4-9
4日目の夜、金羊国の最北端に辿り着た頃には日が沈みだしていた。
「思ったより遅くなりましたね、もう夜ですし一度ここで休憩します。今テントを立てるので自分で降りて貰えますか?」
「はあ」
トイレにもまともに立たせてもらえず、排せつもし瓶でという過酷な状況により正直身体が上手く動かない。
エコノミークラス症候群対策のため貧乏ゆすりや足の運動ぐらいはしていたがちょっと筋肉が固まっている気がする。
納村は口から魂が抜けきった顔をしており、ヘルカ魔術官は軽く腕や足を伸ばすと何事もなかったように立ち上がる。
「大丈夫ですか?」
「……少し引っ張ってもらいたいんだが」
「了解です、っと」
ぐっと伸ばすように体を起こしてもらうと固まった腰や背中の筋肉がぎゅっと伸びた。
野営の準備を終えたテントには毛布が敷かれ「ちょっとマッサージして貰えますか」と問えば「了解です」という形で即座にマッサージを始めてくれる。
温かい手で力強くマッサージされた背中が気持ちいい。4日間寝心地も悪くまともに眠れていないのもあり、気づくと寝落ちしていた。
―3時間後―
起きると毛布にくるまって眠るグウズルン情報魔術官がいた。
グウズルン情報管理官の表情が警戒心からいっとき放たれ穏やかな表情をしており、その眠りを妨げまいとテントから出ると焚き火番をするヘルカ魔術官がいた。
「あ、起きました?」
「……すまない」
「まーまー、とりあえずご飯どうぞ」
ご飯と言って差し出されたのは山菜と肉のスープだった。
スープと言っても具が多めなのである程度お腹には溜まりそうな感じで、一口飲むと山菜と肉のだしにほんのり潮がきいている。
「この肉は?」
「グウズルンさんがうさぎを捕まえてササッと解体してくれました」
確か普段はサーカスを率いているというから旅支度には慣れているのだろうが手際が良すぎる。
そもそも普通の人間は4日間不眠不休で走ること自体が不可能だし、冷静に考えてみると何者なのか大いに謎だ。
木を削って作った匙で野菜を掬いながらそんな疑問が沸くが聞かずにおいたほうが良いだろう。
「そういえばテントひとつで大丈夫でした?」
「3~4人ならあの広さで十分だろうし、むしろ女性ばかりの所に男がひとりいていいのかが不安なくらいだ」
「ああそっか、日本だと獣人と人間が恋愛しててもいいのか」
「こっちの世界だとダメなのか?」
「ダメというか、変態だと思われますね」
ヘルカ魔術官の話をまとめるとこうだ。
この世界において獣人は人間に近い獣という扱いであるので、獣人と恋愛するのは家畜と恋愛するのに近い。
世間では否定的な見方が主流だが獣人を性的な目的で買う人間も少ないながらいるらしい。
なので獣人の女と人間の男が一緒に寝ることは性的なニュアンスがないものとして捉えるのが一般的なんだそうだ。
「そういう感じなのか」
「気になるなら考えますけど」
「いや、別にいいんだ」
確かにグウズルン情報管理官は美しいが自分の中で性欲と結びつかないし、ヘルカ魔術官も可愛らしいとは思うが猫寄りの外見もありあまり性欲は沸かない。
(疲れなのか老化によるものか……あんまり考えたくないな)
疲れたのでさっさと寝てしまおう。
****
翌朝、最後に起きてきたヘルカ魔術官が寝ぼけ眼をこすりつつ大きな岩に手を当てるとずずずっと動き出した。
「これはトンネル?」
「ほうでふよ、ここを抜けると大森林をすぐ抜けられるんでふ」
大きなあくびを漏らしつつ説明してくれる。焚き火を消していなければインスタントコーヒーでも出せたのだが仕方ない。
テントを荷台に積み込むと人力車に乗せられる。
「今日中に州都を目指しますが魔動力車との乗り継ぎを考えると少し急いだほうがいいんで動かずにいてくださいね」
その一言で今日も降りられずにることを察した。
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