10-4

「今回の件が犯罪行為に当たらないとしてもですよ、武器の即時返却を先方に通達しなかったのは完全な越権行為では?」

そう口を挟んだのは大臣政務官である。

男だらけの環境の中でひとり女性がいるというのは浮いているが、一切の気遣いなしに口を開くのは仕事仲間としては好ましく思う。状況がそれを許さないのは残念であるが。

もう一度挙手の上で口を開くのは俺の番だ。

「それに関しましては大使館内部での判断です、彼らに武器を託し戦況の改善を望む方がより大使館や日本国のためになると判断しました」

「それは越権行為では?」

「承知しております」

しばらく空気が静まり返る。

ひそひそと聞こえてきたのは自衛隊法の話である。

(……俺も木栖の件に関わった訳だから自衛隊法が適用されるのか)

漏れ聞こえてくる「第百二十一条」「第百二十四条」「第百十八条」という単語を聞き流しながら、果たして俺はどうなるのか、ぼんやり考える。

他国でやったことなので外交特権はまず適用されないだろう、普通に考えれば警察は出てくるが内容が特殊なのでここで出た結論をほぼそのまま通すだろう。あとは政治がどう関与するか、という点である。

政治的に適切な処置と認められれば司法の横やりが入る可能性は下がる。

考えられる可能性を検証していくうちにもう面倒になってきて、足掻くだけ足掻いたら後は野となれ山となれ……あとなんか腹減っててきた……という心境になってきた。

そもそも俺は法律の専門家じゃないのでこんなこと考えててもろくな答えが出てこないのだ。

俺があらぬ方向へ脱線している間に話し合いは予定をオーバーし、特に結論も出ないまま終了となった。


「途中から違うこと考えてたろ」


話し合いの後、飯島が呆れたようにそんなことを言い出した。

「正直最後のほうはほぼ飯のこと考えてた」

「まあ腹は減ったよなー、証人喚問午後からだし今から飯食いに行くとして食いたいのある?」

「……大〇屋のチキン母さん煮定食にきんぴらごぼう・ひじきの煮物・ほうれん草の胡麻和えを添えて食べたい」

「ピンポイント過ぎんだろ、木栖さんも〇戸屋でいい?」

木栖が同意の頷きをひとつするとさっそく昼飯に行くことにした。


****


「お待たせしました、チキン母さん煮定食と熟成黒しょうが香る豚の生姜焼き定食・生姜焼き2倍ご飯大盛りになります。これでご注文御揃いでしょうか?」

「大丈夫です」

定食に小鉢も追加したせいで食卓はぎっしりしており、この量と種類が今は嬉しい。

どうせ午後も嫌というほど削られるのが目に見えているので思う存分食ってやろうじゃないか。

「木栖さんもだけどお前もよく食えるな」

飯島は午前中のことでよほど削られたのかかけそば一杯とずいぶん軽めだ。

「こういう時ほど食わなきゃやってられないし、気力が持たない。むしろ生姜焼きに唐揚げとばくだん小鉢合わせてくる木栖の胃袋のほうがどうかしてるだろ」

「こっちに話を向けるな」

「その組み合わせは胃もたれするだろ、男子高校生じゃあるまいし」

「俺も食わなきゃやってられない、ってことだ」

変なところで意見が合致してしまった。

まあ自分のやった事とはいえ面倒なことは面倒だし、食って気力をつけたほうがいい。

「この後も面倒そうだしな」

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