第二章 竜剣編

プロローグ



 黙示の塔より出でし禍、世界を混沌へと陥れる。

 竜剣の担い手は現れず、悪しき魔女の子の手に落ちる。

 彼の者は愛しき者を失い、邪竜となりて全てを滅ぼすだろう。

 そんな未来を、一人の老女が予見した。


「……そう、中々に悪い未来ねぇ」


 すっかり冷めてしまった紅茶で渇いた喉を潤し、軽く溜息を吐く。

 長い白髪を後ろで三つ編みにし、黒いローブ姿はまるで絵本に出てくる魔女のようだ。

 老女は椅子から立ち上がり、背筋を真っ直ぐ伸ばして歩き出す。向かった先は玄関で、古い扉を開けると一面草原が広がる外へと出た。青空が無限に広がり、微風が老女の頬を撫でる。いつもならその心地よさに気分を良くするのだろうが、今はそんな気分には浸れない。


「やれやれ……アタシの千里眼で視てしまったからには、当たるのが常なんだけどねぇ。さて、どうしてものか……」


 老女はいずれ来たる禍をどうやって回避しようかと頭を悩ます。しかし今の己に出来る事は何一つ無く、ただ待つ事しか出来ない現状に溜息を吐いてしまう。


「来るべき時が来たのかねぇ……フム……?」


 ふと、老女は空を見上げた。視線は空に向いているが、その紅い瞳は空を映してはいない。

 老女はニヤリと笑い、これは面白いと年甲斐も無く胸を躍らせる。


「そうかい、そうかい……! あの坊やが来るかい! なら、大人しく待っていようかねぇ」


 老女は笑いながら小屋へと戻っていった。

 老女が視た未来とは、果たして光か闇か。

 それを老女以外が知るのは、まだ先の話である。






 少女は暗闇の中で目を覚ました。

 身体に身に纏う布はあらず、白く美しい肌とメリハリのある身体を露わにしたまま、岩のベッドから降りる。少女の足下には幾つもの骸が転がっており、それが日常なのか少女は気にせず、まるで部屋に落ちているゴミのように足で退かしながら歩く。

 少女が向かった先には、妖しく光り輝く魔力の膜があり、その向こう側には何かがある。

 その何かに縋るように撓垂れ、ブツブツと何かを呟く。


「――うん――うん――わかった――ここに連れてきたらいいんだね――」


 少女は妖しく笑い、立ち上がってその場から立ち去っていく。

 魔力の膜の向こう側で、何かが嗤った。


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