4-5
ここは外務省並行世界局金羊国課の隣にある会議室。
そんなに広くないがホワイトボードがあり防音もちゃんとしているこの部屋で、さっそく会議は始まった。
「まず俺が考えているのは、金羊国を日本の保護国だと思わせたい」
「あ゛?」
殺意に近い嫌悪感のこもった声でグウズルン情報管理官がこちらをにらみつけてきた。
俺どころか隣にいる飯島やヘルカ魔術官もちょっとビビってるが、ここで話を止める余裕はない。
「あの世界において日本は未知数の国だ。金羊国及びハルトルの背後には魔術に対抗することが出来る謎の強国がバックにいるぞ、という脅しをかけておくことで交渉を有利に進められないかと思ってる」
「理屈は分かった。ただ私たちは日本の保護国ではないということについては?」
「とにかくバックに強くて厄介な保護者がいると思わせればいい、というかそうしないと木栖とハルトル宰相が一緒にいた事やひいてはこの件に日本政府が介入する言い訳が作れない」
大変納得いかない表情ではあるが、とりあえず妥協はしてくれたようなので話を続けよう。
「で、それを理由に王都の襲撃でもするのかしら?」
「さすがにそこまでは出来ない。ただこの件の代償としてハルトル宰相の即時返還を先方に求める」
「断られたら?」
「その断れない理由を作るために日本に来た。
まず襲撃時の映像を分析して襲撃犯の外見や特徴を割り出し、可能なら向こうの関係者の映像をもとに犯人を割り出す。なくても日本の警察を送り込んで捜査して貰えばいいしな。
そしてそれをもとに犯人を日本に引き渡して傷害事件としての訴訟する」
「外交騎士は祖国の法に準じて行動するならば外交騎士を傷つけたものも祖国の法に従え、という事ですか。まあ無理筋かもしれませんが通じなくはないですね」
あちらの世界に精通しているグウズルン情報管理官が言うのならギリギリだな。
飯島がめんどくさい事は止めてくれよ、とこちらを見る。
「日本の警察の介入についてはまあ可能性は低いだろうがそれは想定の上、なんなら謎の警察権力を先方には拒んで欲しいぐらいだ。
日本政府本国からの介入を完全拒否したい先方にハルトル宰相即時返還ですべてをチャラにするという交渉を持ちかける」
その説明にグウズルン情報管理官が小さくため息を漏らした。
「……そんな都合良くいかないと思いますけどね」
それは否定しない。
国王がハルトルという個人に執着しているという点が最大の難点であり、その執着を諦めさせるほどのデメリットとして日本という異世界の謎の国がどの程度うまく機能するかは分からない。
なにより個人の感情ほど卸し難いものはない。
「いちおう今日のうちに映像の解析、武力面での威圧、地球における法的な問題辺りは日本にいるうちに解決しますがね」
「何より時間がないんですよ?所有宣言が教会に届けばあの場所は問答無用で北の国の所有地になってしまいます、引き伸ばし工作をお考えなら今ここでこ「大丈夫です」
グウズルン情報管理官が物騒なことを言い出しそうなのを引き留めておく。
「暴力は誘拐犯にのみ向けるべきだ」
「……そうですね。ところであのひとと真柴大使はどういったご関係と説明なさるので?死んでもいない部下のために相手の所に乗り込むのは根拠が弱すぎます」
「ああ、言っていませんでしたね。俺は木栖と事実上の婚姻関係にあります、法律上の問題で非公式な関係ではありますがね」
飯島にはあとで仔細を説明するとして、この設定を悪用させてもらおう。
誰だって自分の家族を傷つけられたら怒るに決まっているだろうし、これなら介入の言い分として強い。
「なるほど、それなら婚姻証明書類がないとなると言いがかりと思われる可能性があります。右手薬指に指輪のひとつもないのに既婚者と言い張るのは北の国では無理がある」
「なら指輪を用意しますよ」
幸いここは日本だ。休み時間に駆け込めば既製品の指輪ぐらい用意できる。
経費では落ちなさそうだが幸か不幸か独身貴族の強みで貯金はある。
(念のため木栖にも同じ指輪を持たせるか、この設定を使う時必要だろうしな)
「ヘルカ、のどが渇いたので水飲み場へ」
「ひゃい!」
水を飲みに退席した2人が完全にドアを閉めたのを確認して、飯島が恐る恐る切り出した。
「……本当に付き合ってるのか?」
「設定だ。公的な場に木栖をボディーガードとして連れて行くのに便利かと思って本人承諾の上でこの設定を使っている」
「設定かよ」
呆れ気味に頭を抱えてため息を漏らした飯島に「これが基本的に設定であることは金羊国側は把握してない」と付け足す。
「わかった」
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