碧生

〔葵〕

 ライブが終わり,会場を出て歩いていた。駅の近くで青藺たちと別れ,1人でとぼとぼ,もしくはとろとろと,とことこと徒歩で歩いていた。楽しかったなあ。また,3人で集まるのも良いかもしれない。

 少し歩くと,一瞬眩暈がした。何事かと目を凝らすと,男の子がいた。どこかで見たことがある。

「碧生?」

 人違いだったら恥ずかしいが,声に出さずにはいられないほど似ていた。しかし,碧生は10年前に亡くなっている。少しバツが悪かった。男の子は,何かに応えようと口をぱくぱくとさせているが声は出ていない。

 その男の子を見ていると,何かをあげなければならない気がした。かばんを探ると,パーティー用のクラッカーが入っていた。結構うるさくて,テープも長めの,大きいやつだ。渡そうとすると,どこからか懐かしいメロディが聞こえてきた。いつの間にか,曲のタイトルを口に出している。

「fight with this」

 瞬きをすると,男の子は消えていた。

「あ,碧生?もしかして,お化けだったりして」

 自分で口に出してみて,急に怖くなって,歩調を速めた。そこで,蒼威から電話がかかってきたもんだから本当にびっくりした。

「ねえ,葵,今日のライブどうだった?」

「よかったよー。あーくんが作った曲はわかんなかったけど。」

「人はね,知らないことを幸福と呼ぶんだ。」

「えー,知りたいなあ。あ,そうだ,さっきあった怖い話聞く?」

「一応聞いておく」

「眩暈がしたら碧生がいてね,瞬きしたらいなくなってたの。懐かしい曲も流れてたし,今思えば怖い話じゃなくて,心温まる良い話かもしれないね」

「夢でもみてたんじゃない?本当にあったの?」

「自信はないな」

 もうなんでもありだね,と蒼威が笑った。

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