28、

クレイとの面談が終わり、次はガーネット城の客間に通された。


 重厚な扉を開けて入ると、赤い絨毯が敷き詰められ、照明はシャンデリア、グランドピアノが置かれ、歴代の王様の肖像画が額縁に飾られている。


 一般庶民が想像する、いわゆる「豪華なお城」な内装に圧倒されながら、アリサが部屋の中へと足を踏み入れると、



「よく来たな、まあそこに座るが良い」



 純白の服に双翼の鷲が描かれた、王子の正装に身を包んだルビオが、足を組み紅茶を飲んでいた。


 『王子とのお茶会』という名前のスチルで、SSRのレアカードなんじゃないかと思う、相変わらずに美形っぷりだ。



「下がっていろ」



 一般庶民の女と今から話すのが、自分の婚活の話だなど聞かれたくは無いのだろう。

 

 ルビオは自分の左右に立っていた側近らしき男性たちに命じると、胸に手を当てる敬礼をして、二人は部屋から出ていった。


 一言で人間を動かすことができる、まさに王族といった様子である。


 アリサは会釈をしながら、ルビオの前の席に腰掛ける。

 顔には騙されない、今日は個人的指導だ。



「ルビオ王子は……何から指導すれば良いのやら……」



 言いたいことがありすぎて、アリサはう指を折り数えながら、話の流れを組み立てる。

 理想高すぎるし、傲慢すぎるし、自分勝手で、結婚がリアルに想像できない。


「ほう、お前の意見とやらを言ってみるがよい」


 優雅に紅茶のカップを置いたルビオは膝の上で指を組み、笑みを浮かべている。

 その態度に、アリサの積もり積もったイライラが爆発した。



「ではまず言わせていただきますが! 女性を『お前』と呼ぶのをやめましょう! 

 モラハラのセクハラですし、昭和の亭主関白は、令和には古すぎです!」



 ゲームのキャラならば個性的で良いが、実際に恋愛対象としてみれば、ルビオの態度は最悪だ。基本的に男尊女卑だし、亭主関白で、まさに昭和の男性像だ。



「ショウワ……レイワ? なんだそれは」


 前世の元号など知るわけないルビオは眉根をひそめて聞き返すが、それには答えない。



「王子という立場だとしても、恋人や夫婦は対等な関係であるべきです」


「お前に言われずとも、私は生まれてからずっと王子なのだから」



 仕方ないだろう、と言いかけたルビオを手で静止する。



「ほら、また『お前』って言いましたね! 失礼です!」



 異世界では身分があり、王族と庶民は絶対的な上下関係があるのはわかるが、やはり『お前』と呼ばれるのは納得いかない。


 アリサの勢いに気押されたのか、


「む、では……そ、そなた、でよいか」


 ルビオは珍しく折れ、二人称を言い直した。

 頷きながら、アリサの指導はエスカレートしていく。



「俺様系と結婚したいって思う人なんて、もう絶滅しました! 

 今の時代はとにかく優しさ! デートの際は女性をエスコートすることを心がけましょう。

 そして何より共感力!」



「俺様系……エスコート、共感力」


 さすがのルビオも、圧倒されオウム返しになっている。

 喧嘩しているのではないかと、様子をうかがいに来たクレイが、扉の隙間からアリサとルビオを見て呆気に取られている。



「すごい、あのルビオ王子が言い負かされているなんて」



 王位継承権一位の次期王であるルビオにここまで言える人がいたなんて、とクレイはある種アリサに尊敬の念を抱きながら、そっと扉を閉めた。


 アリサの白熱の婚活セミナーは、その後数時間にも及んだ。

 



 ガーネット城からの帰り道。

 オレンジ色の夕陽を浴びながら、あのこじらせ男子たちにできるだけの指導はしたと、アリサはガッツポーズをとる。


 そして、次に行う婚活の予定を考える。



(自分から女性に話しかけれない三人には、強制的に会話できるシステムが必要。

 そして、フリートークではなく、ある程度話題が絞られるのも大事よね)



 話すことができずに時間が過ぎたり、話したところで変な話題を振ってドン引きされるのは避けたい。

 ならば、時間で区切られ全員と話すことができ、プロフィールカードをお互い見せ合い、その話題で盛り上がるものが良い。



「じゃあ次は街コンでいきましょう!」



 アリサは次こそ成婚ができるようにと、街中に響くような声で宣言した。

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