006 ママ友である
お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。ちょっとやっちまった。
「やっぱりララちゃんもおかしくない?」
「うん。言葉を理解して使いこなしていたな……」
そう。ジュマルが母親をビンタしたから広瀬家崩壊になり兼ねないと思い、喋りすぎてしまったから両親に怪しまれているのだ。
「これって……神童ってヤツじゃない?」
「ああ。うちのララは天才だ~!」
でも、脳天気な両親のおかげで、その疑惑は早くも払拭。喋ってくれとめっちゃ擦り寄って来るので面倒くさい。これではジュマルの発声練習ができないじゃないの。
だがしかし、ある程度は終わっていたから、私が両親に命令していたらジュマルもマネし出した。
「ママ、ジュス」
「ジュース? ジュマ君もジュース飲みたいの??」
「あいっ」
「ダバ~~~」
「ジュス、ジュス!」
そのおかげでジュマルも少しずつ喋れるようになってるけど、母親は泣きすぎ。ジュマルにせっつかれてる。
「いつになったらパパと呼んでくれるんだ~~~」
「フシャーーー!」
あと、父親は残念。いまだに広瀬家ヒエラルキーの最下位と思われているから、ジュマルに引っ掻かれてる。
「ララ~? ジュマルとの仲を取り持ってくれないかな??」
それが嫌なのか、私に頼られても困る。私、まだ赤ちゃんだよ?
「パパ、がんば」
「そんな~~~」
なので突き放す私であったとさ。
ジュマルが少しずつ喋れる言葉が増えるなか月日は流れて、ジュマルが3歳。私も2歳の誕生日も過ぎると、顔色の悪い両親に連れられていつもの公園にやって来た。
「ジュマル。待てだぞ? 待てだからな??」
「にゃ~~~!!」
「やっぱり~~~!!」
父親がどんなに言ってもジュマルは聞きゃしない。ベビーカーの拘束を解かれたら、走り出して父親を引っ張り回す。
「あなた。頑張って~。ララちゃんはあっちで遊ぼっか?」
「……あい」
母親がそう言うのだから、私も他人事。ちょっと恥ずかしいもん。しかし、母親はいつも通り公園の端に連れて行こうとするので、私は無理矢理にでも止める。
「ゾウさん、ゾウさん」
「え……すべり台滑りたいの?」
「あいっ」
「すべり台はちょっと早いかな~?」
「だいじょぶ」
2歳なら滑っても大丈夫なはずなのに、母親は周りのママさん方に何か言われたくないからか私を止めるので揉めていたら、近所のママさんらしき3人が近付き、気が強そうなリーダー格の女性が声を掛ける。
「ちょっとあなた。その子にすべり台は早いんじゃないですか?」
「す、すみません。すぐに行きますので……」
それだけで母親は申し訳なさそうに謝るので、このシチュエーションを待っていた私の出番だ。
「はじめまちて、ひろせララでちゅ。こんごとも、ママともどもよろちくおねがいちまちゅ」
「「「「え……」」」」
ベビーカーに乗っている幼児が言うようなセリフではないことを言ってみたら、母親まで固まってしまった。
「あくちゅ、あくちゅ」
「え、ええ……賢い子ね~」
「エッヘン」
リーダー格のママさんに私が手を差し出したら、興味本位にしゃがみ込んで手を握って笑顔まで見せてくれた。
「いくつなの?」
「にちゃい」
「歳まで言えるのね。さっきのも広瀬さんが教えたの?」
「いえ……この子はいつの間にか言葉を覚えてて……私が韓流ドラマ好きだから、ドラマの影響でしょうか?」
「アニメならわかるけど、韓流ドラマなんて見せてるのね」
「はあ……アニメより喜ぶもので……変ですよね」
「ララちゃんが喜んでいるならいいんじゃない。ね~?」
「あいっ!」
ひとまず私が間に入ることで、母親もママさん方と喋れるようになり、自己紹介なんかして緊張がほぐれて来た。
「あの時は悪かったわね。ごめんなさい」
「え?」
「ジュマル君を初めて連れて来た時ですよ。酷いこと言っちゃったから……」
どうやらリーダ格のママさん、木原さんはジュマルと同い年の子供がいるとのこと。
最初に会った時に挨拶はしたのだが、ジュマルがハイハイで走り回り、ドロッドロの手で自分の子供に襲い掛かったから「リードでもつけたらどうなの!」とかキレてしまったらしい。
「いえ! うちのジュマルが悪いから、謝罪なんて必要ありません」
「でも、そのせいで本当にリードをつけるようになったじゃないですか。普通、子供にそんなことしませんよ」
「いえいえ。あのアドバイスがなかったら、ジュマルは何回車に轢かれていたか……ありがとうございました!」
「いや、アドバイスじゃなくてね……」
「あの子、2回も車に轢かれてるんですよ。本当に気にしないでください」
「それはそれで大丈夫なの??」
木原さんは申し訳なさそうにしていたけど、母親の爆弾発言で興味が移る。私もだ。
ちなみにジュマルが車に轢かれたのは事実。家から飛び出したり、ベビーカーから飛び下りて交差点に飛び出して轢かれたらしいが、どちらとも奇跡的に無傷だったそうだ。
「凄いですね……他にも何かあります??」
「それからは家に閉じ込めていたので……あ、2階や3階から何度か落ちましたけど、綺麗に着地してましたね」
「猫っぽいと思っていましたけど、本当に猫みたいですね」
「はい。本当に猫みたいなんですよ」
そこからは、ジュマルの猫っぽい話で笑いを取る母親。元より木原さんたちはジュマルが不思議でならなかったから、ちゃんと話をしてみたかったみたいだ。
私としても、聞いたことのない話がいっぱい出て来るから大笑い。そのせいで、他のママさん方も集まって来て母親は大人気だ。
「あはは。あ~……面白い。もっと早く声を掛けておけばよかったわ」
「私も嫌われていると思っていたから、誤解が解けてよかったです」
「嫌いというか、子供を守るためには……」
「ですよね……」
「でちゅよね~」
「「「「「あはははは」」」」」
仲良くなったかと思えたが、母親がネガティブなことを言い出したので、私が合いの手を入れたら大爆笑。してやったりだ。
「まぁ、何かあったら相談して。猫の育て方は知らないけどね」
「あ、ありがとうございます! 子供の育て方を教えてください!!」
「「「「「あはははは」」」」」
こうして大爆笑のなか、母親に初めてのママ友ができたのであった……
「ジュマル! 待てだ~~~!!」
いまだジュマルに引き回されている父親であったとさ。
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