第3章

【真実(トゥルース)】

 サトリは叫ぶ。

「のあさま!お願いします!!」

光の巨人が腕を交差させ、光線を放つ。少年は手を出し、光線を受け止める。そして、その光線を吸収した闇の弾を放つ。光の巨人に命中し、宣託市民会館の天井部分に吹き飛ぶ。市民会館内にいる人々が騒ぎになる。公務員のショウは避難誘導をする。

「落ち着いてください。非常口はこっちです」

サトリの同級生たちは外にいるサトリたちの元に来る。ショウが報告する。

「全員避難したよ」

「ハヤブサ先輩、お疲れ様です」

少年が言う。

「全員集合か」

ゴウキが言う。

「お前の目的は何だ?」

少年は光の巨人を指さして言う。

「私の目的は、ただ一つ。あのガイア人を倒すことだ」

「何故倒す?」

「元々戦争を始めたのはガイア人だ。私たちは、その戦争の被害者だ」

「どういうことだ?分かりやすく説明しろ」

「良いだろう。先程も言ったように、私は魔界ディスガイアの王だ。私たちは平和に暮らしていた。しかし、ある日、突然、謎の植物が生えた。この植物は、みるみる生長し、宇宙空間に到達する程巨大になった。それを危険視したのが、彼ら、霊界ガイアの住人、ガイア人だ。ガイア人は、時空を超え、私たちの星へ来た。そして、許可もなく巨大植物を破壊した。その行為は侵略と何一つ変わらない。私はガイア人から身を守る。その何が悪い」

誰も何も言えなかった。少年は続けて言う。

「ガイア人が時空を超え、この星、テラの住人、人間に接触したことを知り、私は思った。ガイア人は人間と手を組み、私たちを倒すつもりだ、と。故に、私も人間に接触した。その時、強い恐怖を感じ、私を呼んだ者、コウガホカゲに。そして、交渉した。願いを叶える代わりに私に協力する事を」

ケンタが言う。

「一つ尋ねたい。ホカゲさんの願いは何かについて」

「コウガヒナタという人間を蘇らせる事だ。私にとって蘇らせる事は容易にできる」

「やっぱりそうだったのか」

「因みに、コウガホカゲもほぼ死にかけの状態だった。そこで、命の炎を与えてやった。その時、余った命の炎を闇に捨てた時に生まれたのが、炎の獣、ほむらだ」

サトリが言う。

「つまり、元々ない命だったということか…」

「そういうことだ。結局、自ら死を選んだようだが。もう良いだろう」

そう言うと、少年は手を出し、力を集中させた闇の弾を光の巨人に放つ。その時、亜空間が出現し、闇の弾が吸い込まれる。亜空間から現れたのは三人の家族だった。


【悪魔(デビル)】

 その場にいる誰もが驚いたが、一番驚いたのは少年に憑依した魔王だった。

「何故亜空間を出現させる人間がいるのだ」

ゴウキが三人の家族に感謝を伝える。

「よく来てくれました。感謝します」

「いえいえ。今来なくていつ来ると思いまして」

少年が三人の家族が手に持つ謎のアイテムを見て理解する。

「そうか。アクマの仕業か。あ奴らは簡単に力を与え過ぎるところがある。サタンに言わねばならない」

「サタン?」

「私の従僕、六天魔の一だ。アクマを統括する役割を任せてある。私と六天魔の上位の存在と異なり、アクマを含む下位の者らは時空の歪みの発生の間、自由に行き来できるのだ。私と六天魔が実体化できる時間は10分程度だというのに」

「時空の歪み?」

「宇宙空間に突如現れる銀河獣。それこそ時空の歪み。ガイア人が倒してきた」

「じゃあ、ガイア人が倒すまで続くのか?」

「彼らが倒す時間はさほどかからない。宇宙全体が範囲の為、発見に時間がかかるのだ。大隊10年位か」

サトリがケンタに言う。

「何だかいろいろと話してくれるね」

「いろいろ分かっていいけどね」

少年が言う。

「まあ良い。ガイア人も実体化できる時間は限られている」

少年が光の巨人の方に手を出す。それを遮るように亜空間が生じる。

「人間よ、邪魔をするな。私の目的はガイア人を倒すことのみ。ガイア人を倒した後、速やかに立ち去ると約束しよう」

サトリは光の巨人との出会いを思い返す。サトリが命の危機に現れ、何度も危機から救ってくれた。サトリは言う。

「僕は感謝している。今度は、僕が、のあさまの危機を救う番だ」

サトリの言葉に、NATの隊員たちが賛同する。

「サトリ、よく言った!」

「その言葉を待ってましたよ」

「黙って見過ごせない」

「NATの底力見せてやりましょう」

「本気。全開」

「一筋縄ではいかないかもしれない。でも」

「負けるわけにいかない」

少年が不敵な笑みを浮かべる。

「あくまでもガイア人の味方をするというのだな?良いだろう。六天魔よ、出番だ」

邪悪な気配が漂う六つの影が現れる。

「お呼びですか。魔王」

「出番だ」

「はっ。…しかし、この姿では実力の半分以下程度になってしまいます」

「やはりそうか」

少年は上を向く。上空に宣託市民会館を撮影しに来た取材陣が乗るヘリコプターが飛んでいる。ヘリコプター内で、キャスターが話す。

「ここ、宣託市民会館に巨大な超常現象がご覧のように多数出現しています。一体世界で何が起きているのでしょうか?現在至近距離での取材を試みています」

少年が手を出し、ヘリコプターの周りを闇が覆う。少年は力を込め、ヘリコプターを地面に降ろす。中から、キャスターとカメラマン、パイロットが降りて来る。少年が言う。

「あの人間たちに入り込め」

三つの影が三人にそれぞれ入り込む。三人が奇妙な動きをする。三人が立ち上がる。

「人間の体、いいものですね」

「感想はいい。邪魔をする人間を倒せ」


【開始(スタート)】

 キャスターが急に走り出す。走る途中で腕を振りかぶる。クロオが叫ぶ。

「まじん!」

赤い魔人がキャスターに炎の弾を放つ。キャスターは宙返りして、着地する。火の鳥の火炎放射、風の鳥の真空刃を軽々と避け、鱗の龍の腹に回し蹴りを叩き込む。

「私はアシュラ。戦闘狂と呼ばれている」

ゴウキが驚く。

「戦闘狂って恐すぎだろ」

エンがゴウキに言う。

「他の2人も目を離すな」

カメラマンが怪しい念仏を唱える。辺りが有毒な色をした空気に包まれる。コハルがチアキに言う。

「この空気、有毒よ」

「うそ…マフユたち、口を塞いで」

マフユとフウコ、クロオ、タマが口を覆う。サトリたちも口を覆う。口を覆いながら、ケンタが言う。

「あの念仏で有毒なガスを発生させているのか…」

口を覆いながら、ウララカが言う。

「あの人を先に止めないと、身が持たないわ」

NATの隊員たちの耳についたイヤホンからワカミネの声が流れる。

「パイロットは全く動く気配がない。キャスターも要注意だが、ウララカくんの言う通り、カメラマンを優先に攻撃したまえ」

「「了解」」

NATの隊員たちの上空を飛ぶドローンをトクノスケが操縦する。フカミゾがモニターで様子を観察する。ダンがカメラマンに向かい、言う。

「その気持ち悪い念仏を止めてもらう。ちから、アタック」

巨人が強靭な腕を伸ばしカメラマンを掴む。カメラマンが言う。

「かかったな」

直後、巨人は病を発症し、気絶する。

「私はハーデス。病原体と呼ばれている。私の発するガスは有毒。念仏は散布する為の風を起こすものだ」

カメラマンがゆっくりと近づく。ピンが言う。

「ほうせき、防御」

妖精の生成した光の壁がカメラマンを止める。

「これは厄介だ。アシュラ、あの妖精を倒せ」

「任せろ」

キャスターは素早く向きを変え、妖精の方に走り出す。走りながら腕を振りかぶる。

「ばくそうりゅう」

タマが呟き、キャスターを追い越す。キャスターが言う。

「邪魔だ。少年、怪我するぞ」

タマは首を振る。キャスターが振り向くと、一本角の馬がいる。

「いつの間に…!」

電撃を受け、キャスターことアシュラが気絶する。カメラマンが言う。

「面倒な事になった」

タクマがタマの元に駆けよる。

「タマ!すごいぞ!」

「う、うん」

その時、光の壁が壊れると同時に、妖精が蹴られ気絶する。

「危ない!離れるぞ、タマ」

タクマとタマが走り、離れる。モニターを見てフカミゾが驚く。

「あのパイロット、強い」

パイロットが蹴った脚を下げ、言う。

「ひやあ、怖かった」


【憑依(ポゼッション)】

カメラマンとパイロットが話す。

「サタン、よくやった」

「私は悪魔王と呼ばれている。それはアクマを従えているからであって、戦闘は嫌いなんだ」

「それは重々承知だ。しかし、魔王の為に力を振るえるのだ」

「仕方ない。やるか」

カメラマンが再び念仏を唱える。コハルが鞄を探り、マスクを取り出す。

「みんな、これを付けて」

マフユとフウコ、クロオ、タマがマスクを付ける。ケンタたちもマスクを付ける。

「あれ?サトリはどこ?」

「サトリなら少年を止めに行ったよ」

少年が光の巨人の前に立つ。

「ガイア人。私はお前を許せない。覚悟せよ」

少年が手を出し、闇の弾を放つ。闇の弾は、光の巨人を庇ったサトリに命中する。

「人間…己の命まで犠牲にして何故守る?」

サトリは生と死の境にいた。(僕は死んだのか…?まあ、命の恩人を庇って死んだならまあいいか)

「まあ良くない!」

聴こえた声はサトリに聞き覚えがあった。

「あなたは…アグル?」

「そうだったのかもしれない。今の私の名は、ゼット」

「ゼット?」

「今から、私は君を蘇らせる」

「やっぱり死んだんだ…」

「瀕死の状態だ。だから、私が君と一体化することで、君の命を繋ぎ止める。君が回復するまでの応急処置というわけだ」

「ありがとう、ゼット」

「礼は魔王を倒した後で良い。行くぞ、サトリ」

市民会館の天井から光の巨人が起き上がる。少年が闇の弾を放つ。光の巨人は、光の壁で防ぎ、サトリの前に立つ。少年が言う。

「まさか、その人間に憑依するつもりか」

サトリに光の巨人が入り込む。サトリが立ち上がる。その目が輝いている。

「そのまさかだ」


【博打(ギャンブル)】

 サトリと少年が向き合う。

「面白い。憑依した者同士、実体化できる時間を気にしなくて良い。思う存分、戦いに集中できる」

「そうだな」

「…と言いたいところだが、もう決着はついている」

「どういうことだ?」

その時、耳に付いたイヤホンからワカミネの声が流れる。

「すまない。不覚を取った」

サトリが少年を睨む。三つの影がワカミネ、フカミゾ、トクノスケを包囲する。

「そんな目で見るな。人質に取っただけだ。動かなければ何もしない」

「卑怯だぞ」

「ははは。油断する方が悪い。さあ、大人しく負けを認めよ」

少年が闇で出来た剣を手にしてサトリに振り下ろす。

「…そうはいかない」

「何…!」

サトリは光で出来た剣で、闇の剣を防ぐ。少年は不敵な笑みを浮かべる。しかし、直ぐに頭を抱える。

「まさか、そんな事が…」

イヤホンからワカミネの笑い声が聞こえる。

「いやー、思いのほか上手くいった!」

フカミゾが言う。

「一か八かだったよ。人質に取られるまで超常現象を出現しないでおくのは。ケンタくんの研究で敵の超常現象の波長が分かってから明らかに振幅が違う超常現象がいると分かった。その振幅の大きさが呼ぶ人数に比例するという予想は当たっていた。三人で呼べば、三倍の強さの超常現象が呼べるわけだ」

三人のいる部屋の天井を突き破り、警察署を挟むように脚を伸ばす巨大な城が出現している。トクノスケが言う。

「おかげで警察署は大変な事になったけど、無事作戦成功だ」

サトリは少年を押し返す。

「油断する方が悪いんだ」

ワカミネがイヤホンに連絡する。

「今だ」

連絡を受け、宣託市民会館の非常口裏に集まる大勢の人の前に立つノバラが言う。

「了解。皆さん、神に祈りを捧げましょう」


【天使(エンジェル)】

少年がサトリを睨む。しかし、直ぐに不敵な笑みを浮かべる。

「安心するのは早い。私たち、魔界の住人は、亜空間を生むことで、闇と闇の間を自由に移動できる。人質は他にもいる。分かっているだろう…世界中の人間だ!」

少年が闇の剣を構える。サトリは笑みを浮かべる。少年は剣を向け、憤る。

「何故、この状況で笑えるのだ!?」

「これは、私の意思ではない。この体の持ち主、サトリの意思だ」

「人間よ!何故、笑っていられる!お前たちの仲間ともいうべき、世界中の人間が人質になっているのだぞ!?」

「サトリはこう言っている。もう人質ではない」

「どういうことだ…」

「こういうことだ」

その時、眩い光が照らす。その光は宣託市を超えて世界中に広がる。地球を包むように大きな天使の翼が眩い光を放つ。

「これは…女神の光…!?」

「そうだ。霊界ガイアを統べるお方、女神の光だ」

「何故だ!女神は銀河獣の発見の方が重要なはず…」

「女神は、それと同じくらいテラを救うことが重要と判断された」

少年は頭を抱える。

「世界中の闇が無くなってしまえば、亜空間内から外に出ることができない」

三つの影は亜空間内で立ち往生している。

「どうやって女神を呼んだのだ…?」

有毒なガスでNATの隊員たちが身動きできないでいる。カメラマンがパイロットに言う。

「サタン。やってしまえ」

その時、背後から放たれた光線が当たり、カメラマンが倒れる。

「え?」

パイロットが振り向くと、先ほどとは別の三人の家族がいた。

「助っ人登場」

ウクオが言う。

「わんこ、つばさ、ガスを飛ばせ」

白い獣と風の鳥が強い風を起こしてガスを吹き飛ばす。ゴウキが言う。

「まじん、あいつを倒せ!」

赤い魔人が炎の弾をパイロットに放つ。

「あ、ああ…」

パイロットは気絶する。ゴウキが新たな三人の家族に言う。

「遅かったな」

「ヒーローは遅れてやって来るものだ」

「隣の綺麗な子は?」

「ユメです。高校生になりました」

「見ないうちに大きくなったな。その制服、懐かしいな。あ、奥さんもお綺麗ですよ」

「お世辞はいいわよ」

「それにしても、テンシの力は凄い。一撃必殺だ」

「ああ。そいつらのおかげで作戦も成功したし」

「半分正解だ。テンシの力を見せながら、私、タランティーノ・ボランティーノの力説があってこそ、宣託市の人々が信頼してくれた」

「ああ。彼らが力を合わせなかったら、この“エンジェル作戦”は成功しなかったからな」

「とにもかくにも、私たちの勝利だ」

タランティーノとゴウキは握手する。


【企画(プロジェクト)】

 遡ること一か月前、会議室にNATの隊員たちとタランティーノが集まっていた。ケンタが波長計を見て言う。

「これです」

フカミゾが言う。

「これはすごい!」

ワカミネが言う。

「どうすごいんだ。見えんぞ」

トクノスケが言う。

「待ってください。大画面に映します」

会議室の大画面に波長計の画面が映る。ケンタが説明する。

「見てください。一番上が、炎の獣の波形です。上から二番目が太鼓の武人の波形です。その他、大小様々な超常現象の波形がありますが、見るからに形が異なる波形が一つあります」

「確かに一つだけ波の形にもなっていないのがあるな」

「よく見てください。波形の始まりはどれも一緒ですよね?」

「そうだな。あっ!」

「気づきましたか。これは、波形の一部分が見えています。つまり、この波形の超常現象の波長は計測できないほど大きいということが言えます」

「我々の敵は、とんでもない力を持っている」

「そうですね」

サトリが言う。

「その超常現象が黒幕の可能性はないですか?」

「十分あり得る」

フカミゾが言う。

「纏めると、今までで分かっていることは、敵は日影から現れ、日影に消えるなど、影の中を自由に移動する能力があること。黒幕と予想される超常現象の能力が未知数だということ。これらから、黒幕との戦闘を想定した時、作戦を立てる必要があり、予めライメイくんに作戦を立ててもらった」

ツルギが席を立ち、ホワイトボードの前に立つ。ペンを取り、文字を書く。

「『エンジェル作戦』?」

「はい。作戦名は仮ですが。今まで敵の攻撃対象は、超常現象であり、黒幕も同様と考えられます。それが全てなのか、一体なのか分かりませんが、敵が奇襲してきた場合を考えて三人の家族に待機してもらいます。敵は同じ能力を持つことに驚き、敵は全勢力を繰り出してくるでしょう。そこで、敵が人質を取ることが考えられます。その人質は、我々です。これは確実で、好機でもあります。その我々が隠し持つ新たな超常現象を出現させ、敵を日影に追いやります。そこで、タランティーノさんの出番です」

タランティーノが立ち上がり、礼をする。

「NATの皆さん、はじめまして。私が光の巨人の噂を広めた張本人、タランティーノ・ボランティーノです。どうやって、私が光の巨人の噂を広めたか気になると思います。実は、ドリーム社が行った夢計画は、私が提案した企画だったのです。ある夜のことです。毎日のストレスで寝苦しさを感じていた時、夢を見ました。その夢は、普通ではありませんでした。何故なら、神様からのメッセージだったのです。まあ、疑う気持ちも分かります」

「きっと超常現象でしょう」

「さすがNATのリーダーです」

「臨時だが」

「夢計画を体験した宣託市の人々なら、この話を信じてくれたのです。神様のメッセージは地球に未知の生物が飛来する危機があるというものでした。それはシンメンサトリくんたちが遭遇した生物の事だったので、危機は回避された…はずでした。しかし、皆さんの敵が現れました。それから、神様がまた夢に現れ、言いました。私も力になる、と」


【爆発(ブラスト)】

 ノバラがタランティーノたちの元に着く。

「無事に成功し、安心しました」

「さすが宣託市民だな~」

「でも、タランティーノさん、急に僕に出番を任せるのやめてくださいよ」

「ゴウキくんたちがピンチだったからね。それにキミ、全知全能だから任せられると思って」

「夢の中の話ですよ」

ゴウキが拳を突き上げ、言う。

「よし!黒幕を倒しに行くぞ」

NATの隊員たちが拳を突き上げ、答える。

「「おー!」」

少年が頭を抱え座り込む。そこにゴウキたちが駆け付ける。

「三人を倒した。人質もいなくなった。負けを認めろ」

「クックック…」

「何が可笑しい!本当におかしくなったのか!」

「まだ負けていないからだ!」

少年は立ち上がると同時に、闇の弾を掲げる。

「女神の光で闇を失くすとはよく考えたものだ。しかし、無くなったなら新しく生めばいいのだ!」

少年が掲げた闇の弾から、三つの影が飛び出す。三つの影は、ゴウキたちを通り過ぎる。

「いかづち、追え!」

一本角の馬が三つの影を追う。放たれた電撃を避けた三つの影は、キャスター、カメラマン、パイロットにそれぞれ入り込む。押し出された三つの影は、その場に倒れている。それを見て、キャスターが言う。

「不甲斐ない」

キャスターが手を振り、一本角の馬に強烈な雷が落ちる。カメラマンが言う。

「私の敵ではない」

倒れていた鱗の龍が起き上がり、向かって来る。カメラマンが手を振り、鱗の龍の動きを止める。パイロットが言う。

「勝利するのは魔王だ」

瞬間移動したパイロットが氷で出来た苦無を手に持ち、鱗の龍の腹部を刺す。カメラマンが手を振り、鱗の龍が倒れる。三人に冷気を纏った風と炎の弾が同時に向かって来る。カメラマンが手を振り、動きを止める。

「無駄だ」

「待て。何か変だ」

キャスターが手を振り、強烈な雷が冷気を纏った風と炎の弾を吹き飛ばす。カメラマンが尋ねる。

「何があった」

「あのまま動きを止めれば、激しい爆発が起きていた」

「何?」

再び冷気を纏った風と炎の弾が同時に向かって来る。

「何度も同じ手は受けない」

直後、激しい爆発が起きる。三人を煙が包む。煙の中から、拳を振り上げたゴウキとエンが現れ、カメラマンを殴り飛ばす。


【最後(エンド)】

 殴り飛ばされたカメラマンが、口元の血を拭いながら立ち上がる。

「仮にも人間の体であるにもかかわらず、私を殴るとは。何者だ?」

「人に聞く前に自分が名乗れ!」

「ふっ。私はクロノス。時空管理者と呼ばれている」

「時空管理者?」

「そう。対象の周りの空気を固め、動きを止める。このように」

カメラマンが手を振り、ゴウキとエンの動きが止まる。

「よくも私を殴ってくれたな!」

カメラマンが腕を振り上げる。その時、煙の中から現れたタイガとベンケイがカメラマンを殴り飛ばす。

「お前はずっと殴られる番だ」

「もう終わりみたいだ」

カメラマンが仰向けに倒れ、動かなくなっている。動けるようになったゴウキが言う。

「動けないのはお前じゃないか」

直後、強烈な雷がゴウキの真横に落ちる。

「危ねえ!」

「ゴウキ、どいて!」

「コハル!」

黒い狼がゴウキの真横を走り抜ける。

「うお!」

黒い狼がキャスターに向かって来る。

「犬は嫌いだ!こっちに来るな!」

連発して放たれる強烈な雷を避け、黒い狼がキャスターに襲い掛かる。

「うああああ!」

腕を噛まれたキャスターが気絶する。駆けつけたコハルが黒い狼を撫でる。

「甘噛みなのにね~」

「コハル、大丈夫?」

「大丈夫」

「あと1人、どこに行ったんだろう…?」

チアキとコハルの背後からパイロットが迫る。

「クロノスが倒れ、災害と呼ばれているシヴァが倒れた。しかし、最後にして最強の私、エンドが退治してくれよう。魔王の護衛として」


【隕石(メテオ)】

「「お母さん、後ろ!」」

マフユとフウコの声を聞き、チアキとコハルが振り向く。そこに、十数人のパイロットがいる。

「どうなってるの!?」

十数人のパイロットが同時に走り出し、チアキとコハルに向かって来る。冷気が当たったパイロットは、凍らずに、消滅する。

「もしかして分身!?」

「わんこ、お願い」

黒い狼が走り、盛り上がった地面が分身を次々と消滅させる。最後のパイロットが宙返りで避ける。着地すると、手で印を結ぶ。直後、再び十数人のパイロットが現れ、氷で出来た手裏剣を投げる。黒い狼がコハルを庇い、手裏剣が命中する。炎の弾が残りの手裏剣を破壊する。コハルは倒れた黒い狼を撫でる。

「ごめんね…」

現れた十数人のパイロットが合体し、巨大化する。巨大な氷の手裏剣が炎の弾を押し返し、赤い魔人に命中する。ゴウキとエンが言う。

「まじん!駄目だ、きりがない」

「同時に倒す必要がある」

「どうすりゃいいんだ!」

分裂した十数人のパイロットがスタートダッシュの構えを取る。直後、一斉にスタートする。その時、タランティーノと娘ユメ、妻マサコの声が響く。

「「ファミリアメテオ」」

降り注いだ隕石群がパイロットたちを襲う。次々と消滅し、最後の一人が露わになる。三人の家族の声が響く。

「「ファミリーホーリー」」

巨大な光の弾がパイロットを包む。パイロットから抜け出た影が這いつくばりながら手を伸ばし、倒れる。NATの隊員たちが歓喜する。ケンタが言う。

「ナイスです!皆さん」

ケンタと三人の家族はグッドポーズをする。ゴウキが言う。

「一時はどうなるかと思ったが、咄嗟に思いついたことが功を奏したな」

ツルギが言う。

「咄嗟じゃないです。毎日特訓をしてきたから良い案が思いついたんです」

「そうだな。無駄じゃないかと疑うこともあったが」

タイガが言う。

「鍛錬において、無駄な事なんてないんだ」

「先輩、そうですね。あんたの開発した夢計画で体験した事が活きた」

タランティーノが言う。

「そう言ってもらえて何よりだよ」

「これは全員が力を合わせて掴んだ勝利だ!この勢いでマオウを倒しに行くぞ!!」

「「おー!」」


【不屈(フォーティチュード)】

 NATの隊員たちがサトリの元に集まる。対峙する少年を前にして、全ての力を放つ。少年は、軽いステップを踏むように避けると同時に手を振り、動きを止め、強烈な雷を放つ。火の鳥と風の鳥が地面に落ち、水色の女神が力尽きる。マフユが叫ぶ。

「めがみ!そんな…みんなで力を合わせたのに」

「まだ諦めるのは早いです」

「まだ私たちがいる」

三人の家族とタランティーノ一家が手を伸ばす。

「「ファミリアメテオ」」

「「ファミリーホーリー」」

隕石群と巨大な光線弾が少年に降り注ぐ。ゴウキが言う。

「やったか…?」

闇の障壁が拡大し、ゴウキたちに触れると、痺れさせる。少年が言う。

「愚かな人間よ。力を合わせれば私に勝てると思ったのか。浅はかだ。絶対的な個の力の前では、平伏すしかないのだ」

「強すぎる…」

「当然だ。六天魔は私の力を分け与えて生まれた。六天魔を倒せたとしても、全ての力を持つ私に勝つことは不可能なのだ」

NATの隊員たちが力を振り絞り、立ち上がる。

「諦めない…」

「相棒…ついていくぜ」

「僕たちは市民の平和を守る使命がある」

「体力には自信があるんだ」

「不屈…正義…」

「戦術なんて無いが負ける気がしない」

「まだ立てる限り…」

NATの隊員たちが銃を構える。

「全員、足を狙え!」

放たれた銃弾は木の根元に命中する。少年が言う。

「どこを狙っているのだ?」

「分かってないな。こういうことだ!」

木が折れ、少年に倒れ出す。少年は軽い身のこなしで避ける。

「愚かな人間よ。無駄な抵抗をするなら何度でも痛い目を見るぞ」

少年は手を振り、動きを止める。NATの隊員たちが闇の障壁に触れ、痺れる。

「分かったか。私は命の炎を吸い取ることも出来る。もうお終いにしよう」

「今だ…サトリ」

「何!」

サトリは限界まで溜めた光の剣を振る。光の刃が少年を斬る。

「ぐは…」

サトリは間合いを詰め、少年に斬りかかる。少年は闇の剣で受け止める。サトリが言う。

「これが人間の力を合わせた攻撃だ…!」

少年が剣を弾き、サトリを押さえつける。

「ガイア人…そんなに人間が好きになったのか」

「そうみたいだ」

サトリが剣を弾き、少年を押さえつける。

「かつて魔界が地球を侵略しようとした時、私は一人の人間と出会った。その剣士は、生きる希望で溢れていた。私はその人間が住む、この星を守りたいと思ったんだ。たとえ命に代えても」

「愚かな…愚かなガイア人!」

少年は手を伸ばし、サトリの首を掴む。

「その命の炎を奪われても守れるなら守ってみよ!」

「う、うぐ…」

その時、少年のもう片方の手が少年の腹部を闇の剣で突き刺す。


【感謝(グラティチュード)】

 「ぐは…!」

サトリの首を掴む少年の手が離れる。

「何が起きた…!?」

少年の表情が戸惑いから笑みに変わる。

「大丈夫…父さん…?」

「ナツ!」

「そうだよ」

サトリは少年を抱きしめる。

「ごめんね…迷惑をかけて」

「そんなことはいい。それより、お腹の傷を何とかしないと…」

その時、優しい歌声が響く。倒れた超常現象たちが回復していく。更に、超常現象による傷も治っていく。

「これは…!?」

「セイレーンの癒しの詩だ」

「ナツの傷も治っていく。凄い…」

「セイレーンは女神の生き写しだから、癒す力は絶大だよ」

チアキが呼んだ歌姫の人魚にその場にいる誰もが感謝する。

「どうしてナツはそんなに詳しいの?」

「マオウの記憶を見せてもらったから。霊界と魔界の戦争も、その戦争で魔王が子供を失ったことも」

「マオウは子供を失ったの?」

「そうだよ。ガイア人を追い返そうとして自分で戦地に飛び込んだんだ」

「そうなんだ…」

その時、少年の体から抜け出た人型の超常現象が言う。

「よくも、裏切ったな。シンメンナツ」

「謝ります。ごめんなさい」

「謝るな。自分の意思で決めたことだろう」

「ありがとうございます」

「感謝するな。お前の体を使い、父親を殺そうとした私に対して」

サトリが警戒する。NATの隊員たち、超常現象たちも攻撃態勢を取る。人型の超常現象が両手を挙げる。

「降参だ。私は甘く見ていた。人間の意思の強さを。その意思の強さに免じてガイア人を倒すことも諦めよう。まあ、私が本気を出せば負けはしないのだが…私は戦は好きではない。この星のように平和が良い。さらばだ、人間よ」

人型の超常現象が倒れた六つの影の元に来る。

「魔王…申し訳ありません」

「もう良いのだ。帰るぞ」

人型の超常現象が闇の弾を放ち、六つの影とその中へ姿を消す。サトリが言う。

「これで戦いが終わった」

その時、ゴウキの携帯電話が鳴る。

「はい。俺です。え?双子!本当ですか!分かりました。ちょうど仕事が終わったのですぐ向かいます」

宣託病院の病室で、レイコが生んだ双子を取り上げたヨーメイがレイコとチャオ、ムラサキオに見せる。話を聞いたNATの隊員たちが尋ねる。

「先輩、もしかして生まれたんですか?」

「ああ。双子だ。今から病院に行く」

「相棒、一緒に行っていいか?」

「仕方ねえな」

「「有難うございます」」

「最初に見るのは俺だ」

NATの隊員たちが盛り上がる。ケンタとウララカが言う。

「子供、いいね」

「そうね」

サトリがナツに言う。

「一緒に帰ろう、ナツ」

「いいの?」

「よく分からないけど、マフユと瓜二つの顔、同じ背丈、間違いなく僕の子供だ」

「ありがとう。父さん…」

サトリが伸ばす手を掴む時、ナツが気を失う。サトリがナツを支え、名前を呼ぶ。

「ナツ!しっかりするんだ!ナツ!」


【夏(サマー)】

 ミンミンミーン。蝉の声が聞こえる。老人ホーム『エレクト』で、トクシゲとカズキが話している。

「夏らしくなってきたなあ」

「そうですねえ。暑くて堪りませんよ」

「そう言えば、サトリ君の息子もナツといったか?」

「そうですよ。何でも本当は真冬に生まれたんですけど、熱い意思を持ってほしいという意味らしいですよ」

「へえ。良い名前じゃないか。おっ、噂をすればサトリだ。おーい」

手を振るトクシゲとカズキに気がつき、サトリが来る。

「どうしました?」

「いや、今サトリの息子の名前の由来を聞いて、良い名前だと話していたんだ」

「ああ。良い名前ですよね」

「何だ?まるで自分で決めてないみたいな言い方だ」

「あれ?カズキ話してないの?」

「話してないよ」

「何だ?何だ?」

「簡単に言うと、引き取り親が名付けたんですよ。その人が事故で亡くなって、僕の息子になったんです」

「そうだったのか。あれ?生まれた時、そんな話してなかったような…?」

「気のせいですよ」

サトリは魔王との戦いの日の事を思い返す。サトリから抜け出た光の巨人がナツを見る。光の巨人はサトリに言う。

「この少年は生きる希望がある。良い心の持ち主は良い未来が待っている。だからそっと見守ればきっと良くなる。私もそばで見ている。この先もずっと」

倒れたナツは宣託病院に緊急搬送された。ナツを見た医者は、サトリとチアキとマフユに危険な状態と告げた。マフユは泣いた。魔王に願いを叶えてもらうことさえ考えた。しかし、そのマフユの考えを聞き、サトリは反論した。

「マフユ、それはだめだ。死んだ人は生き返らない。チアキの両親も、僕の両親も、僕の妹も、生き返らない。周りの人はそのことを受け入れるしかない。生きる希望があれば生きるし、無ければ死ぬ。僕たちは生きる希望を信じるしかないんだ」

それから、マフユはナツの生きる希望を信じた。キンコンカンコーン。下校時間のチャイムが鳴る。フウコがマフユの元に来る。

「帰ろう」

「うん」

マフユとフウコが歩きながら話す。

「暑いね~」

「こんな時、めがみとわんこの冷たい風がほしい」

「そうだね~。でも、わんこたちを呼ぶの、禁止されてるからね」

「うん。悪さする人たちがいるからね。その人たちと戦うNATの人たちしか呼べないなんてずるいよね」

「仕方ないよ~こればっかりは」

「そっか」

その時、走る三人の少年が二人のスカートを捲る。

「きゃ!」

「へへ!俺とタマの勝ちだ!」

「こら!何すんのよ!」

「悪い!俺とタマより足が速いって、ナツが言うからさ!」

「そうなの?ナツ」

「ごめんね、マフユ。帰ったら、アイスあげるから」

「もう。それならいいけど。それより、タマとナツ、サッカー部は?」

「今日、休みだから、僕の家で遊ぶことになった」

「じゃあ、ナツの家まで競争だ!」

「ま、負けないよ」

「次は勝つぞ」

走る三人の少年を見て、マフユは笑みを浮かべる。

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