第29話 バイトの面接
妹の家に来てから10日が過ぎた。
もう暫くの間は、のんびりさせてもらおうと思う。
雄二が学校で使っている教材を借りて勉強したり、徒歩で行ける範囲を散策したりして過ごしている。
駅を挟んで、いま住んでいる場所と反対側では大きく景観が異る。
こちら側は、俺の暮らしていた頃とたいして変わりはない。
反対側は魔力渦が出現したことにより被災地になった。
俺の実家があった辺りだ。
高い防御壁で周囲を囲まれ、一般人は立ち入ることができない。
ここの魔力渦は他と大きく違う。
防御壁の中は魔力研究所の私有地になっていて、危険はほぼないらしい。
世界ではじめて異世界と平和的交流を確立し、今では異世界人と文化交流できる場所になっている。
だからここは、国から特区認定(租界地)されている治外法権が存在する、特殊な場所なのだそうだ。
◆
数日前、俺を訪ねて魔力研究所のエージェントがやって来た。
特区で、通訳のアルバイトをしてみないかと打診されたのだ。
もし、魔力研究所の活動に共感を持ったなら、そのまま就職することも可能らしい。
ここにきて、就職先の候補が増えた。
バイト先が決まれば、妹の家に生活費を入れられそうで嬉しかった。
当然と言えば当然だが、俺の素性を魔力研究所は知っている。
そんな訳で、これからバイトの面接を受けるため入場門にやって来た。
身分証と入場許可証を見せて中に入る。
しばらく歩くと、とんでもない光景が広がっていた。
異世界の物を売る店や、地球の特産品を売る店なんかが多く出店している市場がある。
多くの異世界人が、人間と共存している光景が広がっている。
ニュース記事で読んだことはあったが……。
ここまで平和的な関係を異世界と築いている事実に、ただただ驚愕した。
俺が呆けていると、「足守さんですか?」と声を掛けられた。
「あ、はい。足守蒼大です」
「お待たせしました。案内係のエルタンです。よろしくお願いします」
「はい。よろしくお願いします」
外国人なのだろう。
金髪の綺麗な長髪と、色白で透き通るような美しい肌の女性だった。
一花には感じない色香を
エルタンさんに案内された応接室で待っていると、
「お待たせして申し訳ありません。本日は、ようこそおいでくださいました」
入って来た男性が深々と頭を下げている。
「いえ。頭を上げてください。こちらこそ、お誘いありがとうございます」
二人で頭を下げ合う、そんな日本人らしい出会いだった。
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