【三章】家族のように
立ち話もなんなのでと安里の提案で北川家にお邪魔する事になった三田家。リビングテーブルには凛と杏が隣に並び杏側のお誕生日席に安里が座る。その隣に海斗が座り陽斗、葵の順に並んだ。
どこから話せばいいのかと海斗は思考を巡らしていた。相変わらず落ち着いて微笑んでいる安里は不安そうにする杏に大丈夫だよ、という視線を向ける。その様子を横目で見ていた陽斗は少し複雑な心境のまま海斗の思考が纏まるのを待つ。
「えっと、俺と陽は実家に帰る途中で葵に会ってそれで、陽が葵について行くって言いだして……」
「いや方向的にここ来るんだろうなって思ったからさー」
「……僕はたださくらんぼをお裾分けしに来ただけなんだけどな」
やはり葵からの視線が痛いと陽斗はすぐに視線を逸らして誤魔化す様に口笛を吹く。
ちょっとだけ凛の顔を見たら帰るつもりだったのに、家に上がらせてもらった上に迷惑を掛けてしまっている事が申し訳ないのだ。それに凛と杏の姉が帰ってきているのなら断ってくれればよかったのに、と不安そうに凛を見る。視線が合って心配しないで、と微笑まれた。
「凛と杏に恋人が出来たのは聞いていましたけど、こんなに早くお会いできるとは思っていなかったので嬉しいですよ」
「ちなみに杏の彼氏さんは陽斗さんだよ!」
「ちょ、にーには黙ってて!」
「あら、これはもしかして運命かもしれませんね~」
手を口に当てて驚く安里は照れて視線を外す陽斗を見て微笑んだ。北川家と三田家の兄妹がそれぞれ恋人同士だという事は偶然にしては出来すぎている、これは運命だと安里は目を輝かせる。いつもの事に苦笑する双子たち。葵は杏里の事をまだ知らないので新鮮な気持ちもありつつ、やはり凛と杏の姉だなと納得していた。
「俺と安里は大学が一緒で……色々あって付き合う事になったんだよね」
「海斗さんが卒業してからわたしはすごく心配な日々を送っているんですよ」
ふふふ、と笑う安里はただ笑っているだけなのに、姿勢が正しくなってしまう。怒らせてはいけない人というのはこういう人の事を言うのだと凛と杏は当然のように、海斗と陽斗は震える程に身に染みている。そんな双子たちの様子で葵は察して良かった姿勢がさらに良くなった。
「陽斗さんと会うのも久しぶりですね。その後体調はいかがですか?」
「大丈夫っすよ。ちゃんと見張ってるんで」
「……ほ、本当だよ安里。ちゃんと寝てるし、陽が考えてご飯作ってくれてるし、大丈夫だからね……?」
「あなたは中々自分の話をしませんから、聞けて安心しました。あの時は取り乱してしまってごめんなさいね」
海斗は中々近況報告をしてくれないものだからつい一緒に住んでる相方に訪ねてしまう癖がついていた。
あの時という単語で兄弟は震えだす。まるで極寒の地にいるように。そんな様子に葵は察していたが凛と杏は不思議そうに兄妹を見ていた。二人が震える程に怖い事があったのはきっとクリスマス付近の事だろう。そう、女神のような安里を怒らせる事件があった冬の日の出来事。怖くて安里を直視出来ずに兄弟はただテーブルに視線を向けていた。
「もしみなさんがよければ、今度一緒に遊びに行きませんか?」
パン、と手を叩いて安里は微笑んだ。凛は嬉しそうに笑って杏は少し考えたあとに頷いた。陽斗もテーブルからゆっくり視線を外して頷いて、それに続いて海斗も頷く。
「葵さんはいかがでしょう?」
「僕も、もっと皆と仲良くなりたいので、是非ご一緒させて下さい」
照れくさそうに微笑んだ葵の顔を見て微笑んだ安里は、みんなの予定を確認していく。凛と杏と葵と海斗はスマホのスケジュールを開き、陽斗と安里は鞄から手帳を取り出して確認していく。
「あんた手帳もってるんだ……」
「あー……アナログの方が使いやすいんだよなー」
「ふーん……」
陽斗の新しい一面を知れて杏は小さく微笑んだ後スマホに視線を移す。その微笑みに顔が熱くなっていくのを感じながら誤魔化す様に陽斗は手帳をめくった。
六月になると梅雨に入るのでそれも考慮して二週間後の日曜なら皆空いていて日程を確定させた。次に決めるのは行き先だが、六人で楽しめる場所はどこだろう、と考えるのは兄弟くらいだった。
「私、夢の国にいきたい!」
「あたしも皆で行くならそこかなって」
「僕も丁度行きたいって思ってたんだ」
女子組の意見が一致していて呆然としている兄弟だったが、夢の国とやらに行ったのは子供の頃ではなかっただろうかなんて陽斗は思い出を振り返ろうとしている。
「あらあら、お二人はいかがですか?」
「俺はいいよ。皆で行くのも楽しそう……だし」
「……オレも異議はねーな」
海斗の言葉で杏里とデートしたことがあると察した陽斗は海斗を一瞥したあと安里を見て返事をする。
約束を交わして程良く時間が過ぎたので、海斗は「そろそろ帰るよ」と席を立つ。陽斗も続いて、葵も兄弟に続いて席を立つ。安里を先頭にして兄弟たちは玄関へ向かいその後に杏が続いた。葵も続こうとリビングを歩き出すと服の裾を掴まれて振り向いた。至近距離にあった顔に驚いていれば唇に感じる熱に目を丸くする。
「みんなでお出かけするの楽しみだね!」
満面の笑みを見せたあと、葵の手を握り玄関へ歩いて行く。凛の後姿を見ながら歩く葵は玄関に着くまでに顔の熱を下げようと必死だ。
ここにいるのが凛だけだったら理性を保てていた自信はない。赤い顔を兄たちに見られない様に、必死に冷静を装いながら、玄関までの距離が遠いななんて、熱くて仕方ない。もうきっと夏になったのだろうと思う位に。
<十二話へ続く>
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