第10話 自由はまだ遠かった



 人吉先生がやって来て、昨日と同じ検査をした。


 結果は、全身麻痺の後遺症は解消されたから、拘束具を外してくれるそうだ。


 手足の指もちゃんと動かせるし、感覚もある。


 これでやっと身体を動かせるようになるのかと思うと、『ヒャッハー』と叫びたくなる。


 カチャカチャと音を立てながら拘束具が外されていく。


 身体を締め付けられていた感じが薄れ、開放感が込み上げてきた。


「手を上げてみてください」


「はい」


 両手を上げてみる。


 よし。問題ないな。


「いいですね。次は足を上げてみてください」


 あれ?


「これくらいが限界ですか?」


「そのようだ」


 何だ? とくに違和感はないが力が入らない感じだ。


「痛みや違和感はありますか?」


「いや。とくにないな。ただ、力が入らない感じかな」


「わかりました。検査をしてみます。

 鹿妻かづまさん、車いすの用意をしてください」


「はい」



 車いすに乗せられて別の部屋へと運ばれた。


 押してくれたのは昨日の看護師で、名前は『カヅマ』さんらしい。


 心の日記に書いておこう。


 我ながら狭量だと思う。


 でも、この世界に戻って来て最初に味わった痛みがアレでは、情けなさすぎるんだ!


 まぁ。やつ当たりだ。



 色々な検査を受けて出た結果は、骨・神経・筋肉には問題がないから、リハビリで元に戻るだろうってことだった。


 別の専門医が後から診察に来るらしい。


 やっぱ、あの神経麻痺装置は問題アリなんじゃないか?


 自分で回復魔法を使えるから試してみたいと伝えたら、ここでは魔法は使えないし使おうとするなと、釘を刺された。


 小さな魔法でも、病院で誤爆させるわけにはいかないかと納得した。



「顔を合わせるのは、はじめてですね。よろしくお願いします」


 やって来たのは精神科の先生で、島松しままつ先生だったか?


 今日は怒涛の問診攻めだった。


 簡単な質問から始まり、異世界での事などをたくさん聞かれた。


 たまに質問の意味が理解できなくて、どう答えればいいのか解らないことがあった。


 そのことを伝えたら、


「深く考えないで直感で答えてください」


 後から思い返してみれば、アレは心理テストだったのかもしれない。


 俺のような異世界帰りの人が多く居るとも思えないし、これから島松先生とは長い付き合いになるのかもしれないな……。


 ハァ……。気が重い。


 異世界症候群みたいな、オモシロ診断名を付けられるのは回避したい。


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