第198話 ニークの家で

「これから大公に会って来ようと思う。魔道具も渡しておきたいからな」


 魔道具とは、あれだ。魔力を流せば離れた場所でも会話ができる魔道具だ。てか、急に行っても会えるのか? 何か? 城で長老は顔パスなのか?


「長老、俺も一緒に行くぞ」

「そうか、じゃあイオス。ハルを頼んだぞ」

「はい、長老。任せて下さい」

「ハル、大人しく待っているんだぞ」

「ん、じーちゃんも気をちゅけりゅんらじょ」

「ああ、ありがとうな」


 ハルの頭をポンポンとした長老。そして、リヒトとルシカを連れて転移して行った。


「じーちゃん、今転移しゅりゅのに杖使わなかったじょ」

「ハル、長老は人のみ数人だったら杖なしで転移するぞ」

「いおしゅ、しょうなのか?」

「ああ。馬とか馬車も一緒に転移させる時は杖を使われるけどな」

「しゅげーな。おりぇまら無理ら」

「いや、その歳で転移できるのが凄いからな」

「ハルくんも出来るのですか?」

「ニークしゃん、おりぇはまら短距離ら」

「はぁ……エルフって凄いなぁ」

「いやいや、ニーク。今聞いてなかったか? ハルのこの歳でだな」

「あ、そうでした。今、イオスさんが言ってましたね。アハハ」

「ね、規格外よね」

「シュシュもできるじゃないですか」

「もちろんよ。あたしは長距離出来るわよ」

「やっぱ聖獣は凄いんだ」

「当たり前じゃない〜! あたしは聖獣なんだからぁ」

「自分はシュシュの転移はいいわ」

「シュシュはまだひよっこなのれす!」


 ポンッとコハルが出てきてシュシュの頭に乗って足でタシタシと踏んでいる。


「え? ひよっこ?」

「やだ、コハル先輩。許して」

「えぇ? コハルちゃんの方が先輩なんだ?」

「そうなのよ。コハル先輩には敵わないのよ」

「あたりまえなのれす」


 へへん、と胸を張るコハル。


「こはりゅは神使らもんな」

「そうなのれす」

「もうね、同じ聖獣でも格が違うのよ。別格なの」

「そうなんだ。こんなに小さくて可愛いのに」


 言うだけ言ってサッサとハルの亜空間へ消えるコハル。フサフサの尻尾がフリフリしていて後ろ姿が可愛い。


「ホント、いつ聞いてるか分かんないわ。油断大敵ね」

「ハルちゃん、イオス兄さん、ニークさん、お茶入れたで」

「おう」

「カエデちゃん、ありがとう」

「かえれ、お昼はろーすんら? りゅしかが昼飯に間に合うように帰ってくりゅかなぁ?」


 ハルさん、お昼ご飯の心配ですか。


「そう長くはかからないでしょう? あら、カエデ。お茶美味しいわ。上手になったわね」

「ほんま? ミーレ姉さんありがとう! やっぱ継続は力なりやな」

「え? そう? てっきり『塵も積もれば山となる』て言うかと思ったわ」

「それもやけど。お茶入れるのは毎日ロムスさんに見てもらってたから」

「それで、継続なのね」

「そうやねん。どんなことも継続することで成功につながるってな」

「そうね。毎日毎日ロムスさんにお茶をいれていたから上手になったのね。偉いわ、カエデ」

「じゃあカエデ、もう1つの継続だ。お茶飲んだら訓練しよう」

「はいな、イオス兄さん!」


 カエデは偉い。コツコツと努力のできる子だ。


「よく毎日訓練なんてできるわね」

「ミーレ、あなた本当に訓練嫌いなのね」

「嫌いじゃなくて、する気がないのよ」

「違いが分からないわ」


 ミーレ、頑張ろう。


「おりぇ暇らかりゃ杖れ飛んろこうかなぁ……」

「「それは駄目!」」


 あらら、ハルちゃん。イオスとミーレに同時に止められてしまった。

 長老達が戻ってくるまで、大人しくしていよう。


「それじゃあハルくん。もしかして魔道具とかも作れたりするのかな?」

「作りぇりゅのと、作りぇねーのとありゅじょ」

「前にもらった魔道具なんだけど」

「話しゅやちゅな」

「そう。これ、魔力を溜めたりとかできないかなぁ? 俺、魔力が少ないから溜めておければもう少し話せるかな? て、思ったんだけどさ」

「ニークしゃん、いい考えら」

「そう? ハルちゃんできる?」

「ん、ちょっと変えりゅらけらかりゃできりゅじょ」

「本当? 変えてもらえるかな?」

「いいじょ」

「じゃあ、これ……」


 ニークが首に掛けている魔道具をハルに渡した。


「ハル、分かるのか?」

「ん、こりぇじーちゃんと一緒に作ったんら」

「ハルくんも?」

「しょうらよ。帰りゅ時にニークしゃんに渡したいかりゃ、て、じーちゃんに相談したんら」

「そうだったんだ。ありがとう、嬉しかったよ」

「へへん。良かっちゃ」


 ハルが魔道具を手に何やら集中している。すると、魔道具がパカッと空いた。コンパクトの様になっていたらしい。

 そして、またハルが何やら集中すると、魔道具が光った。そしてまたパコンと閉める。


「こりぇれいい」

「え……それだけ?」

「ん、いっぱいに溜まったらこの魔石が赤くなりゅ。しょれまれは溜めりゃりぇりゅ」

「満タンに溜めてどれ位話せるのかな?」

「しょうらなぁ。こりぇはまら使ってりゅ魔石が小っしぇかりゃ15分位かな」

「充分だ! ありがとう」

「こりぇ位、どーって事ねー」


 その頃……大公に会うと言っていた長老達だが。城の前に出てきている。


「長老はいつでも大公に会えるのか?」

「会える訳なかろうが」


 長老が何やら集中して探っている。


「は? じゃあどうすんだ?」

「リヒト、決まっておるだろうが」

「まさか……!」

「ハッハッハッ!」


 そう、長老はリヒトとルシカを連れて今度は城の中へと転移して行った。長老、それは不法侵入と言うんだぞぅ。


「え……!?」

「あなた方は……!?」

「ご無沙汰しておりますな、大公閣下」

「すんません、突然」

「申し訳ありません」


 長老は、大公の執務室にいきなり転移した。長老が城の前で何やら探っていたのは、大公の居場所だったんだ。

 突然、現れたエルフ3人に大公は声も出ない。リヒトとルシカも申し訳なさそうにしている。


「いやぁ、ハッハッハ。エルフを舐めてもらっては困りますなぁ」

「貴方は、エルヒューレ皇国の!?」

「はい、覚えて下さっておりますか? 長老です。これはリヒトとルシカですよ」

「いや、突然!? どうやって!?」


 大公の側近が慌てふためいている。


「エルフはこんな事もできるんですなぁ」

「すんません! 突然驚かれるのは分かりますが、敵意はありませんので!」


 リヒトまで慌てている。長老、全く動じていない。むしろ、楽しそうだ。さすが、ハルの曽祖父。さすが、あのアヴィー先生の旦那さまだ。斜め上をいっている。

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