14:大使館は春を待つ
14-1
「これ、お土産です」
大使館再始動の日、納村が突然渡してきたのは福井名物羽二重餅だった。
さっき朝食を食べたばかりで今渡されても胃袋に入らないんだがな?
「なんで?」
「いやほら、去年の夏に大使と木栖さんが呼びだされた後お土産くれたじゃないですか。そのお礼です」
「あれは心配かけて悪かったのお土産だったんだが……今回お土産持ってきてないのに悪いな」
こうして貰うことがわかっていたら俺も神戸か地元のお菓子でも用意していたのだが、今の俺にそんな持ち合わせはない事を伝えると「お気になさらず」と納村が答える。
おやつに食べようと思ってとりあえずポケットに入れておくと「あ、木栖さんもお土産の羽二重餅どうぞ」と木栖と夏沢に羽二重餅を渡してきた。
そのまま夏沢と納村は土産話に花を咲かせ始めたので、木栖はそっと離脱して俺の横についてきた。
「ひさしぶり」
「ああ、そっちはどうだった?」
「問題なく終わった、あとお前神戸行ってたんだな」
「親戚関係で分かった事があったんでその話をしにな。地獄谷の猿の写真、ありがとうな」
木栖が休暇中の戯れに温泉に浸かる猿の写真を寄こしてきたので、俺も有馬の宿近くで取った写真を送ったのだ。
まああんな写真を遊びで寄こせるのだし元恋人との話がこじれることなく綺麗に片付いたようで思ったものだ。
休暇中の事をどの程度話そうか、と一瞬沈黙が通り過ぎていく。
「あ、木栖さんこの後ファンナルのとこ行きます?」
その沈黙をぶち壊したのは納村だった。
「行くつもりだったが何か用事が?」
「顔見に行きがてら渡したいものがあったんで」
納村とファンナル隊長の関係を知っている身としては微妙に割り込みにくいものがあるが、そもそもそれ仕事なのか?と聞きたい気もする。
「なら俺のほうで預かるか?」
木栖の表情がほんの僅かにからかい交じりのものになる。
たぶん納村の言う渡したいものの中身にあてがあるんだろう。
「あ~いいですいいです、夜にでも行くんで」
「わかった」
そう言って納村が去っていく。
「やっぱりチョコレートかな」
木栖がそう呟くので「そうか、バレンタイン」と言葉が漏れる。
ちょうど俺たちの休暇中に日本ではバレンタインがあり、納村もそのタイミングでついチョコレートを買っていたのかもしれない。
「じゃあこの羽二重餅はフェイク?」
「かもな、まあ羽二重餅に罪はないからいいけどな」
そういう事かと分かればやれやれという気分になる。
別に納村の行動に罪はないが俺の気遣いは何だったんだという気はしないでもない。
「来年以降お土産禁止にすればいいんじゃないか?」
「でもまあ気遣いの範疇だしな。法律の範囲内でお互い強制しないなら好きにすればいいとしか」
とりあえず昼にでもそういう話しておくかと呟きながら、それを新しい仕事の日々の始まりとした。
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