第162話 原初のエルフ

「ハル?」

「1番がここ、2番が北、3番が北西のりりぇいしゃんのとこ、4番が南西、5番が南東、最後が城の下ら」


 現れた壁画には、原初のエルフが世界樹の周りに国を作ろうとしている様な場面が描かれていた。精霊も沢山描かれている。原初のエルフと精霊は意思疎通ができていたらしい。

 建国当時の事なのだろう。そこに描かれていたエルフは髪色と耳の尖り具合から推測してハイエルフだと思われる。ただ、壁画にはハイエルフ種は描かれているが、エルフ種が描かれていない。もしかすると、原初のエルフは皆ハイエルフだったのかも知れない。

 ヒューマン族がハイヒューマンから枝分かれしたのと同じ様に、エルフ族もハイエルフから枝分かれしたのかも知れない。

 それも、今後の調査で明らかになるのだろうか?

 大森林の遺跡にも、隠された壁画があった。しかも、順番も明らかになった。これはまた、大森林の遺跡の再調査は重要だ。

 ハルはもう飽きているようだが。


「ハル、他は気になることはないか?」


 長老も神眼で見ているのだろう。眼がゴールドに光っている。


「ん、ないじょ。ここも精霊達が頑張って守ってくりぇてたんりゃ。ありがちょな」

「そうか、おばば様もそう言っていたな」

「ほんちょに大森林には精霊がいっぱいなんら。ヒューマンの国にはあんまいなかった」

「そうなのか?」

「ん、アンスティノスはらめ。精霊が住みにくいんらって」

「だって木や自然が少ないもの」

「しょう、みーりぇの言う通りら」


 無事に最初の調査を終えた一行。ベースに戻ってきた。

 

「リヒト様、少し宜しいですか?」


 ベースで働いているエルフだ。


「どうした?」

「先程、冒険者が……」


 リヒトはあれでもベースの管理者だ。


「分かりました。では、明日調査隊を出します」

「おう、くれぐれも気をつけてな」

「はい、了解です」


 何かあったのだろうか? それほど急ぐ様でもないみたいだが。


「リヒト、どうした?」

「長老、冒険者がゴブリンに襲われたんだ」

「ゴブリンか? 冒険者なら討伐できるだろう?」

「そうなんだが……ゴブリンが複数で連携を取って襲ってくるそうなんだ。念のため、明日調査に向かわせる」

「ゴブリンが複数で連携か……嫌な感じだな」

「そうなんだ」


 ハルは意味が分からずキョトンとしている。


「ハル、ゴブリンは普通連携を取ることはないのですよ。複数でしかも連携してくると言うことは、指示を出して率いている上位種のいる可能性があるのです」

「嫌だわ」

「嫌だわね」

「ほんと、嫌だわ」


 女性陣とシュシュが嫌そうな顔をしている。


「みーりぇ? なんら?」

「ハル、ゴブリンは臭うのよ」

「え……また? オークじゃなくてか?」

「オークはね、巣や食料が臭うの。ゴブリンはゴブリン自体が臭うのよ」

「え……」

「そうなのよ、ハル。もう血液なんてついたら最悪よ」

「そうそう、洗っても洗っても臭いがとれないもの」

「服に付いたりすると捨てちゃうもの」

「あたしなんて脱げないもの。服は脱げるからいいじゃない」


 そんなになのか……


「どっちにしろ、少し討伐しないといけないでしょうね」


 心なしかルシカも嫌そうな気がする。


「とにかく臭うのですよ」

「お、おう」


 やはり、嫌そうだ。


「りゅしか、りゅしか」

「ハル、お腹が空きましたか?」

「ん、はりゃ減った」

「お昼にしましょう」


 いつもの様に美味しくルシカの昼飯を食べて、お昼寝したハルさん。起きたらリヒトとルシカが出かけていていなかった。


「戻ってきた冒険者がゴブリンの巣を見つけたと報告してきたから調査に出たんだ」

「いおしゅ、ゴブリンの巣?」

「ああ。ゴブリンが巣を作っているなら確実に上位種がいる。最低限ホブゴブリンだな。ゴブリンキングやゴブリンロードがいたらちょっとウザイ」


 ちょっとウザイ。その程度なのか? 上位種なのだろう?


「ちょっと知恵があるんだ。だが、エルフの敵じゃないぜ」


 ほう、イオス。楽勝モードだな。


「だがなぁ……」

「いおしゅ、何ら?」

「絶対に血液はつきたくない。マジ、臭い」

「ありゃりゃ」

「出来るだけ弓で倒してしまいたいな」

「お、おう」


 そんなになのか? ふんふんと聞いているハル。


「かえれ」

「ハルちゃんどうしたん?」

「おやちゅが食べたいじょ」

「アハハハ、そうやった。じゃあ今日はカエデちゃんが作ったげるわ」

「カエデ、あたしも食べるわ」

「食堂に行くか?」

「ん、いおしゅ」


 ハルがカエデの作ったパンケーキを食べているとリヒトとルシカが戻ってきた。ハルは、モグモグとほっぺを膨らませて生クリームもつけている。長老もリヒトが戻ってきたのを聞きつけて食堂へやってきた。


「ハル、おやつか」

「ん、りひと。食う? かえれがちゅくった」

「おう、カエデ。俺も欲しい」

「はいな、リヒト様」

「リヒト様、ルシカ、どうだった?」

「イオス、結構デカイ巣を作っていたぞ」

「え、マジッすか?」

「残念ながら本当です」

「30いや40位はいるかもな」

「えぇー……」

「マジ、討伐しないとな。ウザイけど」


 やはり、ウザイんだ。


「じゃあ、おりぇはりゅしゅ番れ」

「いや、ハル! なんでだよ! ズリーぞ!」

「りひと、らっておりぇくちゃいのはやら」

「俺だって嫌だよ!」

「アハハハ! 臭いのは嫌か! カエデ、ワシは茶だけもらえるか?」

「はいにゃ」

「長老、笑ってないで何とか言ってくれよ」

「リヒト、だがな。ハルが必ず参加しないといけないかと言うと、そんな事はないだろう?」

「まあ、そうだけど」

「だが、ハル。何でも経験だ。討伐には参加しなさい。攻撃するかどうかはその時の状況で決めれば良い」

「ん、分かっちゃ」


 と、ハルさんも気乗りがしないらしい。

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