第203話 カエデの実施訓練

「カエデ、索敵しているか?」

「してるで。今んとこ大丈夫や」


 リヒト達一行はベースに戻って来ている。カエデの訓練がイオスと2人での訓練から、大森林の中で対魔物との実戦に移行している。それだけ、カエデは実戦も大丈夫と判断しての事だろう。

 だがまだ、逐一イオスが指示を出している。


「カエデ、索敵だけでなく魔力感知も意識するんだぞ。出来る様になるからな」

「分かった!」


 カエデもなかなか様になっている。イオスとカエデに続いて、シュシュに乗ったハルとコハルが続く。


「いい天気らなぁ」

「本当ね。気持ちいいわね」

「お昼寝日和なのれす」


 こっちは緊張感がまるでない。


「イオス兄さん!」

「おう」

「ハルちゃん、来るわよ」

「らいじょぶら。大型じゃない」

「ハルちゃんは、気配で大型かどうか分かるんやな」

「カエデ、来るぞ」

「はいにゃ!」


 右正面から猪の様な魔物が突進してきた。頭に大小2本の角がある。


「いくで!」


 カエデが構える。突進して来る魔物。カエデにロックオンしている。

 カエデが双剣で斬りつけるが致命傷にはならない。


「くそ! もう1回や!」


 今度は魔物の首を狙って斬りつけた。


 ――プギャァァァ!!


 断末魔の叫びをあげて、倒れた。


「まあまあだな。中型くらい1発で仕留める様になんねーとな」

「んー! 悔しいなぁ!」


 イオスがマジックバッグに収納している。


「晩飯のオカズになるかもな! アハハハ」

「おー、仕留めた」

「まあまあじゃない? 中型だし」

「まだまだなのれす」


 コハルは厳しい。


「シュシュ、ちょっと降りりゅじょ」

「ハルちゃんどうしたの?」

「薬草見っけた」

「あらそう」


 シュシュが伏せると、ハルがよいしょと降りる。


「こりぇ、ポーションの材料になりゅんら」

「へえ〜、ハルちゃんよく見つけたわね」

「りゅしかとかーしゃまに教わってりゅかりゃな」

「かーしゃまって、リヒトの?」

「しょうら。かーしゃまは何れも知ってりゅんら」

「へえ〜」


 薬草を小さな手で根を残して摘んでいく。


「ハルちゃん、全部とっちゃわないの?」

「ん。根を残しちょいたら、また伸びてくりゅかりゃな」

「そうなのね〜」


 ハルがしゃがみ込んで薬草を採っている。小さな背中をまぁるくして、薬草を採取している姿がほのぼのとしている。


「カエデ、警戒しとけよ」

「はいにゃ」


 カエデとイオスが周りを警戒している。


「イオス兄さん!」

「ああ、何頭か分かるか?」

「えっとなぁ……3頭や!」

「よし。シュシュ」

「分かってるわよ」

「おりぇは?」

「ハルちゃんはあたしに乗ってくれるかしら」

「分かっちゃ」


 ハルを乗せたシュシュがその場から離れる。

 大森林の奥から、狼の様な魔物が3頭も出てきた。普通の狼より2回りは大きい。


「カエデ、こいつは早いぞ」

「はいにゃ!」


 カエデが先制して先ずは1頭。残り2頭がカエデに向かって行く。

 中型でもまだ小さい方だが、小回りが利いて素早い。


「カエデ、そっち1頭行け!」

「はいにゃ!」


 イオスが指示を出しながら1頭仕留めている。

 残り1頭をカエデがすれ違い様に斬りつけて仕留めた。


「ふぅ、まだ複数で来られるとちょっと焦ってしまうわ」

「落ち着けよ。カエデなら大丈夫だ」


 カエデは強くなった。毎日毎日、滅げずにイオスと訓練を続けている成果だ。


「ハルー! カエデ! イオス! シュシュ!」

「あ、ミーレ姉さんや! こっちやでー!」

「お昼よー! 戻ってらっしゃい!」

「はいにゃー!」

「ハルちゃん、お昼よ!」

「シュシュ、戻りょう!」

「お昼なのれす!」


 皆でベースに戻って行く。平和な日常だ。


「たらいまー!」

「ハル、クリーンしなさい」

「あい」


 ルシカがハルの世話を焼く。


「りゅしか、今日の昼めしは何ら?」

「今日はクリームシチューです。ハルの好きなウサギの肉を使っていますよ」

「やっちゃ! うしゃぎ!」


 ルシカにハル用の椅子に座らせてもらう。


「あー、腹減った!」

 

 リヒトもやってきた。


「イオス、カエデと出ていたのか?」

「はい。まあまあですね」

「そうか。カエデ、今日はどうだったんだ?」

「リヒト様、大型は出てけーへんかったけど、中型を何頭か倒したで」

「そうか。慣れだからな。焦らず冷静にだ」

「あかんねんなぁ。何頭かまとめて出てこられるとちょっと焦ってしまうねん」

「慣れだ、慣れ」

「そうですね。実戦経験がまだまだ足らないッスからね」

「ねえ、ルシカ。あたしは沢山入れてね」

「おりぇも!」


 ハルとシュシュは、全く聞いていない。クリームシチューの方が気になるらしい。


「はい、皆さんどうぞ。食べて下さい」


 ルシカと厨房の者が出してくれる。


「うましょー!」

「沢山食べて下さい」

「りゅしか! いたらきー!」

「はい、どうぞ」

「食べるなのれす!」


 ベースで働いている者達もバラバラと食堂に入ってくる。

 お昼の時間は窓口はお休みだ。隣のスペースに併設されている食堂が冒険者達で賑わう。


「リヒト様、終わりましたか?」

「あ? あともう少しだ」

「そうですか、頑張って今日中に終わらせて下さい」

「まあ、そう急ぐ事もないだろう?」

「リヒト様、終わらせてしまいましょう」

「お、おう」


 ルシカは容赦ない。リヒト、頑張れ。


「んまい! やっぱ、うしゃぎらな!」

「アハハハ。ハルは本当にウサギの肉が好きだなぁ」

「らって、りひと。美味いじょ!」

「ああ、確かにな」

「こんろ行ったりゃもっと持って帰りゃなきゃな」


 ハルさん、お気に入りだ。食べたらハルとシュシュはお昼寝だ。

 また、カエデとイオスは裏へ訓練をしに、リヒトは書類仕事のラストスパートだ。

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