19-10

ある休日、俺は例の電動トゥクトゥクに乗って軽く近所を走ってみることにした。

「っと、このボタンがエンジン、股のところにシフトレバー、足もとのがフットブレーキ……あ、アクセルはハンドルなのか。タコメーターはデジタルなんだな」

事前に説明書きを見ながら車内の様子を頭に叩きこんだ後は実戦練習だ。

運転席に跨ってシートベルトを締め、エンジンをかける。

冬の終わりの日差しのお陰か充電は既に100パーセントになっていて、この様子なら2~3時間ぐらいなら休みなしで走れそうだ。


「じゃ、行ってみるか」


まずは10キロぐらいでゆっくり走りだしてみると、乗り心地は思いのほか悪くない。

多少の揺れはあるがこれはもうこの国の道路事情によるものなのでご愛敬の範囲内だろう。

吹き付ける風はまだ冷たいが日差しは春めいた暖かいものとなっており、風除けのビニールを下ろしたらちょうどいい具合になりそうだ。

見慣れない乗り物に目を見開く人々を横目に第一都市を抜け出して川沿いの道まで出てみる。

冬の間は人気の無かった金羊国の川湊もいくらか人が出始めている。南からの商人や川魚を狙う猟師が行き交うのを見れば春がこの街にも忍び寄ってきていると感じられる。

「あ、大使だー」

「飯山さん何してるんですか?」

折り畳みの椅子に腰を下ろして釣竿を垂らした飯山さんが「魚釣りですよー」とニコニコ答えてくれる。

冬も終わりもうすぐ春へと差し掛かろうという季節であるし、もう魚釣りを始めてもいいのかもしれない。

「こっちでもニジマスみたいなお魚が獲れるんですよ、運が良ければ黄色い卵抱えててこれを醤油漬けにするとねー、これがもうほんとに美味しいんですよねえ!」

釣竿がチリチリと鳴り始めたのに気づくと、飯山さんは急に顔色を真剣なものにして竿を引きあう。

「たくさん釣れたらおすそ分けしますんで!」

「楽しみにしてますね」

今夜のお裾分けを楽しみにしつつ、川沿いの道を北へと走ってみる。

川の向こうに見える山にはまだ白い雪が残っている。

(もう少しスピード上げてみようか)

ある程度運転に慣れたところでスピードを上げてみると、街の景色が少しばかり早く流れていく。

そういえばこのトゥクトゥクはスマホと繋いで音楽も聴けるらしい。もう少し運転に慣れたら曲を流しながら走らせてみてもいいだろう……今はちょっと事故が怖いのでやらないが。

1時間半ほど近所を走らせた後、大使館へ戻っていくと木栖に声を掛けられた。

「お、運転練習してたのか」

「ああ。思ったより行けた」

「じゃあ午後は俺も練習したいから乗せてくれないか」

「わかった。昼飯食ったらな」


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