なキャラ。

 しかし、敗けヒロインの存在がドラマチックさを生んだりなど、物語の盛り上りを高める重要なポジションでもある。

 敗けヒロインの特徴として、幼馴染みやお色気要員、クールキャラなどが挙げられる。


 聖川 周は幼馴染みの瀬戸 友士にフラれている。


 瀬戸 友士とはハイスペックイケメンの主人公。もう“主人公してるな!”ってくらいの朴念仁。その辺のラノベの主人公だ。ホント主人公って言葉が似合うようなやつ。

 そんな瀬戸 友士の恋人が、クラスのマドンナ的存在の江藤 詩穂。これまたハイスペック美少女そのもの。お似合いのお二人さんというわけだ。


 そして、俺はその主人公の親友の東雲 夏樹。ちょっと珍しい名字ってだけの性格と目付きの悪い男。ようは親友ポジだ。


 親友ポジの俺と、敗けヒロインの聖川 周。半年前に二人が恋仲になってから、傷を舐め合うように共に昼休みを過ごしている。


 俺の場合は聖川、瀬戸、江藤の三人に、“告白したいから手伝ってくれ”などと頼まれたりなどの面倒はあったが、三角関係と王道ラブコメを目の前で見物出来たため良しとする。当事者からしたらたまったものではないだろうが。

 聖川は未練タラタラで未だ中庭で乳繰り合ってる二人を直視出来ていない。

 俺は瀬戸としばらく遊んでない。


 このラブコメは確かに俺たちの関係を変える要因になったのだった。聖川は腫れ物扱いされ、俺は二人に遠慮してここ半年は絡んでない。結果、ボッチが二人出来た。

 進級と共にクラス替えで瀬戸、江藤は俺と別のクラスとなり、聖川は俺と同じクラスに。


「しねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしね⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅」


 隣で呪詛を唱える美少女。眼前にはカップル。最早良く見る光景になっているのが恐ろしい。

 

「聖川。呪詛を唱えるのは止めてくれ。笑いでコーヒーを吹きそうだ」


 聖川はピタリと呪詛を止めると眼を潤ませながら俺の腕にしがみつく。


「しののめぇ···もうわたしにはしののめしかいないんだぁ···きらいにならないでぇ···」


 もうコイツは駄目かもしれない。もうすぐ大型連休だというのに、友達と予定も立てず毎日このザマだ。俺はもう一度空を見上げクソでかため息を吐いた。


「空が青いなぁ」




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