第80話 エルフの能力は反則!?
「ルシカ兄さん、ドラゴシオンて?」
「カエデ、竜族の国の名前ですよ」
大陸の北側、高山地帯にドラゴン種の竜王が治める竜族のみの国『ドラゴシオン王国』
竜族の中でもドラゴン種はエルフ族の次に古い歴史のある種族で、エルフ族よりも長生きする。成人した竜族だと、普段は人化しているが他国に定住している竜族はいない。他国との貿易や交流が目的で一時的に滞在している者はいるが、それも長い期間ではない。
「今はまだ確かな事が何も分からない。だから堪えてくれてはいるが……」
「長老、ドラゴンブレスでも吐かれたら……」
「この国等、一溜りもないな」
「マジなん!? ヤバイやん」
「そんな馬鹿な事を一体誰がしたのか……」
「なぁ、ハルちゃん。びっくりやな〜」
「ん……」
「あかん、ミーレ姉さん。ハルちゃんもうお眠や」
「ハル、お昼寝しましょう」
「ん……みーりぇ」
「カエデもこっちにいらっしゃい」
ハルがミーレに手を伸ばす。ミーレにしっかり抱っこされ、身体を委ねてムニャムニャと夢の世界へ。カエデもハルの隣でウトウトとし出した。
「さっきの甘えてくるハルといい、今といい……リヒト、ハルは大分変わったな」
「はい、長老。まあ、まだ真っ先に突進して行きますけどね」
「アハハハ。リヒト、それはもうハルの性格かも知れんな」
「普段はおっとりしてテンション低めだろ。だから、余計に驚くんだ。抱っこしていても、急にジャンプして降りてしまうからビックリするんだよ。「とぉッ!」とか言ってさ。もう何回、心臓がキュッとした事か」
「この前は、箒に跨って飛んだりしていましたしね」
「アハハハ! ルシカ、箒にか!?」
「はい、やってみたかったそうなんです。アヴィー先生も一緒になってやっていましたしね」
「アハハハ!」
「長老、笑い事ではありませんよ。途中で箒が折れてしまったんですよ」
「だから、ルシカ。今度は箒を強化すると言ってるじゃない」
「だから、先生。それは違いますと言っているじゃないですか」
「アハハハ! アヴィーも一緒に飛んだか」
「ハルちゃんは天才だわ」
「違いない。ハイエルフとハイヒューマンの血を継いでいるだけでなく、能力もすべて受け継いでいるからな」
「まあ! そうなの!?」
「ワシは『神眼』で見た時に驚いた。信じられんかったさ」
「長老、『しんがん』て?」
おや、カエデが起きているぞ。ハルはもうソファーに下ろされ、丸くなってスヤスヤと寝息をたてている。
「カエデ、あなたも少し休みなさい」
「ミーレ姉さん、気になるやん」
「カエデ、リヒトの『鑑定眼』とハルの『精霊眼』は知っているか?」
「長老、知ってるで。リヒト様に教えてもらった」
「それの最上位だ。ワシが持っている」
「まだ上があるん!? ホンマ、エルフさんの能力って反則やわ」
「アハハハ! 反則か!?」
「だって、自分らは魔法さえ使われへんのに」
「だからな、カエデ。カエデも訓練すれば多少は使えると言っているだろう?」
「リヒトの言う通りだな。カエデも使えるぞ」
「でも、長老。リヒト様みたいな鑑定眼は無理やん?」
「鑑定系はエルフでも使える者は限られている。カエデはそうじゃなくて、身体強化系だな」
「うん、長老。頑張るねん。ハルちゃんより何もかも弱かったら守られへんからな」
「ほう、ハルを守りたいと思うか?」
「長老、当たり前や。リヒト様もやけど、ハルちゃんも恩人やからな」
「そうか。カエデも良い子だな」
「やめてにゃ〜、恥ずかしいにゃ〜ん、照れるにゃ〜ん!」
「アハハハ。カエデ、頑張れよ」
「はいにゃ! イオス兄さん!」
その日、ハルはそれからも甘えた。長老とアヴィー先生のそばを離れようとしなかった。また長老とアヴィー先生も、ハルのそばにいた。そしてその夜は、長老とアヴィー先生、ハルの3人で一緒に寝た。長老とアヴィー先生の間で、スヤスヤと眠るハル。
「可愛いのぉ……」
「本当に……奇跡だわ」
「ああ、本当にな」
「ハルを初めて見た時は驚いたでしょう?」
「驚いたなんてもんじゃない。ハルからランの名前を聞いてもまだ信じられなかった」
「私もリヒトに聞いた時は頭がついていかなかったわ」
「しかしな、アヴィー。ハルの耐性だ」
「ええ。リヒトに聞いたわ。どんな辛い思いをしていたのかしら」
「ハルがこの世界に来た事は意味があるのか……それとも、耐えたハルへの褒美なのか」
「そうなのよ……」
「ワシらがしっかりと守ってやらんと」
「ええ、もちろんだわ。もう二度と奪われてなるものですか」
今から約2000年前に2人は愛娘を突然奪われた。
『次元の裂け目』と呼ばれる現象によってだ。何もない空間に突然亀裂ができ、そこへ吸い込まれてしまう。一瞬の出来事で、抵抗する事さえできなかった。何もできなかったんだ。
2人はどんな思いを抱えて生きてきた事だろう。2000年だ。想像もできない長い長い年月だ。それでも、忘れる事などできない。過去の不幸な事故だった等と割り切る事も出来る筈がない。
それが……突然目の前に現れた愛娘の孫だ。どことなく娘の面影がある。少し垂れ気味の目尻などそっくりだ。可愛くない筈がない。どれだけ喜びに震えた事か。2000年前は恨んだ神に、感謝をした程だ。
「ハルにはワシの全てを教えるつもりだ。少しでも、自分を守る手段を持ってほしい」
「そうね……」
「アヴィー、ハルは凄いぞ。リュミとほんの数日教えただけだがな……」
長老とアヴィー先生のハル談義は終わりそうもない。
そんな2人の間で、当のハルはグッスリと夢の中だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます