どこに行けば?


 時間がながれるのは早い。……というか、早すぎる。入試が終わって、ちょこちょこと咲ちゃんとかひまり、偶に斗真たちと遊んでいたら、いつの間にか学年末考査。別にずっと遊んでいたわけではない俺は悠々赤点回避。だが、彼女にかまけていた斗真は赤点で教室に絶叫が響き、ここで初めてもう三学期が終わることに気がついたのだ。遅い、遅いぞ自分!


「もう学年が終わるのかあ」

「何だあ?今更か和人!俺は赤点の補充してるときには思ってたぜ!」


 何を誇っているのか、えっへんと言わんばかりに胸を張る斗真にため息を吐く。気楽だなあ、斗真は。俺は憂鬱だよ。


「というか、なんでそんなに気落ちしてるんだよ。春休みも近いし、みんな結構浮足立ってるぜ?」

「いや、二年って大変そうな感じがして好きじゃないんだよ」

 

 別になにか得することもないしな。学年上がり損じゃないか?本当に。勉強も難しくなるし。

 そう言ってやると、斗真は確かにな、と言う。そうしてうんうん考えて、でもさ、と口を開く。


「お前は妹と、その友達の子が入ってくるんだろ?」

「そ、そうだった……!」


 単純な人間、俺。さっきまで学年上がり損だと思っていたはずなのに、なんだか楽しみになってきた。なんだかんだひまりといるのは好きだしな。咲ちゃんももちろん好きだ。おい。ロリコンじゃないぞ。シスコンでもない!

 と、言うわけで、なんだか少し気力が出てきた。


「俺のことよく単純って言ってくるけどよ、和人も大して変わんねえじゃねえか。俺の凜花がお前の場合妹ちゃんと友達ちゃんになっただけだろ?」


 そうだけどさあ!そうなると、俺が妹と後輩大好きなやつになってしまう。なんたって相当彼女好きの斗真と同じくらい彼女たちのことを思っているということだからな。

 しかし、それは少し間違ってる。


「俺が大切だと思う範囲はお前や佐山も入ってるぞ?」


 その言葉を聞いた瞬間、斗真はぴしっと動きを止める。……何だ?まずいことでも言ったかな。そう思っていると、ため息を吐いて一言言葉をこぼす。


「お前、さっきの言い方だったら、俺とその彼女の凜花も囲いたいと思ってるって言ってるように感じたぜ?」


 それお前だけだよ。あくまで親愛の情だから。



 別に学年が変わることに抵抗がなくなった俺は、今までやる気が無くなっていたこともきちんと前のように最低限きちんとするように直した。なんて言ったって、二人が入ってきた時変な姿は見せられないからな。

 今回みたいな移動教室の選択授業もサボらないぜ!


「やる気入ってるのね」

「佐山かあ。今日は斗真とじゃないんだな」

「私だって、別にそんな四六時中斗真といるわけじゃないわ」


 嘘つけい。お前ら付き合ってからはずっと一緒にいただろうが。


「ほら、数日後は終業式じゃない?それで、妹ちゃんたちと遊ぶ時間とか作ってるの?」

「……いや、今のとこは無いかな」

「はあ……和人のことだからそんなものだと思ってたけどね。折角懐いてくれてるんでしょ?長期休みなんだから、少し遠いとことか連れてってあげたらどう?っていうおせっかいを焼きに来たのよ」


 確かに。俺たちは所詮高校生と中学生。平日の普通の日にちょっと遠い所は、もはや出掛け先から除外しているほどあまり縁がない。

 しかし、そこまで行動範囲を伸ばせるならアミューズメント施設や水族館など、年頃の女の子が好きそうなものも増える。ひまりも咲ちゃんも、きっとそういう所は好きだろう。というかひまりに一度催促されたことがあった。

 しかし、それはちょっと問題がある。その問題とは……


「あの、俺、女の子がどんなとこに行ったら喜ぶかわかんないんですけど」

「……そうよね。仕方ないわね。教えてあげるわ」


 隣に座った佐山はううん、と少し唸って、一つ一つあげていく。


「まずこの周辺にあるのは……まあ大体あるわね。まず定番は遊園地よね。喜ばれるとは思うわ。後、ショッピングモールなんかもいいわ。動物園、水族館も定番かも。私なら嬉しいわ。それに、街を一緒に歩きながらショッピングとかでも十分いいと思うわよ」

「ありがとう。まあやっぱそのへんか……ちなみにご飯とかは?」

 

 ご飯は俺にとって中々の悩みの種である。女の子は俺や斗真、佐山で一緒に飯を食いに行くときのように、肉とかラーメンじゃいけないらしいのだ。何回ひまりや咲ちゃんに怒られたことか。咲ちゃんは怒りつつも大量に食っているのだが。


「まあ、私達と食べに行くような所は駄目でしょうね。女の子連れて行くべきじゃないわよ。焼肉とかラーメンは特に、年頃の女の子は残念がるかも。まあ望まれたら行ってあげてもいいと思うけど」

「じゃあどこが良いかな。大食いの子がいてな……できれば沢山食べさせてあげたいんだ」

「それなら、色々方法はあるけど……普通のファミレスとかでもいいと思うわよ。あんまり気取った高い店である必要はないと思うわ。懐いてくれてるなら遠慮してお代わりしないなんてこともないだろうし……恥ずかしがってたら和人が頼んでるように見せればいいしね」


 なるほど。ファミレスとかでも良いのか。なんかちょっと気取ったとこなら高く付くだろうしな……それなら買い物にお金かけたほうが良いってことかな。


「ありがとう。助かる」

「良いのよ。私も斗真と行ったことで思ったこと言っただけだしね」


 本当にありがたい、と思いながら前を向く。流石に授業中だし、話はありがたいが俺はサボらない決めたばかりだしな!と、前を向いた俺はひ、と声を漏らしてしまう。

 そこには、青筋を浮かべた先生がいた。


「学年が上がるからって、ちょっと調子乗ってるんじゃないですか。そんなのでは下級生に示しが付きませんよ。そうだ、私が直々にその性根叩き直してあげましょうか。その方が良いですかね。高町さん、佐山さん。ああ、お二人には仲のいい桐原さんもいましたね?彼、私の補修をすっぽかしましたから……今日の昼休み、三人で職員室、私の机に来なさい」


 その授業が終わった後、一部始終を伝え、青くなった斗真を連れて昼休みにその机に向かったその日の放課後は、単なる放課後とは思えないほど長いものだった、ということだけ記しておこうと思う。

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