第4章 おりぇ、魔法を覚えちゃったよ!

第66話 アヴィー先生

「本当に何とお礼を申し上げて良いのか! お礼を差し上げたくてもこの村には何もありません。申し訳ないです」

「いや、村長。そんな気遣いは無用だ。皆、元気になって役に立てて良かった」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 村長はじめ、村人全員に感謝された。一晩お世話になる事になったのでまた食事を振る舞い、翌朝やっと出発した。

 まだお昼寝には早いので、ハルはリヒトの前に、ミーレは御者席に、カエデはルシカに乗せてもらっている。

 昨日の羽と尻尾のある苔玉は、ミーレが適当なカゴにふわふわの布をいれて即席のベッドを作ったのでそこで寝ている。まだ動かない。



「いやぁ、しかしハルちゃんはスゴイなぁ! 自分びっくりしたわ! 『度肝を抜く』とはこの事やね!」


 カエデは絶好調だ。かなり元気になった。


「カエデ、何言ってんの?」

「え? ミーレ姉さん違うか? 『目を疑う』か?」

「意味分かんないわ」

「え、姉さん知らんか? めっちゃびっくりした、て意味やで」

「カエデはその言葉をどこで覚えたの?」

「これか? これはあれや、ギルドに無料で自由に読める冊子が置いてあるねん。それで覚えてん。最初は調味料とか瓶の字が読めたら便利やなぁ、て思って覚えたんやけどな。読めるようになったらもっと読みたくなるねんなー。あ、計算もできるで。お代を誤魔化されたらムカつくから覚えてん」

「カエデって冒険者ギルドでタグを作ったんじゃないの?」

「姉さん違うで。商業ギルドや」

「なるほど。冒険者ギルドには置いてなさそうな冊子ですからね」

「ルシカ兄さん、そうなん?」

「そうですよ。でも、ハルが言う様に確かにカエデは地頭が良いみたいですね」

「アハハハ、そんなん言われたら照れるにゃ〜ん! 恥ずかしいにゃ〜ん! 嬉しいにゃ〜ん! あ、にゃ〜て言うてもた」

「アハハハ! 馬鹿だな、カエデ。にゃ〜でも何でも言えばいいさ! 我慢する必要ないぞ!」

「リヒト様! ありがとー!」


 賑やかな一行だ。さて、4層に入る門でタグのチェックを受けている時だ。


「お、兄さん達エルフか?」

「ああ、そうだ」

「なら、あれか? アヴィー先生の知り合いかい?」

「知ってるのか? 会いに来たんだ」

「そうかい! よく来たな!」

「どこに行けば会えるんだ?」

「地図書いてやるよ。門入ってちょっと待っててくれ」


 おや、有名人なのか?


「リヒト様、相変わらずの様ですね」

「な、何処にいても先生なんだな」


 ん? 一体どんな人物なんだ? 長老とは古い付き合いだと言っていたが?


「兄さん達、待たせたな。この地図通りに行きな。薬屋の看板が出てるよ」

「ありがとう!」

「これ位いいって事よ。いつもアヴィー先生には世話になってんだ。ゆっくりしていってくれ!」


 おやおや、一応歓迎されている様だ。

 馬車は街中をゆっくりと進む。馬車の前を馬に乗ったリヒトとルシカが行く。ミーレは馬車に乗っていた馬を繋いで、お昼寝中のハルやカエデと一緒に馬車の中だ。

 リヒトとルシカ、御者をしているイオスの眉目秀麗な容姿が注目を浴びている。だが、リヒト達はスルーだ。平然としている。慣れっこなのだろう。


「あ、リヒト様。あれじゃないですか?」

「お、みたいだな。俺、先に様子見てくるわ」

「はい、分かりました。」


 薬の店らしき看板が出ている。『薬師アヴィーの店』と看板にはある。まんまだな。さっき門番も「アヴィー先生」と呼んでいた。名前なのだろう。


 リヒトが店に入って行って暫くすると、綺麗な女性が慌てて出てきた。


 ブルーブロンドの髪にブルーの瞳。細かいレースで出来た淡いブルーのショールを頭から被っている。ヒューマンだと若くて綺麗なおばさんて感じか? だが、エルフだから何歳だか分からない。


「ルシカ! どこなの? 馬車の中?」

「あ、アヴィー先生!」


 ルシカが答える間もなく馬車のドアを開ける。

 中では、ハルがまだお昼寝中だった。


「……ミーレ……この子なの?」

「はい。アヴィー先生」

「まあ、なんて事……信じられないわ……」

「ん……ミーレ? ちゅいた?」

「あら、ハル。起きちゃった? 着いたわよ」

「ハル……ハルって言うのね」


 『アヴィー先生』と、ルシカやミーレに呼ばれた女性が涙を浮かべながらハルに両手を出す。


「アヴィー先生、取り敢えず中に入りましょう」

「ルシカ、そうね。そうだわ、入ってちょうだい。イオス、馬車と馬は店の裏に止めてきてちょうだい」

「了解ッス」


 ミーレがハルにケープマントを着せフードを被らせて抱き上げ馬車を降りる。


「カエデ、ついていらっしゃい」

「ミーレ姉さん、分かった」


 いつもと違う空気で、カエデも訳が分かっていないがいつもと違っておとなしい。


 店の中に入ると、薬の瓶や薬草が所狭しと置かれていた。ハーブの匂いがする。


「奥へ……」

 

 そう、一言だけ行ってリヒト達を奥に案内するアヴィー先生。何の先生なのか? 薬師だから先生と呼ばれているのか?

 店の奥に行くとリビングの様な部屋になっていた。


「ここは休憩室なんだけど……ルシカ、そこに茶葉があるから入れてくれるかしら?」

「はい、先生」

「ルシカ兄さん、手伝うわ」

「カエデ、お願いします」


 ハルはミーレにソファーへと座らせてもらって、そのままの格好でキョトンとしている。


「驚かせたかしら? 初めまして、あなたがハルね。ランの孫なのね? しっかりお顔を見せてちょうだい」


 そう言いながらハルのフードをとる。


「はりゅれしゅ。おりぇのばーちゃんを知ってりゅのか?」

「ええ、知ってるわよ。私の娘だもの」

「ばーちゃんにょ……!?」

「そうよ、そうよ。面影があるわ! よく来たわね、ハル!」


 堪らずハルを抱き締める。

 ハルはまだ何が起こったのか理解できていない様だ。さっき迄、絶賛お昼寝中だったし。寝起きだから、いつもよりカミカミだし。


「ああ、信じられないわ! こんな事があるのね! 長生きして良かったわ!」


 ボロボロと涙を流しながらも笑顔だ。嬉し涙だ。


「長老の事は何て呼んでるの?」

「じーちゃん……」

「そう、じゃあ私はばーちゃんだわ」

「え……ばーちゃん……? えと……おりぇの死んらばーちゃんのお母しゃん?」

「そうよ! よく戻ってきてくれたわ。ハル、会えて嬉しいわ!」

「じーちゃんの奥しゃん?」

「そうよ」

「ほんちょに……ばーちゃん?」


 ハルは、まだ頭が混乱している様だ。

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