サキュバスとニート(別荘)

有象利路

《大縄淫魔》①


※本エピソードは文庫本一巻と二巻の間にあった話です※



《あらすじ》

ある日突然、小学生の愛羽ちゃんの前から姿を消したイン子!

もう二度と会えないのかな……。

そう思っていた矢先に帰ってきたイン子!!

というわけで大縄跳びで対決じゃい!!!!



《登場淫&人物紹介》


<イン子>

破天荒な淫魔サキュバスにして本作のヒロイン❤(諸説有り)

ダラダラするのとパチンコが大好き❤

絶望的に運動神経がない❤

最近まで実家(異世界)に帰っていたけど色々あってこちらに戻ってきた♥

精神年齢はキッズと大差なし♥♥


洲垣すがき愛羽めう

生意気な近所の小学四年生❤

あの手この手でイン子を愚弄するのが好き❤

でもそんなイン子のことはとっても大好き❤❤


二十楽はたら和友かずとも

イン子の飼い主




* * *




 今度はいつ会えるのか?

 それが親戚なら、最低でも年始に一度は顔を合わせるから、わざわざ訊く必要はない。

 友達だったのなら、また学校で顔を合わせるし、仮に転校するとしても行き先を訊ける。

 何より、今は情報伝達手段の発達した世の中だ。小学生もスマホを持つ時代だ。

 もっとも、愛羽はスマホをまだ持ってはいないが……いずれにせよ手は多くある。

 会おうと思えば、会えないことなんてない。世界は意外にも狭いと、愛羽は考える。


 では相手が、素性がよく分からない近所のコスプレイヤーの女性なら?

 世界の広さを、愛羽はその女性から学んだ。否、痛感させられた。

 女性は日本人なのかどうかも怪しい。日本語は達者だが、日本の文化全般に疎かった。

 スマホの類も持っていない。電子機器についてはおばあちゃんよりも疎い。

 でもコスプレイヤーとしての矜持は一流で、何を訊いても「淫魔サキュバスだし」としか言わない。

 何かを隠しているような素振りも見せないから、本気でそう言っているのが分かる。


 だから真贋はどうあれ、彼女は本当に淫魔サキュバスなのだろう。

サンタさんの正体をわざわざバラさないように、きっとそうなのだ……と、愛羽は判断する。

 そういうアレな部分も含めて、愛羽は淫魔サキュバス――イン子と名乗る彼女のことが大好きだった。


 何せ似たような人間(淫魔サキュバス?)など周りに存在しない。居てたまるか、とも言える。

 それでいて面倒見は良くて、子供の愛羽にもイン子は同じ目線で接してくれる。

 年齢差を気にしないのか、本淫の精神年齢が幼いのか、そこは何とも言えないが。

 からかうと面白いし、ただ眺めているだけでも面白いし、喋るとやっぱり面白い。

 とにかく面白いのだ、イン子は。レイヤーなだけあって見た目も可愛い。中身も可愛い。


 出会ってからそこまで長くないのに、愛羽はイン子のことを親友のように思う。

 親にも度々話している。そんな年上の、自慢の友達が出来た、と。いつも嬉しそうに。


 しかしそれは、愛羽の身勝手な、上辺だけの関係だったのだろう。

 旅行者と仲良くなったところで、いつかはどこかへ旅立ってしまう。

 結局のところ愛羽は、イン子という淫魔サキュバスについて、何も知らなかったのだ。

 出身も。本名も。家族構成も。過去も。親友なら知っているべき、何もかもを。


 ――イン子はある日突然、消えてしまった。


 煙か、或いは夢のごとく。そんな淫魔サキュバスなんて、嘘だったかのように。

 少なくとも、友達だと思っていた愛羽に……何も告げることなく、唐突に。

 故に訂正すべきなのだろう。


(おねーさんと愛羽は、友達じゃなかったんだね)


 友達だったのなら、どこに行くかぐらいは絶対に教えてくれるはず。

 愛羽にとってイン子は親友だが、イン子から見た愛羽は――単なるコドモでしかない。

 そう考えると、虚しくはあるが、どこか腑に落ちた。

 大人がわざわざ近所のコドモに、自分のスケジュール帳を見せはしないから。


(ひどいよ……)


 それでも、愛羽はコドモだから……納得など、到底出来なかったが。

 いつもイン子と遊んでいた公園で、愛羽は独り虚しく鉄棒を握る。


 イン子の彼氏――正確にはもう元カレだ――に、改めて訊いても無駄だろう。

 この前イン子への伝言だけお願いしたが、果たして彼女へ届くのか。

 元カレ自身も、イン子がどこに居るのかは分かっていないように見えた。

 明け透けなようでいて、実は一番謎めいている。イン子らしいといえばらしい。


(おねーさん。今度はいつ、会えるの?)


 一分だけでもいい。十秒だけでもいい。一言だけでもいい。

 もう一度イン子と会いたい。そしてきちんと、お別れを言いたい。

 そこから先、二度と会えなくなってもいいから。

 こんな形でお別れするなんて……絶対に嫌だ。

 イン子のことを想い、愛羽は顔を伏せる。じわりと、目頭が熱くなる。

 何度泣いたところで、イン子が現れるわけもないのに――




「うーっすメウ。イン子様が久々に遊んでやらァ~」




「え」


 ――現れた……。

 否、もしかしたら幻覚かもしれない。そういう薬物の話を最近学校で習った。

 おクスリはダメ、ゼッタイ。まあヤってるとしたらイン子側だろうが。

 言葉が出て来ない。イン子はいつものように馬鹿面を引っ提げている。


「なによそんなパチンコでケツ浮き当たりを体験したような顔して」

「…………」

「さてはまたポールダンス対決かぁ!? 見てろオンドレ!!」


 修行の成果を見せてやらァ!! イン子は勝手にそう吠えた。

 よもや鉄棒修行で姿を消したのか。そこまでアホなのか。愛羽には分からない。

 イン子はグッと鉄棒を握ると、逆上がりを披露する。


 ――ビタァァァァァァン!!



「ア゛ア゛ア゛――――――――――ッッ!!」



 やっぱ全然披露出来なかった。前と大差ない……どころかキレが悪くなっている。

 陸に打ち上げられた魚か亀か、背中を痛打したイン子は仰向けで悶えていた。

 そこへ覆い被さるようにして、愛羽は飛び込んだ。


 柔らかく温かく、確かに鼓動を感じる。夢や幻ではない。現実のもの。

 最早疑うべくもない。

 イン子は、いきなり居なくなって、そしていきなり帰ってきた。

 そこにドラマなどありはしない。

 そもそも出会いの時点で、そんなものはなかったから。

 ならば再会も、そうあるべきだ。ありふれていて、くだらなくて、唐突でいい。


「う……うわぁぁあぁぁん! あぁぁぁああぁぁぁぁぁん!!」

おめェ……!!」


 人目を憚らずに、愛羽は泣いた。イン子は苦しそうな声を出していた。

 コドモであるのなら、コドモらしくワガママなことを考える。


 一言だけより。十秒だけより。一分だけより。

 もっとずっと、時間が許す限り、この奇妙な淫魔(サキュバス)と一緒に居たい。

 それが愛羽の『願い』だとするなら――きっとイン子は叶えてやるだろう。


「……ま、あんたまだガキだし。泣ける時に泣いときゃいいわ」


 召喚物云々や異界の存在云々ではなく、愛羽の一淫ひとりの友人として。

 イン子は愛羽の背中に腕を回して、その頭を撫でてやった。


 愛羽とイン子の、新たな日常は、こうして再び幕を開ける――





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