102 いきなり優勝である
お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。タクシー登校は復活です。
私はもう中3だというのに過保護な両親が、ボディーガード無しには歩かせられないとか校長先生を説得して勝ち取ってくれたので、タクシーに乗るしかない。
どうせしばらくは放課後は高校に行くから、楽なことに越したことがないってのもある。あと、告白しようと私を待ち伏せしてる男子が山のようにいるし……うちの制服以外が多いから、テレビのせいだな。こりゃ危険だ。
完全に広瀬家のせいだけど対応は学校に任せて、私は上着だけ変えて高校の部活を視察。ジュマルがアホみたいに走り回る姿と、大量の女子が黄色い声援を送っている姿が目立つ。
いちおうジュマルはチームメートと上手くやっているけど、野球以外は相変わらず個人プレーが多いので、私が間に入ることが多い。そのせいで女子が私にブーイングしてる。
「妹ですよ~? マスクしてても目は隠せませんよ~?」
うっせぇのでちょっとだけ自己紹介してみたら、ブーイングはピタリと止まった。そりゃ意中の人の妹をけなせないよね。なんか全員、土下座してるように見えるけど……
サッカーは苦労してオフサイドを教えたからなんとかなると思うけど、バスケはもうちょっと試合らしくできるように見せたい。ポジション無視してずっとボール追い回すんだもの。
小一時間の野球の練習のあとはバスケに長く時間を注ぎ込み、サッカー方式を取り入れて、スリーポイントのトップ辺りから敵ゴールまでをジュマルの縄張りにしてみたら、けっこういい感じになったのでは?
厳密にいうと、4人でゴール下を固めるゾーンディフェンスらしいけど、そこまで詳しく説明してくれなくていいよ。「ジイをこれで倒した」とか興奮して言われても、なんの話かわからない。年寄りに何してんだ。
そんな感じでジュマルに構っていると公式戦が始まったので、野球部を軸にジュマルが出る試合は家族で応援に行っていたら、会場は日に日に観客が増えて行った。でも、まだ入場制限があるから、ほとんど外だ。
こんな地方の予選なのにと思ったら、ジュマル効果。スポーツ雑誌からテレビ局に情報が流れたから話題となり、観客が増えてしまったのだ。
もちろんスカウトの数も多いので、名刺だけいただいて追い返す。でも、やったことない競技の人もいるな……なんで??
さすがに気になって聞いてみたら「運動神経が凄まじいからなんでもいけんじゃね?」だとか……年俸によります!
年俸がプロ野球以下のスポーツはノーサンキュー。こいつらも追い返して、月日が流れるのであった。
『広瀬選手、甲子園史上3人目の完全試合、おめでとうございます』
『なんやそれ??』
夏には甲子園を予定通り制したから両親と共に涙ながらに喜んでいたけど、勝利者インタビューは恥ずかしい。
まったく噛み合わないインタビューは、チームメートが止めに入ってくれたけど、時すでに遅し。ジュマルが野球の知識なしにやっていたことが世間様にバレてしまった。
これはさすがに恥ずかしすぎるので、各部活の部員から面白いスポーツマンガやアニメを聞いて、全て両親に買ってもらった。でも、誰だ「巨人のスター」なんてあげたヤツは。高校生だろ?
とりあえずジュマルにはアニメのほうがいいだろうと部屋にテレビを置いて見させていたけど、大リーグボールを投げて壊しやがった!
正確には投球フォームを振り切って、テレビに手が当たってパッカーンとなったらしいけど、どんな力で殴ったらテレビが綺麗に割れるかわからない。
というわけで、ジュマルの部屋にテレビは禁止。何台割るかわからないもん。
ジュマルも高校生になっているから両親はスマホを買い与えていたけど、スマホも大リーグボールで投げてしまいそうなので、動画や電子書籍は禁止。結局マンガで読ませることになった。紙なら一発アウトにならないもん。
ちなみにスマホの使い方は両親が教えていたけど、私より時間が掛からなかったんだとか……うっそだ~。
ジュマルとメールでやり取りしてみたら普通に会話が成り立ったから、私は酷く落ち込みました。猫に負けただなんて……
気分転換に異世界の猫の動画を見ていたら、丸々一日カットされたところがあったけど、アレはなんだったんだろ? また「ピー音」が増えてるけど、これも時の賢者絡みかしら? なんでアマちゃんは教えてくれないのよ~。
なかなか私のモチベーションが上がらないなか2学期に入ると、私は本格的な受験モード。
リモート家庭教師からは「西高? 余裕余裕」と太鼓判は押されたけど、せっかくだから関西の最難関校にも記念に挑戦してみようと猛勉強しているのだ。
しかし、ジュマルも心配なのでたまに練習を見に行くと、心なしか元気がない。私の気のせいかと思って夜は机に向かって勉強していたら、零時近いのにドアが開いた。
「あれ? お兄ちゃん、寝てたんじゃないの??」
母親が夜食でも差し入れに来てくれたのかと思ったら、まさかのジュマル。質問に答えずに、何故か私の膝に座りやがった。
「何してるのよ?」
「ちょっと……ララはまだ寝ぇへんのか?」
「受験生だからね……って、どいてよ。勉強できないでしょ」
「ふ~ん……それって、そんなにオモロイんか?」
「私はけっこう面白いかな? 苦手な人には苦痛だろうけどね。お兄ちゃんも一緒にやる?」
「う~ん……寝る」
「自分の部屋で寝ろよ」
ジュマルはやっとどいてくれたけど、ベッドに入って丸まって眠ったので、私はもう少し勉強してから隣で眠るのであった……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます