お兄ちゃんの前世は猫である。その秘密を知っている私は転生者である。

@ma-no

幼児期である

001 私は赤ちゃんである


 私は赤ちゃんである。名前はまだない。


 お母さんのお腹の中から出た瞬間から私の新しい人生が始まったのだが、何もできないからちっとも面白くない。

 おそらく私は、早産で産まれて来たのだと思う。毎日誰かの謝る声や泣く声、励ます声が聞こえて来るから間違いないだろう。


 そんなに泣かないでと言ってあげたいけど、目も開けられないし声も出せないのだから私にはどうしようもない。しかし、耳は聞こえているから、名前だけはわかった。


 広瀬ララ。私の名前は広瀬ララだ。


 ただし、産まれたばかりだから覚醒と睡眠の繰り返しで、産まれて何日目かもサッパリわからない。ミルクとたまに誰かの指を握っているぐらいしか生きている実感も持てない。

 まぁ私には、特殊な力があるから暇な時間も使いようがある。そのおかげで毎日笑顔だから、母親らしき声も日に日に明るくなって来た。



 それから長い時が過ぎ、目が開き、保育器から出て病室に移動した頃に、両親が小さな男の子を抱っこヒモで縛り付けてやって来た。


「ララちゃんのお兄ちゃんですよ~? ジュマル君ですよ~? お兄ちゃん、ララちゃんですよ~? ご挨拶できる~??」

「にゃ~」

「あはは。妹に会えて嬉しいって言ってるぞ」


 どうやら私には兄がいるみたいだ。綺麗な母親がジュマルという兄に何か言わせていたが、かっこいい父親の通訳は間違っていると思う。ハッキリと「にゃ~」って言ったもん。


 でも、赤ちゃんが「にゃ~」とか言うものなのかな?


 よくわからない顔合わせも終わり、また時間が過ぎると、ようやく私は病院をあとにしたのであった……



 父親の運転するめっちゃ高そうな車に揺られてやって来た場所は、兵庫県の高級住宅地にあるこれまた高そうなスタイリッシュな家。スタートは思いもよらなかったが、この家に入って、やっとスタートラインに立った気分になった。

 しかし、私は何もできない赤ちゃん。毎日マズイ物を飲まされて食べさせられ、ベビーベッドに監禁されている。少し言いすぎだが、前世の知識のある私には辛い……ミルクは哺乳瓶でいいから~~~!


 屈辱と恥辱に耐える毎日を過ごし、寝返りを打てるようになった頃に、いつものように寝室のベビーベッドで目を閉じていたら、ドアが開いて何かが入って来た。


 ガサガサドスドス、ガサガサドスドス……


 その音は私の寝ているベッドの下まで来て動き回っている。


(なになになに? なんか動き回ってる~~~!)


 その音に恐怖を覚えた私だったが、ペットでも飼っているのだと気付いて落ち着きを取り戻し、寝返りを打って下を見た。


(アレ? どこに行った??)


 しかしそれと同時に動き回っていた何かは動きを止めた。


「にゃ~~~」


(あ、猫か。ビックリさせないでよね~)


 その声に安心した私は、声がした後方に寝返りを打つと、声を出した何かはベビーベッドの柵から顔を出していた。


(お……お兄ちゃん?)


 そこには、ジュマルの顔。


「にゃ~~~」


(にゃ~~~って、なに~~~!?)


 猫だと思っていた私は取り乱す。


(わっ! なんかカリカリし出した!! え? え? え~~~!?)


 そしてジュマルは柵を引っ掻いていたと思ったら、またベッドの周りをハイハイで走り回る。その予期せぬ行動に私は寝返りを繰り返していたら、ジュマルは離れて行ったと思ったのも束の間。

 凄い速度で近付き、柵に手を掛け足を掛け、その勢いで飛び上がった。


(はあ~~~!? し、死ぬ! 内蔵破裂で死ぬ!!)


 その高さは、幼児どころか人間が飛ぶ高さではなかったので、私は最悪のことを思い浮かべて目を閉じた。


(……なにも、ない……)


 だが、重みもなければ音も揺れもなし。夢でも見たのかと私はそうっと目を開けた。


「にゃ~~~」


 するとジュマルの顔が目の前にあり、ベロンと顔を舐められた。


(なになになに? え? え? え?)


 ジュマルが顔をベロベロ舐めて来るので、私はますます混乱。


(ちょっ! 口はダメ! 初めては、今度はイケメンって決めてるの~~~!!)


 私は口だけは両手で死守して、ファーストキスはなんとか阻止。しかし防御に徹していてもジュマルの舐め回しは止まらないので、最終手段だ。


「オッギャ~~~! オギャ~~~!!」


 赤ちゃんの泣き声だ。その声に怯んだジュマルは固まり、母親がダッシュでやって来てくれた。


「あら、ジュマ君。そんなところにどうやって入ったの? ララちゃんはビックリしたんだね~。はい、ジュマ君は出ようね~」


 母親はジュマルを抱き上げ、私の胸をトントンと撫でて機嫌を取る。


「よしよし。お兄ちゃんだから怖くないのよ~? ジュマ君も、ララちゃんが驚くから入っちゃダメだよ~?」


 こうして危機的状況を脱した私であったが、思うことはある。


(いやいやいやいや。ジュマルってヤツ、めっちゃ飛んだんだよ? それにハイハイのスピード、めちゃくちゃ速くない? 何この子……あと、お母さん、のん気すぎない??)


 せっかくお金持ちに生まれたのに、早くも家族に不満を持つ0歳の私であった……



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一週間ほど毎日2話更新します。

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