20-11
『これは神罰などではありません』
セナトロフ男爵の死を神罰と言い放った大司教に逆らう形でそう言い放ったあと、パーティはどこか不穏な空気のまま散会となった。
多くの貴族たちは死の汚れを掃おうと教会へ行ってしまい、部屋には俺たち5人が取り残されている。
「どないしましょか」
半井さんがポツリと俺に訪ねるので「どうしますかね」と答える。
「思考を切り替えましょうか」
笠置さんがポンと手を叩きながら言葉を紡ぎだす。
「神罰ではないということはこれは人為的になされた、もしくはただ偶然に起きたものであると証明する必要がありますよね?仮に偶然だった場合、これは前々から予兆のあった病死であったと証明する必要がある。
人為的なものであったとすれば誰が何故このような事をしたのか?を証明する必要がある」
その言葉を聞いて木栖が思い出したように口を開いた。
「……この世界の神の視点からすると、そもそも男爵は俺たちにたぶらかされただけなんじゃないか?」
「神様からすればこの世界の人間である男爵は庇護されるべき存在で、俺たちは他所の世界から来て規律を乱す邪魔者ってことか」
「ああ。だからもしこれが神罰だとするならば神は殺すべき相手を間違えてると言えるんじゃないか?この世界の神は過ちを犯さないと教会が主張するならば、あれが不幸な事故だった可能性が出てくる」
いささか屁理屈っぽい上にその理屈だとあの時死ぬべきだったのが俺達になるが、おおむね間違っていないように思う。
「失礼いたします」
大陸標準語が入口の方から聞こえてくる。
現れたのは葡萄鼠の短い髪をした小柄な青年だった。
黒地に金の入ったロングコートを纏ったその青年は俺たちの前に立つとじっと目を見て「日本国特使の皆様ですね」と声を掛けられる。
「天秤の騎士団所属の貴族探偵でカール・マークスと申します。神罰でないことの証明過程の協力と監督をせよと言う国王の命に従いこの場に参りました」
この大陸で天秤の騎士団と言うと治安維持や事件捜査を担当する、警察に近い位置付けの組織だ。
どうやらこの国の国王はそれなりに本気で俺たちに神罰の不在を証明させたいらしい。
おまけに国王殿下から捜査協力要請の一筆までこの人物に貸し与えているようで、直筆文書まで見せられた。
「分かりました。協力をよろしくお願いします」
****
まず最初にすべきは死因の特定である、という結論を出した俺たちは片っ端から遺留品を集めることにした。
飲んでいたワインの飲み残しや食器類を提供してもらい、日本に送って検査を依頼した。
もっとも、ワインの瓶は飲んだ後すぐに城の従者たちによって割られた状態のもの(これは少しでもかさを減らすために大規模なパーティやお店で行われる風習だそうだ)しかなくてどれが男爵の飲んだワインが入っていたものなのか特定出来なくて諦めたが。
「あとは司法解剖が出来ればいいんですけどね」
笠置さんはそんな事を言うがこの世界にそんなことが出来る医者はいない。
柊木先生がいれば柊木先生の手で解剖をお願い出来たのだろうが、ここにいるのは全員医者でもなんでもない一般人である。こちらの世界には解剖についての規制もないから遺族の許可さえ取れればやっても怒られはしないだろうが、心情としてやりたくない。
しばらく考え込んだ笠置さんは「体表の検査・血液とDNAの採取ぐらいにしましょうか」と口を開く。
「そうしましょうか。さすがに素人による解剖はよくないでしょうから」
これくらいならば遺体に大きな傷はつかないし、俺たちとしても心情的抵抗感は薄い。
けれど死んだ原因になった可能性のある俺たちが遺体に触るという事自体に親族から抵抗される可能性はある。
(男爵夫人から一発殴られるぐらいの覚悟はしておくか……)
覚悟を決めた俺はセナトロフ男爵夫人の元へ向かうことにした。
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