万年二位のオールラウンダー~勇者と魔王の英才教育~卑怯?効率化だ!
マスタースバル
第一章 伝説の二人の師匠
第1話 万年二位の平民
50年前。人魔大戦という人類と魔族の戦いがあった。
肉体を駆使する戦闘を得意とする人間と魔法による戦闘を得意とする魔族。
その中でお互いに種族の概念を超えて肉体、魔法共にとてつもない練度で使いこなす二人がいた・・・。
【勇者】と【魔王】
人間には到底扱うことが出来ないような威力の魔法を放ちながら肉弾戦もこなす勇者。
方や凡百の魔族には目視も出来ないようなスピードと破壊力を持った肉体で動き回り、山すら吹き飛ばせる威力の魔法を連発する魔王。
この二人の戦いにはお互いの配下や仲間である者達も入る事は出来ず只々見守る事しか出来なかった。
そうして数日間の激しい戦いの末決着は着いた。
両者相打ちとして・・・。
その戦いを見届けた勇者パーティと魔王直属の配下である五天魔は、お互いの種族間で同等の教育と育成をすれば両種族の共存共栄とパワーバランスを両取り出来ると、話し合いの後手を取り合った。
そして現在。世界でも有数の大国である【キャニオン王国】にて勇者パーティと五天魔による共同経営学園である【人魔教育学園一号館】にてその考えは結果を残しつつあった。
小等部、中等部、高等部迄を義務教育として子供は全員必ず入学させる事を条件に授業料等は全て国持ちであるため、自分の子供達にしっかりとした勉強と鍛錬を修めさせてくれる事に親たちは歓喜し、それが人口の増大にも繋がった。
その学園にはあらゆる授業がある。
薬草学は勿論属性毎の魔法や錬金術。剣技や槍術、弓や格闘技に至るまで様々な内容がそろっており、入学した子供たちは卒業するまで学園内のあらゆる施設を無料で使用でき、各々が得意な物を見出して将来の仕事にすることが最早この国での常識になっていた。
そんな中その学園に通う一人の小柄な平民の少年がいた。
名前を【ジン】という。
彼は物心付いた時には孤児として孤児院で生活しており、大人しい性格ながら優しく周りの孤児達にも慕われていた。
そんな彼を人魔対戦にて子供夫婦を失った老夫婦が引き取り、いずれ出来たであろう孫と重ね、愛情込めて育てた。
二人は本当の孫の様にジンを可愛がり、ジンもまた二人を本当の祖父母だと思い慕った。
そしてジンは学園に入学する時心に誓った。孤児だった自分を可愛がりここまで育ててくれた恩を返すと。
その誓いを叶える為にジンは勉強に戦闘にと脇目もふらず勤しんだ。
なんでもいい。兎に角何かしらの主席を取って卒業して良い仕事に就いて二人に楽をさせてあげようと頑張った。
毎日放課後は様々な武技武術の鍛錬をし、休日は図書館に行きあらゆる薬草の種類や魔法を頭に叩き込んだ。勿論祖父母の家の手伝いもしっかりこなした。
そして高等部三年の夏。
卒業を半年後に控えた夏休み前の期末テストの結果がそれぞれの生徒に配られた。
「うわぁあああ剣術の順位下がってる!母ちゃんにどやされる!」
「やった!前回より薬草学の順位あがってる!」
「あー・・・でもやっぱり一位と二位は相変わらずかぁ」
各々が自身の成績が記された成績表を見て一喜一憂している中一人の生徒がそう呟いた。
配られている成績表には自身の評価に加え、それぞれの科目の一位から五位迄の人物の名前が乗っている。
剣術科目一位【アストル・マーティン】
槍術科目一位【グラン・テール】
短剣科目一位【リリナ・カストル】
錬金術科目一位【マリア・ベン】
薬草学科目一位【レン・ダスティン】
火魔法科目一位【アイリス・モール】
他にも多々科目があるがこのようにそれぞれの科目とその順位が名前付きで全ての生徒の成績表に記載されているのだ。
そして普通であれば一位の生徒達を目標として精進するような制度なのであろうが、現在の学年の生徒達の目に留まるのは一位では無く【二位】の名前である。
剣術科目二位【ジン】
槍術科目二位【ジン】
短剣科目二位【ジン】
錬金術科目二位【ジン】
薬草学科目二位【ジン】
火魔法科目二位【ジン】
全ての科目において二位の名前はジンで埋められていた。
勿論結果だけ見れば優秀な生徒に見えるのだが、様々な人間がいる都合上悪態を付く者もいる。
平民がこのような成績を取れる筈がない。そもそも人間が魔法科目でもこの順位とは何か不正をしているのではないか?
しかしそれぞれの科目で授業を受けている者達はジンが不正等していない事はわかっている。だが全ての科目で二位となると自分が受講していない授業では・・・と邪推してしまう。それくらい異常な出来事なのだ。
「はぁ・・・また一位取れなかったなぁ」
成績表を見ながらジンはそう呟いた。
「なんでなんだろう。どうしても主席の皆に勝てない・・・これ以上何をどうすればいいんだろう」
一週間後に控えた夏休み前の模擬戦を考えてジンはため息を吐いた。
成績は二位でも模擬戦で勝利ができればそれは次学期の成績に反映される。
しかし今の今までジンがどれだけ頑張って特訓しても勉強しても主席の彼らに届いたことは一度たりともない。
入学した時の誓いを守る為にこれまで頑張ってきたジンだが流石に折れそうだった。
「おう!ジンじゃねぇか!」
「やっほー・・・」
「あ、やぁアストル。それにアイリスも」
そんなジンに剣術科目一位である大柄な体躯に重そうな鎧を着て馬鹿でかい大剣を抱えたアストル・マーティンと火魔法科目一位であるジンよりも小柄な、青色のロングヘアーをなびかせたアイリス・モールが声をかけてきた。
「いやー今回も一位は俺だったな!このまま卒業まで死守させてもらうぞ!」
「私も・・・最後までジンに負けないように頑張る・・・」
「アハハ・・・いつも全力でやってるんだけどなぁ・・・僕と君達とで何が違うんだろう?」
「んぁ?そりゃあ俺はジンと違って剣術一本だからな!ジンが他の授業受けてる時も俺は剣を振ってる!技を鍛えてる!だからだろ!」
「私も・・・同意見。一日中火魔法の事考えてるから・・・ジンに負けないように」
「ぐぅの音も出ない意見ありがとう・・・」
自分でもなんとなく気づいていた事を主席に言われてはジンも何も言えなかった。
そう。ジンは卒業後に良い仕事に就く可能性は多い方が良いと考えて全ての科目に全力で注力した。
その結果がオール二位。それぞれの主席達は己がこれと決めた科目一つに絞って学んでいる。アストルは魔法全般、アイリスは武技武術全般においては下から数えたほうが早い位の実力である。というかそもそも二人は既に剣術と火魔法の授業以外受講していない。
しかし主席というのはそれだけで卒業後の進路が優遇される。
主席の進路が役職スタートとするなら次席~五席はヒラより少し待遇が良い位の差しかない。
ここにきてジンの目論見は全てが裏目に出てしまったのである。
「でもジンも相変わらずすげぇよなぁ。全ての授業受けて全部二位だもんな。俺は魔法なんかは火種出すとか水滴出すとか位しかできねぇもん」
「私も剣なんか持ち上げることも出来ないし・・・火魔法以外は中級レベルしか使えない・・・だから・・・人間なのにジンは凄いと思う・・・よ?」
「うん・・・ありがとう二人共。でも僕の目標は主席の卒業だからさ。このままだと目標が達成できないから」
「そうそう!前から聞きたかったんだけどその目標って何なんだよ?良い仕事に就いて高い給料が欲しいのか?」
「いや、お金は確かに欲しいけどそれは目標じゃなくて過程なんだ」
「じゃあ・・・何が目標なの?」
「それは・・・その・・」
言えるわけがない。小等部の頃から共に切磋琢磨してきた親友達に。
恐らく言ってしまえば二人共僕に主席を譲ってくれると思う。
二人はこう見えて人間と魔族の貴族だ。要職に就けなくても家の仕事等いくらでもあると普段から言っている。
お互いに追いつこう追いつかれまいとしているからこそ平民である自分なんかにも気さくに話しかけてくれる。称賛してくれる。
僕の目標を吐露してしまえばこれまでの関係が壊れてしまう気がする。それは嫌だ。
「なんか随分難しい顔してるけど言いたくないなら別に言わなくていいからな?」
「うん・・・無理には・・聞かないよ?」
「・・・・ごめん。ありがとう」
きっと今自分は酷い顔をしているだろう。親友に隠し事はしたくないけどこれだけは君達に言うわけにはいかないんだ。
「おっし!んじゃあたまには手合わせでもすっか?」
「え?」
「そんな辛気臭ぇ面してる時は思いっきり身体を動かすに限るんだよ!行くぞ!」
「え?え?ちょちょちょぉぉぉぉぉ」
「待って~・・・」
こうして僕は半ば無理やり模擬戦場に引き摺られて行った。
アイリスも止めてくれてもよくない?
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