第196話 シュシュの知性?
「とにかく、これで解毒と浄化は終わった。我々の仕事はおしまいだ。リヒト、国に帰るか?」
長老がリヒトに確認した。普通なら確認する事でもない。終わったのだから、帰るのが普通だろう。
「長老、少し調べてみないか? 何も手掛かりがないから調べ様がないのかも知れないが」
「いいかしら?」
「シュシュ、どうした?」
「あたしが飛ばした風魔法で腕を怪我している筈なの。服だって左腕の部分が切れている筈よ。それに、あたしが元の大きさに戻れたら匂いも嗅げるわ。匂いの跡をつけたりはできないけど、覚えておくのは良い事でしょう?」
「なるほど。どちらにしても、このまま放置する訳にはいかんな」
「長老」
ルシカが徐に手を上げた。
「どうした、ルシカ」
「とりあえず、私とイオス、ミーレでこの邸にいる人達に聞いて回ります。気になった者や不審者がいなかったかどうか。今なら治療した人達も全員ここにいますから」
「そうだな、頼む」
「はい。イオス、ミーレ」
「はい」
「分かったわ」
3人が部屋を出て行った。
「しゅしゅ、心配したんらじょ」
ハルが小さなシュシュを抱っこして膝にのせナデナデしている。
「ハルちゃん、ごめんなさいね。元の大きさになれたら、足で踏みつけてやるんだけど」
いやいや、そんな事をしたら死んでしまう。潰れてしまう。
「りゅしかのおやちゅを1回食べしょこねた」
「おやつなの!? あたしじゃなくておやつなの!?」
そんな事はない。本当にハルは心配していた。あんなハルは初めて見た。
「しゅしゅらけじゃなくて、みんな危ないのはらめら」
「そうだな、ハル」
膝にシュシュを乗せているハルの頭を長老が撫でる。
「じーちゃん、何なんだりょうな?」
「さあ、ワシにも分からん」
「長老、リヒト様、ハルちゃんも、お茶いれたから。ルシカ兄さんからクッキーも預かってるねん」
「かえれ、りゅしかのクッキー?」
「ハルちゃん、そうやで。ハルちゃんがおやつ食べへんかったから預かってたんや」
「おー。やっぱ、りゅしからな」
ちょっとハルちゃん元気出たかな?
「食べりゅじょ! かえれ、おりぇ果実水がいい」
「はいはい。ハルちゃん」
「カエデ、俺も食べる」
「ワシもだ」
「はいにゃ!」
やっと普段の雰囲気に戻った。ハルに元気がないと心配だ。
ハルがカエデにもらってクッキーを食べていると、ルシカが戻ってきた。
「長老、リヒト様。毒クラゲのいた井戸の近辺で見掛けない男を見た者が数名いました! 話を聞いていると、どうやら毒クラゲの騒動がおこる前夜だったみたいなんです」
「ルシカ、それ、そいつに決まりなんじゃないか!?」
「見慣れない者だったので、声を掛けた者がいたんです。その者の話をイオスとミーレが聞きに行っています」
「ねえ、黒いマントを着ていなかったかしら?」
「シュシュ、その通りなんですよ。それでイオスが詳しい話を聞きに行っています」
「長老、決まりだわ。あたしとイオスが追っていたのも黒マントの男だもの」
だがな、シュシュ。黒のマントを着ていた、てだけだ。それに、マントを着ている人は他にも普通にいる。
「シュシュ、決めつけるのはまだ早いぞ。手掛かりが少ないからな」
「長老、そうかしら?」
「ああ。もっと決定打が欲しいな。状況証拠ばかりだ」
「ならさ、そいつが井戸にクラゲを入れたとしたら、俺達を付け回していたのはなんでだ?」
「リヒトったらおバカなの?」
「シュシュ、なんでだよ!」
「だって、そんなの決まってるじゃない! マジで分かんないの?」
リヒト、シュシュにバカにされているぞ。
「じゃあ、シュシュは分かるのかよ」
「当然じゃない! ハルちゃんだって分かっているわよねー?」
「ん……」
ハルさん、お口の中がいっぱいで喋れないらしい。コクリコクリと頷いている。
「じゃあ、何だよ」
「何が目的なのかは分からないわよ。でもね、そいつが池や井戸にあの毒クラゲを入れたんだとしたら、その毒を解毒して浄化するあたし達が目障りなのよ。だから、見張っていたんじゃない?」
「シュシュの言う通りだな」
「ね、長老。それしかないわよね。自分も毒に侵される危険を冒してまで毒クラゲを入れたのに、アッサリ解毒されちゃうのよ? しかも、態々エルヒューレからやって来てよ。想定外だろうし、そりゃぁ邪魔でしょう」
「アハハハ。シュシュの言う通りだ! リヒト、本当に分からなかったのか?」
「いや、まあ……なんだ。邪魔なんだろうとは思ったさ」
「プハハハ!」
「長老! 笑いすぎだ!」
「りひと、まじやべー」
「ハル! 何がヤバイんだよ!」
ああ、リヒト。本当に君は。ヒーロー枠なんだよ。頑張ってくれ。
「やっぱ、あたしがいなきゃだめね。あたしの溢れ出る知性が黙っていないわ!」
「はいはい」
「やだ、リヒト。妬いてんの? あたしの知性を! この溢れ出す知性を!」
「妬いてねーよ!」
「まあ、とにかく。その目撃者から何か分かったらいいんだがな」
「ええ。しかし、時間も遅かった様なので、人相等は無理でしょうね」
ルシカが、クッキーの屑をつけたハルのほっぺを拭きながら言った。ほっぺを拭かれているハルも可愛い。ほっぺを拭かれているだけなのに、両目をぎゅっとつむっている。
「そうか、夜遅くか。そりゃそうだな。早い時間だったら目立つからな」
「長老、そうですね」
解毒と浄化をして回るエルフが邪魔だから後をつけた? それとも、このエルフ達は何をするんだ? と、気になって後をつけた? どっちにしろ、シュシュの言う様に邪魔なんだろう。
後をつけていると言う事は、はっきりとリヒト達を認識している。この後、どう出てくるかだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます