ホーリーナイト
花森ちと
リアム
どこかの国のありふれた町に雪がつもりました。まだ早朝でしたので村人はほとんど寝静まっています。
すると、町のはずれに住むリアムが緑色の扉からひょっこり顔を出しました。この愛らしい男の子はやわらかな頬を真っ赤に染めて、いつかお祖母さんのお屋敷にあった銀食器のように変わった町を眺めながら、ただただその美しさに驚いています。
それからリアムは一度家に入ると、コートを何枚も着て、マフラーも手袋もすっかり身につけました。その音を聞きつけた従順な弟分は、リアムの寝床から這い出ると、心配そうに尻尾をパタパタ動かしては幼い主人の支度を見守っています。
ちいさな探険家はたった今から冒険の旅に出ようとしているのです。
リアムは老いた飼い犬の鼻にキスをして言いました。
「ごめんよ、バディ。ぼくは父さんに会いに行かなくちゃいけないんだ」リアムはバディの金色の耳を撫でて続けます。「だって母さんが言ってたんだよ。教会に、父さんが『せんじょう』から帰ってくるんだ、って」
リアムの父親は息子がまだ赤ん坊のうちにベトナムへ赴いていました。
彼は手紙を愛する家族に送ることを何年も忘れることはありませんでした。しかしリアムが4つになった年から、8,500マイルも離れた異国の手紙は届かなくなってしまったのです。
しかしこの朝はこれまでの悲しみに終止符を打つ、すてきな朝でした。
だいすきな父さんが帰ってくるのですから!
素晴らしいクリスマス・イヴのはじまりです。
リアムはこれからの喜びに待ちかねて、まだ眠っている母親を出し抜いて父親に会いに行こうとしていました。
父親が待っているという教会はリアムたちの家からかなり離れていました。リアムの住む家とは正反対の町はずれにあるのです。
しかしこの愛らしい勇者は恐れを知りません。彼は気の遠くなるような白い征途をじっと見さだめます。
「バディ。ぼくはそろそろ行くよ」
バディは瞳を潤ませて「クーン」と訴えると、リアムの脚にすり寄ります。
「わかった、わかったよ。きみも一緒にぼくと行くかい? 実はね、やっぱり、ぼく独りだけじゃ寂しかったんだ」
バディは「わん!」と歓声を上げます。
リアムは慌ててバディをなだめます。「しっー! 母さんが起きてしまうよ。それじゃ、そろそろ出発しようか。母さんが目を覚ます前にね」
こどもたちは旅のはじめの一歩を踏み出しました。視界はほのかに明るく闇を覆い隠しています。
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