第107話 イオスと手合わせ by.ハル

 翌朝、早くにロマーティとシオーレが長老とリヒトを迎えに来た。


「じゃ、行ってくる。ルシカ、頼んだ」

「はい、リヒト様」

「ハル、じーちゃんが戻ってくるまで大人しくしているんだぞ」

「ん、じーちゃん。いってら」

「イオス、ミーレ、カエデ、頼んだぞ」

「はい」

「お気をつけて」

「いってらっしゃい」


 リヒトと長老が出かけて行った。その間、部屋で大人しくしているなんて出来るのか?


「カエデ、裏で訓練するか?」

「うん、イオス兄さん」

「おりぇ見たい」

「ハル、見るだけよ?」

「ん、みーりぇ」


 皆揃って裏庭でカエデの訓練を見学して、お昼を食べて、ハルがお昼寝から起きた頃にやっと長老とリヒトが帰ってきた。


「ルシカ、何か甘いのが食べたい」

「はい、リヒト様」

「ワシはお茶をもらえるかな」

「はい、長老。カエデ」

「はいな、ルシカ兄さん。自分、お茶入れるわ」

「お願いしますね」

「じーちゃん、リヒト、あの2人はどうなったんら?」

「親方からこっぴどく叱られたらしい。だが、一応お咎め無しだ。工房の掃除当番をずっとさせられるらしいがな」

「ん、しょれぐらいなりゃ良かった」

「そうだな。で、ハル。武器を作ってくれと言っておっただろう? 親方が詫びに作ってくれるそうだ。あの2人は助手で親方直々に作ってくれるそうだ」

「しょうなのか? りゃっきー」

「アハハハ、そうだな。なんせ2人の親方はドワーフの中でも3本の指に入る位の名匠らしいぞ。しかもエルダードワーフだ」

「しゅげー。かえれ、りゃっきーらな」

「ん? 自分は関係あるん?」

「かえれとおりぇの武器を頼んらんら」

「そーなん!? めちゃラッキーやん!」

「らな。ありぇ、じーちゃん。えるらーろわーふてなんら?」

「古代種のドワーフだ。希少種でな、現在のドワーフより能力が高いんだ」

「しゅげー! しょんな人に作ってもりゃえんのか?」

「ああ、良かったな」

「あ、そうだ。長老、カエデは短剣を双剣代わりに使っているんです。ですから短剣が2本欲しいですね」

「イオス、そうなのか? じゃあカエデは将来的には双剣か?」

「そのつもりで訓練しています。それと投擲のスキルを持っていたので、投げナイフの訓練もしてます」

「カエデ、凄いじゃねーか!」

「そう? ニャハハ、そーかにゃぁ!」


 おやおや、カエデが照れている。ずっとイオスに鍛えてもらっていたからな。頑張っているんだ。


「やだ、カエデ。いつの間に?」

「ミーレ姉さん、自分は日々成長してるんやでぇ」

「まあ、生意気」

「アハハハ! カエデ、偉いぞ」

「カエデは読み書きも完璧になりましたよ。読めても書く方が不安だったのですが、もう完璧です。魔力操作も上手になりました」

「ルシカ、そうか」

「はい。毎日少しずつ頑張ってましたからね」

「カエデ、偉いぞ」

「いやぁ、長老。そんなに褒められたら照れるにゃ〜ん! 恥ずかしいにゃ〜ん! 嬉しいにゃ〜ん!」

「アハハハ。かえれ、可愛いにゃ〜ん!」

「いや、ハルちゃん。真似はやめて」

「ありゃりゃ」

「じゃあ、ハルには護身用の短剣と、カエデに双剣代わりの短剣2本と投げナイフか」

「じーちゃん、おりぇも2本ほしいじょ」

「ハルは使えんだろう?」

「ん、れも欲しい。かっちょいい」

「アハハハ、カッコいいか。ハル、使えるか試してみるといい。イオス、見てくれるか?」

「はい、長老。分かりました」


 ハルさん、イオスに初挑戦だ。皆、揃ってまた宿の裏庭に出てきている。


「いっくじょー!」

「おう! こい、ハル!」


 小さな短剣代わりの木剣を両手に持って、イオスの懐目掛けてハルが仕掛けた。


「とぉッ!」

「お……!?」


 小さなハルがアッと言う間に間合いを詰めイオスの懐に入り込み下から斬り上げた。


「たぁーッ!」


 ――ガンッ!


「ハル、甘いなぁ」

「いおしゅ、まらまらこれかりゃら」


 ハルがそのまま後ろに宙返りして、着地すると同時にジャンプした。


「とぉッ!」


 ――カーン!


「せいッ!」


 イオスがハルの振り下ろした剣を受け止める。ハルは、もう片方の手に持っていた短剣を下から切り上げた。


「おッ、ハル。いいじゃん!」

「エヘヘへ」


 だが、それもイオスに軽く弾かれる。


「おぉ、ハル動けるな」

「長老、あれ身体強化だよな?」

「リヒト、そうだな。どんだけ強化しとるんだか。アハハハ!」

「いや、笑い事かよ?」

「アハハハ! ハル、なかなかやるなぁ」

「はぁ……もうハルだから驚かないけど。でもあの歳で、あの小さな身体であそこまで動くかよ? マジで」

「なあ、さすがワシの曽孫だ」


 嬉しそうな長老。ハルが何をやっても嬉しいのだろうな。


「ハル、なかなかやるじゃねーか!」

「じーちゃん、しょっか? れも1回もいおしゅに入れりゃんなかった」

「アハハハ! ハル、そりゃハルに1本とられたら俺の立場ねーよ」

「いおしゅ、しょお?」

「そりゃそうだ。よし、ハルも2本作ってもらおう」

「じーちゃん、ほんちょか!? ありがちょ!」

「自分凹むわー。ハルちゃん初めてやのに、めちゃ動けるやん」

「アハハハ! だから、カエデ。ハルは強いと言っただろう?」

「せやけど、リヒト様。ハルちゃんまだ3歳やで。自分、イオス兄さんに教わってちょっとは出来るようになったと思ってたんやけどなぁ。まだまだやわ。千里の道も一歩からやわ。いや、継続は力なりか?」

「アハハハ! カエデ、頑張ろうな!」

「うん! イオス兄さん!」

「カエデ、偉いぞ」


 長老がカエデの頭をガシガシと撫でる。


「え? 長老?」

「自分はまだまだだと認める事も大事だ。それで、投げ遣りになる事なくもっと頑張ろうと思える気持ちは大切だぞ」

「長老、ありがとう!」

「おう、頑張れ」

「うん!」

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