110 エマ、キレるのである


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。前世はお婆ちゃんで間違いないけど、今世はババくさくないもん!


 夕食を終えて、エマの嫁発言にジュマルが反応してまた険悪になっていたので止めていたら、母親が帰って来た。


「ララちゃん。ちょっと……」


 エマの顔を見るなり母親は私を廊下に連れ出す。何かと思ったら「ララちゃんグレたの?」とか言われた。なので、誤解を解いて紹介してみた。


「わあ~。これが令和ギャルなのね。マツゲはツケマ? エクステとかはやらないの??」

「えっと……グイグイ来ますね」

「私もギャルに憧れてたの~」


 不良じゃないとわかった母親は質問攻めしているので、エマもたじたじ。どうやら母親は、学生時代はお金がなくてお洒落とは無縁だったから、思い切った姿のギャルが気になっていたらしい。


「ママ。エマが困ってるでしょ。はい、ごはん」

「豚汁が、五臓六腑に染み渡るぅぅ」

「胃袋掴まれてますね」

「そうなの。ララちゃん料理得意なのよ~」


 エサを与えたら、今度は私自慢。エマも話を逸らそうとしたみたいだけど、母親は食べながらでも止まる気配がない。

 そんなことをしていたら父親も帰って来て、私は廊下に連れ出されて「グレたの?」って……似た者夫婦め。まぁ私もエマのことを不良だと思っていたから同罪か。


 父親も紹介したけど、エマはたいした反応がない。こういった線の細いイケメンは恋愛対象外みたいだ。

 父親も父親で、エマから離れた場所に座ったから、年頃の女子に気を遣っているのかも? でも、毎回私の料理を食べてベタ褒めするのはやめてほしい。いいかげん慣れてよ。


 時間も時間なので、父親が車でエマを送ってくれることになったから私も乗り込み、気になることを質問してみる。


「パパって、ギャル苦手なの??」


 そう。父親はエマと一切目を合わせていなかったから当たりを付けてみたら、ギクッと肩が揺れた。


「べ、別に~。ギャルと付き合ったことあるし~」

「あ、そ。ママに教えてあげよっと」

「それはないだろ~~~」


 父親は墓穴を掘っていたので脅して聞き出してみたら、大学時代にギャルから「一目惚れしたしぃ!」と、押し切られて付き合ったらしい。

 しかし付き合ってみたら「服がダサい」とか「肌が白い」だとか「筋トレしろ」とか「友達もダサい」だとか「オタク」とか全否定されて、ギャル男に改造されそうになったんだとか。

 その上6股かけられてフラれたから、ギャルはトラウマになったんだって。


「「それはご愁傷様です……プププ」」

「笑ってるよな? だからギャルは嫌いなんだ! 初めての彼女だったんだぞ~~~!!」

「「アハハハハハ」」


 さらに墓穴を掘るもんだから、私とエマは笑いが止まらないのであったとさ。



 エマを送った帰り道では、死にそうな顔の父親に「いまのパパのほうがカッコイイ」とお世辞を言いまくったら、早くも復活。かわいそうだから母親には言わないよ。

 それからたまにエマがうちにやって来て、ジュマルと父親が機嫌悪そうにしていたら、幼馴染ミーズが訪ねて来た。


「ララちゃん。そのヤンキーに脅されてるんてしょ??」

「そんなヤンキーよりお姉さんたちと遊ぼ? ね??」

「えっと……なんの話してるの??」


 結菜ゆいなちゃんと愛莉あいりちゃんはエマを敵視しているので、意味がわからない。なので理由を聞いたら、ジュマルが「ララに変な女がつきまとってるねん」とか吹き込んだらしい。

 2人とも「ララちゃんに限って~」とか思いながら私のクラスを覗くと、ヤンキーと楽しそうに喋っていたからビビって、大翔ひろと君も連れて私を守りに来たんだとか……ぶっちゃけ、ジュマルの点数稼ぎだろ。


「ギャルなだけで、不良とかじゃないよ? てか、お兄ちゃん! 変なこと言わないでよ!!」

「だって、最近ララ連れないやん」

「そんなことないでしょ? ごはんだってあげてるし、ねこじゃらしで遊んであげてるじゃない??」

「「「ペットか!!」」」


 ジュマルが寂しそうな顔をするので私も優しい言い方に変わったら、エマ、結菜ちゃん、愛莉ちゃんのツッコミが重なった。仲良くなれそうだね。



 エマのことは幼馴染ミーズにも誤解が解けて、たまにうちのクラスに来てメイクの仕方を習ってた。ギャルってけっこう人気だな。クラスメートも習ってるし。

 そんな日々を過ごしていたら、あの季節がやって来た。ジュマルの甘々期だ。


 例の如く私にピッタリくっつくジュマルには、私は慣れたモノだけど初体験のエマは気持ち悪そうにしている。

 ある日、うちで英語の勉強会をしていたら、珍しくジュマルは早く帰って来て、そのまま私の膝の上に座ったのでエマはギョッとした顔になった。


「なんでララに乗ってんだよ」

「なんやねん。文句あるんか」

「文句だらけだわ」

「エマ。いいから。そっとしておいて」


 エマがツッコんだらジュマルはケンカ腰に返すので、また険悪になってる。私はそれを止めようと、常識的なエマのほうを注意したら怒りの表情になった。


「何がいいだよ。この際だから言わせてもらうけど、ララはアニキに甘すぎるんだよ」

「そんなことないって」


 私が穏便に済ませようとしてもエマはジュマルに標的を移す。


「お前もお前だ。ララが迷惑してるの気付けよ」

「あん?」

「いつもお前のケツ拭いて回ってるだろ。知らないなんて言わせねぇぞ」

「……そうなん?」


 ジュマルは本当に知らなかったので、エマは口をパクパクしてるな。ゴメン、バカなの。なのでエマは、私が愚痴っていることを説明してた。


「妹にそんなことさせて悪いと思わねぇのかよ!!」


 やっとこさジュマルが理解したら、エマもボルテージを上げた。


「ララ。大変やったんか?」

「ちょっとはね。でも、お兄ちゃんのためだから、ちっとも辛くないよ」

「やって??」


 温度の違う私たち。ジュマルが勝ち誇ったようにエマを見たら、エマはジュマルの胸ぐらを掴んで立たせた。


「どんだけバカなんだよ! お前はララの大事な時間を奪ってるんだよ! お前のせいで、ララは好きなことができないんだ! アニキなら、妹の幸せを一番に考えてやれよ!!」


 エマの剣幕に、ジュマルもどうしていいのかわからないのか、私とエマを交互に見た。


「離せや。もう寝る」


 ジュマルはエマの手をはたき落とし、それだけ言って自分の部屋に隠ったのであった……

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