20-3
金羊国を抜けるのに9日、大森林を抜けて王都に着くまで6日。ようやく辿り着いた北の国の王都はまだ肌寒い晩冬真っ只中であった。
金羊国は割と暖かくなり始めていたが、こちらはまだ晩冬の寒さの中にある。
『はー……歩くよりかは楽って感じだったな』
王城の大門でトゥクトゥクの後部座席を降り、伸びをしたグウズルン情報管理官がそう呟く。
『元々が長距離移動を目的とした乗り物じゃないですからね』
『そうなのか?』
『地方住まいの高齢者が買い物とかちょっとしたお出かけの時に楽出来るようにっていうのが元々の目的らしいので』
何日か前の夜に笠置さんの修理と点検を手伝った時にそんな話を聞かせてくれた。
短距離であれば悪路も問題なく走れるように設計されてるが長距離の悪路走行は想定していなかったため、緊急時の対応が幅広く出来る人材として笠置さんを派遣したとも言っていた。
『使い勝手は悪くなさそうだったしそのうち金羊国でも年寄り向けに導入の話もあるかもな。
私はちょっと顔出すところがあるから離れるが、いざとなったら王都西大通りにある白銀の鷲羽って飲み屋に駆け込んで私の名前を出せば匿ってくれる』
『では、いざとなったらお願いします』
そうなる機会がないことを願いつつ、グウズルン情報管理官と別れた。
俺たちはここから王城関係者の案内で迎賓館へと迎えられることになった、が。
「あの、真柴さん……なんかえらい目立ってません?」
王城の中でチラチラと向けられる視線に困惑気味な半井さんが俺に耳打ちでそう尋ねてきたその理由は簡単である。
「この世界だと坊主頭ってほとんどいませんからね」
「そうなんですか?」
「髪の毛が印鑑と同じ立ち位置なので」
言うのをすっかり忘れていたが、この世界だと髪の毛が無いと自己判断で契約を交わすことが出来ない。
なのでこの世界で外交使節の人間が坊主なのは、日本で言えば成人済み日本人が印鑑を持たずに家を買いに来たくらい違和感がある。
「せやったら先言うて欲しかったんですけど?」
「すいません」
訳アリの流れ者も多い金羊国では坊主頭の成人男性はいてもじろじろ見ないのが暗黙のマナーのようになっているが、こちらではそんな空気が無い。
「ほんなら帽子でも被ったほうがええやろか」
「室内では原則着帽しない文化ですし、かつらもあんまり普及してないのでそのままで通した方が良いでしょうね」
地毛を重要視する文化の影響でこの世界ではあまりかつらが普及してない、せいぜい演劇関係者や髪の毛が寂しくなってきた金持ちが使うぐらいだ。
そのかつらですら地毛で作る文化なので今から急にかつらを探しても見つからないだろう。
『こちらのお部屋です』
日本からの一行にと用意された迎賓館の客室の扉が開く。
相変わらず華やいだ空気の客室であるが、半井さんや一花さんは冷静に室内を見渡している。
それに対して笠置さんは高級そうな客間におっかなびっくりという顔をしており「私もここ泊まっていいんですか?」と恐る恐る聞いてくる。
「むしろいて頂けた方が助かります、緊急時に1人だけ違うところにいるとなるとこちらの対応が遅れてしまう可能性もあるので」
「わ、わかりました」
木栖のコメントに一応の納得して貰ったところで、各々荷物を置いて夕食まで休憩……となるはずだった。
『真柴大使をシェーベイル宰相補佐官様がお呼びです』
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