第19話 エルフの国へ 3

「ハル、すまん。昨日は疲れただろう」

「りひと、大丈夫ら」

「昼食べたら休憩してもいいんだし、俺にもっともたれて楽にするんだぞ。お前はまだちびっ子なんだ。もっと頼ってくれていいんだ」


 おや、昨夜ミーレに言われた事をちゃんと覚えているらしい。反省もしたのか?


「りひと、大丈夫。りゅしか、昨日言ってた覚えておく方がいい薬草とかあったりゃ教えてほしい。おりぇ覚えたいんら」

「分かりましたよ」

「ハル、それなら国に着いてからでも遅くはないわよ。リヒト様のお母様に教えてもらうといいわ」

「みーりぇ、りひとのかーしゃま?」

「ああ、そうだな。母上に聞くといい」


 ハルが知りたいのはそこじゃない。どうしてリヒトの母なのかが知りたいのだと思うぞ。


「リヒト様、そうじゃないでしょう? 何故、リヒト様のお母上なのかをハルに教えてあげて下さい」


 あーあ、ルシカに言われた。


「あ、そっか? 俺の母上は研究者だからな。植物はもちろん、鉱石や魔法だけでなく国の歴史でもなんでも詳しいんだ」


 なるほど、そういう事か。

 その時だ、リヒトが急に何かに反応した。


「ミーレ、ハルを」

「はい! リヒト様!」


 直ぐにミーレがハルを抱えると、その場から離れた。

 リヒトが睨んでいた方向から大型の魔物が樹々の間を抜けて出てきた。ハルがこの世界へ落とされた時に遭遇した魔物よりは一回りほど小さい。だが、大型は大型だ。


「みーりぇ、ありぇなんら?」

「ハル、あれはビックベアね。この大森林の中では大型に入るわ。大型の中でも強い方ね」


 ビックベア。名前の如く、超デカい熊だ。


「ハルが倒したのは、ヒュージベア。ビックベアよりも大きくて強いのよ」


 マジか……知らなかったとハルの表情が言っている。


「ダークバレット!」


 ハルがポカンと驚いていると、ルシカが魔法で攻撃した。ビックベアが怯んだ隙にリヒトが剣で斬りつける。

 だが、それだけではなかった。


「嘘……リヒト様! もう1頭います!」


 ミーレが叫ぶ。リヒトとルシカがビックベアを攻撃している場所の反対側、ミーレとハルがいる直ぐ後ろからもう1頭ビックベアが現れた。


「もしかして、番か!?」

「ミーレ! 動いてはいけません!」

「分かってるわ! 分かってるけど……」


 ミーレが慌てて弓を手にする。


「キュルキュルキュル!」


 突然、コハルがビックベア目掛けてジャンプした! そのままコハルはビックベアの頭に短い脚で回し蹴りを決めた!


 ――グォォーー!!


 脳を揺さぶられ、ふらつき始めるビックベア。


「こはりゅ!」


 ハルがミーレの腕の中から抜け出し走り出す。


「ハル!! ウインドアロー!」


 ミーレも風魔法の矢で攻撃して足止めする。そして、ハルが地面を蹴りビックベアよりも高くジャンプした。


「くっちょデッケーんらよ! ちゅどーーん!!」


 そのままの勢いで両足でキック? いや、ビックベアの頭を目掛けて勢いよく落ちた!? これは、ドロップキックと言っていいのか?


 ――グギャァォォーーー!!


 空間を破る様な叫び声をあげて、ビックベアは絶命した。

 リヒトとルシカの方も終わって慌てて駆け付ける。


「ハル!」

「みーりぇ、大丈夫か?」

「もう、ハル。心臓が止まるかと思ったわ!」


 ミーレがハルとコハルを抱きしめる。


「みーりぇ、大丈夫ら。こはりゅもおりぇも負けねーよ。みーりぇが無事れよかった」

「ハル! コハル! もうやだ! カッコいいわね!」

「エヘヘへ」

「クルルル」


「リヒト様、見ましたか?」

「ああ、ルシカ……あれは、無意識か? いや、何より無事で良かった。ルシカ、回収を頼む」

「はい、リヒト様」


 ハルを保護した時に、あのヒュージベアを倒したとは聞いていたが、実際にハルとコハルが戦うのを見るのは初めてだ。

 リヒトと、ルシカは驚きを隠せない。


「ハル! コハル! よくやった!」

「リヒト様、申し訳ありません。私が気付くの遅かったから……」

「いや、ミーレ。それは俺もだ。しかし、ハルにコハル。マジ、強いな!」

「こはりゅがとびらしたかりゃ、じっとしてりゃんなかった。りひと、ごめん」

「馬鹿、謝る事ねーさ。倒したんだからな。実際にハルとコハルの動きを見られたのも良かった」


 リヒトがハルとコハルを撫でる。


「コハル、お前ハルを守ろうとしたんだな? でも、俺たちがいる時は任せろ。お前が出るとハルも出る。分かるか?」


 真面目に子リスに言い聞かせているリヒト。


「クククク……」

「コハルが一発で倒せるなら止めねーけどな。ハルを危険な目に合わせたくないなら覚えておくんだ。俺達がいる時は任せろ。いいな。」

「ピルルル」

「でも、よくやったぞ。コハル」

「ピルルル」


 コハルの頭をガシガシと撫でるリヒト。小さなリスなのに、手加減なしだ。


 また、ユニコーンにのって大森林の中央を目指して進む3人。


「リヒト様、お昼にしましょう」

「ああ、そうだな。丁度いい樹も見えてきたな」


 幹が少しグレーっぽい大きな樹の下で昼を食べる。葉っぱの先端がギザギザになっていて、葉脈もグレーっぽく見える。

 サワサワと葉っぱの音が聞こえる。微かに水の音もする。


「ハル、この樹は私達には影響ありませんが、魔物が嫌いな匂いを出しているのですよ。ですから、魔物避けになります」


 ほぉ〜そうなんだ……と、樹を見上げるハル。


「よく見てください。幹の色と、葉っぱの色と形に特徴があります。こうした森の色んな事を勉強しましょう」

「うん、りゅしか。おりぇ知りたい」

「母上が喜んで教えてくれるさ。さぁ、今日は食べたら少し昼寝しろ。念の為、結界を張っておくからミーレついていてくれ。俺とルシカは近辺を見てくる」

「はい、リヒト様」


 大丈夫なのに。と、いいたげなハルだが。ミーレが膝に抱っこして少し背中をトントンとすると直ぐに寝息をたてだした。

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