第188話 ニークからの連絡
「ハル、昼食はリヒト様やご家族と一緒ですよ」
「じゃあおりぇはあっち?」
「そうですね。イオス、頼みましたよ」
「おう、了解」
シュテラリール家には、家族の為の食堂と使用人用の食堂がある。今日の昼食は家族の為の食堂で食べるらしい。リヒトの家族皆と一緒だ。
家族が誰も一緒に食べられない時等は使用人用の食堂でミーレ達と一緒に食べる。ハルが1人だけで食べる事のないようにとの配慮だ。
イオスに連れられて、ハルが食堂に入ると既にリヒトとリヒトの兄がいた。
「りひと、おかえり」
「ああ、ただいま」
イオスにハル用の椅子に座らせてもらう。
「ハル、また迎えに来るからな」
「ん、分かっちゃ」
イオスが迎えにくるまで、フラフラ勝手に動くなよという意味だ。
「にーしゃまも一緒らったのか?」
「城にか? 城には父上も一緒だったんだ。長老とアヴィー先生の話を聞きにな」
「しょっか」
また何かあったのだろう。でないと呼び出されたりしない。
リヒトの両親もやってきて、一緒に食事をする。今日の昼食はハルの大好きなヒュージラビットの肉が出てきた。
「んまい! こりぇ、うしゃぎら!」
「ハルは本当にヒュージラビットの肉が好きだなぁ」
「りひと、らって美味い」
「ああ、美味いな。絶品だ」
「やっぱもっちょ持って帰ってきたりゃよかった」
「アハハハ! どんだけ食う気だよ」
「しょんなのいっぱいに決まってりゅ」
「そうか、いっぱいかよ!」
「アハハハ。ハル、まだ沢山ある。しっかり食べなさい」
「あい、とーしゃま」
言われなくても、ハルのお口には沢山入っている。モグモグモグと食べる。美味しそうにお口いっぱいにして食べる。
「ハルちゃんを見ていると幸せね」
「ああ、まったくだ。ちびっ子がいるだけで家の中が明るくなる」
「ええ、本当に」
リヒトの両親が微笑ましくハルを見ている。温かい家族の一場面の様だ。
「ハル、食べたら話があるんだ」
「あい、とーしゃま」
きた。やっぱきたよ。と、でもハルは思っていそうだ。態々、城に呼ばれたんだ。何もない筈がない。プライベートの話なら長老は殆ど毎日来ているのだからその時に話すだろう。
食事を終え、隣の談話室に移る為部屋を出るとイオスが待っていた。ハルと一緒に談話室へと移動する。皆が揃っていた。ミーレがフルーツジュースを出してくれる。
「みーりぇ、ありがちょ」
ミーレがニコッと微笑んで下がる。
「さて、話と言うのはだな。城に呼ばれた内容なんだ」
リヒトの父が話し出した。
城に呼ばれた理由。それは、アヴィー先生に入ったニークからの一報だった。
「ニークしゃん……」
「ああ、魔道具で連絡してきた」
ニークの魔力では詳しい事は話せなかったらしいのだが、アンスティノス大公国でまた毒クラゲが発見されたと言う事だった。
「え……また?」
「ハル、そうなんだ。おかしいだろう?」
「ん」
リヒトが言う様に確かに変だ。あの毒クラゲは人為的なもので、その犯人は捕らえた。なのに、何故また? そして今度は一体どの様にして?
「まだ詳しい事は分からない。少しずつアヴィー先生がニークに確認中だ。だが、またアンスティノス大公国へ行かなければならないだろうと言う事を覚悟しておいてほしい」
アンスティノス大公国。ヒューマン族と獣人族の国。一体どうなっているんだ? あまりにも、危機管理が杜撰ではないだろうか?
「ニークしゃんは無事なんらよな?」
「ああ、それは確認できている。どうも、よく似た症状の者達がいて薬湯を依頼されたニークが不審に思い、水源を確認したら毒クラゲ発見されたといった感じではないかと言う事だ」
「クラゲはヒューマンでも退治できるのだろう?」
兄のスヴェトがリヒトに確認する。
「できますよ。普通に人力でクラゲを取り出して切り刻めば良いだけだ」
「だが、クラゲの毒が問題か……」
スヴェトの言う通りだ。あのクラゲの毒は周辺を汚染する。だから、解毒だけでなく浄化もリヒト達が処理していた。
「しかし、毒クラゲを持って来るだけでも毒に侵される可能性があるのに一体どうやって持ってきたのか?」
リヒトの疑問も無理はない。毒クラゲの生息地だった地底湖周辺は毒に侵されていた。そんなクラゲをどうやって捕らえて、どうやってアンスティノス大公国まで人知れず持って来たのか?
そんな事がヒューマン族に出来るのか? いや、出来るのだろう。先の一件でもヒューマン族の冒険者が毒に侵されながらも持ち帰っていた。
だが、生息地にいた毒クラゲはリヒト達が既に処理している。まだ他に生息地があるのか? そもそもシュシュがあの地底湖には元々毒クラゲは生息していなかったと言っていた。
「シュシュ、あの地底湖の他に毒クラゲがいたりするのか?」
「あたしは知らないし、見た事もないわ。あの地底湖にいる事さえ知らなかったもの。あのクラゲは異常よ。本当によくあんなクラゲが自然界にいたと思うもの」
なるほど。物知りのシュシュでも知らないと。そうなると、今現在問題になっているクラゲを処理するしかないのか?
「なんともスッキリしない案件だな」
リヒトの父が言う様に皆が腑に落ちない表情をしている。
「リヒト、そのクラゲを持ち帰ってこれないかしら?」
研究者であるリヒトの母が聞いた。
「母上、何か毒に強い容器でもあれば可能ですが」
「それなら問題ないわ。私が用意するわ」
「では、クラゲが残っていれば可能ですよ。ニークの話によるともう既にクラゲを処理しているかも知れませんから」
「そうね。もし手に入る様なら持ち帰って欲しいの? 私の方で調べてみるわ」
「了解です」
とは言え、まだどうこうしろと言う話は出ていない。近い内にアンスティノス大公国へ出向かないといけないのだろうが。
「ああ、ハルちゃんお昼寝だわ」
さっきからハルがコクリコクリとしている。
「ミーレ、お願いね」
「はい、畏まりました」
ミーレがハルを抱っこして退出していった。その後をシュシュが行く。一緒にお昼寝するのだろう。
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