第68話 魔法の先生

「俺は……10歳の時です。行き倒れていたところを先生に拾ってもらい命拾いをしました。それまで名前はなかったので、ニークという名前をつけてもらいました。それから育ててもらって、薬師として生きて行ける様に色々教わりました。あの時、先生に出会わなかったら俺は確実に死んでました。先生は恩人で恩師です」

「ニーク、大袈裟だわ」

「コハルもハルに名前つけてもらったなのれす!」

「まあ! とっても可愛いお名前だわ!」


 コハルが自慢気に小さな胸を張っている。


「じ、自分もです!」


 カエデがハイッと手を上げた。


「あら、カエデちゃんも?」

「はい。街道で行き倒れていたところをリヒト様達に助けてもらいました! 自分は奴隷紋があったんですけど、リヒト様が消して下さって自由になりました! あの時、リヒト様達に拾ってもらわなければ、自分も死んでたと思います。 で、自分もハルちゃんに名前をもらいました!」


 カエデ、緊張しているのか? いつもと口調が違いすぎるぞぉ……


「まぁ、そうなの!? 大変だったのね……カエデちゃんてお名前も可愛いわ! リヒト、助けたの? お利口になったのね」

「先生、やめてください。ちびっ子を放ってはおけないでしょう?」

「そうよね。そうなのよ。なのにヒューマンは……子供は種族に関係なく宝なのよ。次の世代を担う宝よ。大人が皆で可愛がって育てなきゃダメなの。子供の頃に愛情をたっぷり与えられると、それがその子の土台になるわ。それができない種族はいつか衰退していくんじゃないかと私は思っているわ」


 なるほど。生粋のエルフ族だ。で、ハイリョースエルフなのにヒューマンの街で暮しているんだな。


「先生はいつもそう言うんです。先生に助けられた子供は俺だけじゃありません。俺で何代目でしたっけ?」

「やだ、そんなの忘れたわ。皆、ちゃんと大人になって生活できる様になって婚姻して自分の家庭を持つようになるのよ」


 ああ、本当に種族に関係なくちびっ子を助けて来たのだな。素晴らしい事じゃないか。


「ばーちゃん、魔法の先生なのか?」


 おっと、せっかく良い話をしていたのに。ハルちゃん、いきなり話を変えたぞ。


「ええ、そうよ。エルフの国にいた頃はね、教えていたわ」

「ばーちゃん、おりぇ光っちゃうんら」

「……ん?」

「アハハハ!」

「りひと、わりゃうな!」

「ハル、どう言う事かしら?」


 ハルは辿々しくも説明した。初級は大丈夫だけど、精霊眼や中級以上を使うと身体が光ってしまう。長老はまだハルが小さい事と魔力操作が上手く出来ていないからだと言う。


「そう……光っちゃうのね。ウフフフ」

「あ……ばーちゃんもわりゃった」

「え? 何かしら?」

「じーちゃんもわりゃうんら」

「まあ! アハハハ」

「ばーちゃん!」

「フフフ、ごめんなさい。じゃあ、ハル。おばーちゃんと手を繋ぎましょう」

「あい……」


 ハルは、アヴィー先生が出した手に自分の両手を重ねる。


「ちょっと見せてね」

「ん……」


 アヴィー先生がハルに魔力を流しているらしい。ハルの身体がじんわりと光り出した。


「ああ……そうね、分かったわ。でも、あの人が見逃す筈がないと思うのだけど……」


 ん? 何だ?


「ハルちゃん、今度は私が流す魔力を辿ってみて」

「ん……」


 重ねた手から温かいものがゆっくりとだがしっかりとハルの身体の中に入ってくる。手のひら、両腕、胸のところを通ってお腹へ……ん?


「ありぇ……」

「そう、わかる?」

「うん、なんか止まっちゃう」

「でしょ。生まれつきここが細いか半分蓋がされた感じなのかも知れないわ。成長と共に改善されると思うんだけど、今から私が広げるわね」

「うん……」

「大丈夫、ちょっと温かくなるけど……そぉっと広げるわね……」


 さっき、つっかえたお腹の辺りでアヴィー先生の魔力が少しずつ進みながら広がっていく。慎重に少しずつ……でも、確実に。


「ん……」

「通ったわね」

「うん、なんかしゅっきりした! 身体が軽くなったじょ。ばーちゃんしゅげー!」

「これで、光らないんじゃないかしら? ハル、ニークを精霊眼で見てみて」

「え、いいのか?」

「構わないわ。遠慮しないで思いっきり見てちょうだい」

「じゃあ……」


 ハルの瞳がゴールドに光った。


「あ、ニークしゃんもうしゅぐバースデーら。おりぇもなんら。一緒ら」

「そうなのね。ハル、ニークは何歳かしら?」

「えっちょ、24歳ら」

「まあ! あなた24歳だったの!? 20歳位かと思っていたわ」

「いや、先生。なんでですか。俺、拾われた時10歳だって言いましたよ?」

「だってガリガリで小さかったのですもの! 大人ぶっているのかと思ったのよ」


 いやいや、それよりもだ。


「ハル、光っちゃってなかったぞ」

「りひと、しょう?」

「ええ、ハル。光ってなかったですよ」

「ハルちゃん! 良かったなぁ!」

「ありぇ……? じーちゃんうしょちゅき?」

「まあ! ハル、長老に魔力を流してもらったかしら?」

「あ……ううん。魔力を流したのはかーしゃまらけら」

「マジかよ……」

「母様って?」

「りひとのかーしゃま。勉強とか色々おしょわってんら」

「そう。あの子、母様なんてハルに呼ばせてるのね。再教育しなきゃいけないかしら?」


 アヴィー先生が悪い顔になっているぞ。


「いやいや、アヴィー先生。母は軽く流しただけみたいですから」

「そう? そうかしら?」


 とにかく、ハルが光っちゃってしまう件はアッサリと解決した。どうやら、ハルの身体の中で流れが悪くなっていた事が原因らしい。そこに魔力が堰き止められてしまうのに魔法を使う事で、行き場のない魔力で身体が光っちゃってしまっていたらしい。


「これからは私がハルの魔法の先生になるわ」

「ばーちゃん、ほんちょか?」

「ええ!」

「れも、ばーちゃん。おりぇもう上級魔法まれ使えりゅじょ」

「「「えぇッ!?」」」

「ハル、本当か!?」

「ん、じーちゃんとかーしゃまに教わったんら」

「マジかよ……あの2人何教えてんだよ」


 そう、だから何度も言うが……2人してウホウホと嬉しがって教えていたんだよ。上級魔法もな。それだけじゃないんだがな。

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