ゆるコワ! ~無敵のJKが心霊スポットに凸しまくる~
谷尾銀/角川文庫 キャラクター文芸
プロローグ
プロローグ
雪は
エアコンの暖気に促され、
その視線の先はテレビのセンバツ中継に向けられており、ちょうど高校球児が外側へ流れ落ちる変化球に対して金属バットを鋭く振り抜いたところだった。
けたたましい金属音が鳴り響き、ボールが三遊間を駆け抜ける。
それと、ほぼ同時だった。
「私たちも部活で青春をしてみるっていうのはどうかしら?」
その声に反応した桜井は癖毛のポニーテールをわずかに揺らしながら、隣のソファーに座る彼女の方を見た。
幼い丸顔の自分とは対照的な大人びたうりざね顔。服装もガーリーな部屋着のワンピースと正反対だった。黒く真っすぐな長髪で、身長は頭一つ分くらい高い。
友人の
ここは彼女の家のリビングで、二人のたまり場でもあった。だいたい、休日はこの場所で、日がな一日、映画鑑賞やゲームをして過ごしていた。
ともあれ、桜井が茅野の唐突な提案に対して首を傾げていると、彼女は悪巧みをしているときの顔で話を続けた。
「……オカルト研究会なんて、どう?」
「循、そういうの詳しいもんね」
桜井の言葉に茅野は
「私ならどうとでも活動内容をでっちあげる事ができるわ。適当に活動している振りをして、部費を使って、私たちのやりたい事を自由にやりましょう。何でもいいわ」
しかし、桜井は苦笑しながらこの提案に難色を示す。
「でもさ、そういう……何だっけ。こうひの……してきゆうりょう……?」
「公費の私的流用かしら?」
「そう、それ」
「難しい言葉を知っているのね。梨沙さん」
「それはどうも」
「で、それがどうしたのかしら?」
「うん。何か、そういうのって、悪い政治家みたいで嫌なんだけど」
その指摘を受けた茅野は何も言わず、テーブルの上で湯気を立ちのぼらせたカップを手に取り、澄まし顔で、たっぷりと甘くした
「焼き肉食べ放題」
「よし、やろう」
「即落ちとは恐れいるわ」
「焼き肉はオカルトだからね。白米が勝手に消える」
桜井が、きりっ、とした顔つきで
「でも、部なんて、そんなに簡単に作れるの?」
「簡単ではないけれど可能ね。春休みが明けて学校が始まったら動きましょう」
「何だか、面白そう」
そう答えると、桜井は菓子入れの中のバタークッキーに手を伸ばし、もしゃもしゃと食べ始めた。そこで、茅野がテーブルの上に放り投げてあったゲームのコントローラーを握ってほくそ笑む。
「……で、どっちが部長になるかだけど、これで決めましょう」
「負けた方? 勝った方?」
「負けた方が部長」
「いいねえ。ゲームは何にする?」
「せっかくだから、野球ゲームにしましょう」
そう言って、茅野はテレビにリモコンを向ける。
……当初は桜井梨沙も、オカルト好きの茅野循ですら、まともに活動する気はなかった。心霊スポットにわざわざ足を踏み入れるつもりなど、さらさらなかったのである。
早春の何気ない昼下がりの出来事だった。
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