第6話 木乃伊取りだって
面倒臭い作業と思った時点で凡人であると査定される私。
芸能人が俳句で才能あり、凡人、才能なし、と査定されるその番組に出演する勇気は微塵もない。
凡愚な俳句がバサバサと穴だらけのビニール傘を折るように原形をとどめず、変えられるのは耐えがたいはずなのに大御所芸能人たちも文句一つも零さず、萎れるだけで済んでいるのだからメンタルが強いな、と賛辞を贈りたい。
俳句とは違う畠だけれども燕は歌壇に果敢に飛び込んでいるのだから度胸がある。
休校明けの高校生活は憂鬱との戦いだった。
マスクを嵌めるようになってから、陰りがのそのそと部屋の隅を差すようになりつつある。
ずっとマスクで生活をしていると、嫌気が差さないの、とマスクをつけたまま、今度、お目にかかったら燕に何か言おうか。
朝凪は閉店までは追い込まれてはいないけれども経営はかなり厳しいんじゃないか。
高校生活もあと二年もないのに授業も全然進めていない。
オンライン授業の案も有耶無耶になり、凍結状態が今日まで至っている。
数学Ⅱだって教科書の半分も進んだだろうか。
私は文系だからまだまともかもしれない、と奮い立たせても、焦りは日に日に増すばかりで与えられた課題だけで習ってもいない範囲をどう勉強しろ、と言うのだろう。
古典文法も助動詞の半分もやっていない。
マスクをつけるようになってからプツンと糸が切れたように座礁に乗り上げている。
毎日マスク関連のニュースばかりじゃ、飽き飽きじゃないかって燕みたいに短歌でマグマを昇華できたなら、と私はまだ夏を忘れられない夕風に押されながら思った。
先が見えないなんて誰も陰口を叩けない。
休校の間、一人で教科書を開いて未履修の範囲に挑戦した。
動画でアップしたものを見ながらでもすぐに脱落するのは、師走の頃の夜の帳が下りるようにあっという間だった。
数学Ⅱの複素数あたりで目が回り始め、聞いたことのない専門用語で、私の頭に残っていた理解力という船は沈没した。
三角関数まで辿り着けられるはずがない。
私の理解力は思った以上に鈍間だった、と事実を突きつけられてからは教科書を開くのも億劫になった。
木乃伊取りだって木乃伊にならず、あわよくば復活するに違いない。
楽しいはずの休暇も楽しくないなんて一事が万事、騒いで砕けろ、とマスクにそっぽを向きたくなる。
マスクなんて付けるからこんな災難に見舞われ、みんな大きな勘違いしているんだ。
帰り道、通りすがりの人たちはみんなマスクをつけていた。
十七歳の九月。
青春なんて何か大きな錯覚だったんだ、と歯軋りが止まらない。
さっきの本を買ってもらえば良かった。
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