第2章
【兄妹(ブラザーズ)】
下校時間を告げるチャイムが鳴る。教室の隅で顎に手を当て考え事をするマフユにフウコが声をかける。
「マフユさん、帰る時間だよ」
「フウコさん、考え事してて気づかなかった」
「何の考え事してたの?」
「1週間前の洞窟であったこと」
「ああ、洞窟ね」
「あそこにいた子、わたしにそっくりだったの」
「ええ!こわいね。マフユさん、兄弟いないし」
「うーん…考えてもわかんないし、帰ろう」
「うん、帰ろう~」
公園に差し掛かる舗道。
「今日はお父さん、調子が良くなったからリハビリしてるんだ」
「そうなんだ。良かった」
「マフユさん、その子のこと気になるのね」
「うん、誰なのか、気になるんだ」
その時、マフユとフウコの前に一人の少年が現れる。
「噂をすればなんとかだ」
「行け!ほむら」
地面から炎の獣が現れ、マフユに向かって来る。マフユの額の紋様が光り、水色の女神が現れる。
「出たな、めがみ。焼き尽くせ!ほむら」
炎の獣が口から火炎放射を放つ。
「めがみって?あなたはだれ?」
水色の女神が冷気を放ち、火炎放射を凍らせる。炎の獣は地面に潜り、冷気を避ける。そして、後ろから飛び出して火炎放射を溜める。
「きゃあ!」
炎の獣が火炎放射を放つ。それを赤い魔人が防ぐ。炎の獣が後ろに下がって着地する。
「ふうん。めがみの兄、まじんを呼んだんだ」
「お前はあの女と違うと思ったが、一緒だったな」
「クロオ」
「マフユ、下がってろ。俺が倒す」
「うん」
「マフユっていうんだ」
「だから、どうした?」
「マフユ、僕は兄だ」
「えっ?」
強い風が吹き始める。
【質問(クエスチョン)】
公園に現れた白い狼が吠える。強い風が吹き、炎の獣と赤い魔人がうろたえる。
「何だ!?この犬は」
「この犬は、光と影、2つの顔がある。これは風を操る光の顔だ」
「わわ!」
白い狼はフウコの方に駆け寄る。
「もしかしてその犬、フウコさんの言うことを聞くんじゃない?」
「そうなの?よし、わんこ、吠えて!」
「めがみ、お願いします」
マフユとフウコの思いに応えるようにして、水色の女神と白い狼は冷気と風を放つ。
「まじん、抑えろ」
クロオの指示で赤い魔人が炎の獣を抑える。冷気が混ざった風が炎の獣を襲う。
「うっ…一旦ひく。でも次は今までと同じようにはいかない」
少年と炎の獣が闇に姿を消す。マフユが水色の女神に言う。
「ありがとうございました」
水色の女神は微笑む。そして、姿が徐々に見えなくなる。続いて、白い狼と赤い魔人も徐々に薄れて見えなくなる。公園にマフユとフウコとクロオの三人が残る。
「マフユ、あいつ、お前の兄貴なのか?」
「ちがうと思う」
「じゃあ、あいつが勝手に言ってるだけか。安心した」
「なんで?」
「だってよ、本当の兄貴だったら悪い事したみたいだからよ。そうだ。俺、忙しいんだ。じゃあな」
「また明日。私たちも帰ろう」
マフユは家に帰る。家には誰もいない。ランドセルを机にかけ、リビングに行く。テレビをつけ、アニメの再放送を見る。マフユは自分とそっくりな少年のことを思い返す。日が暮れてくる。マフユは風呂に入り、宿題に取り掛かる。そして、考えているとふと少年の事を思い返す。首を振り、宿題に取り掛かる。宿題を済ませ、リビングに来た時、チアキが帰ってくる。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「どうしたの?元気ないみたい」
「お母さん、わたしにお兄ちゃんなんていない、よね…?」
チアキはしばらく考える。
「マフユ、すぐご飯作るから待ってて」
チアキは大急ぎで仕度を始める。
【疑念(ダウト)】
チアキは夕食をあっという間に作り上げる。
「はい、完成。食べて」
「う、うん」
マフユは夕食を食べ終える。
「ごちそうさまでした」
「おそまつさま。さあ、話をしましょう」
「う、うん」
「一体どうしてお兄ちゃんがいるなんて思ったの?」
マフユはドラマに出て来る取り調べを受ける気分になる。
「えっと、今日、帰り道に洞窟で見た子と会ったの」
「うん。それで?」
「その子はわたしにそっくりで、不思議に思ってたら、その子に私の兄だ、って言われた」
チアキはベテラン刑事のように手を組み、額に当てる。
「うーん。それは嘘ね」
「うそ?」
「そう。その子の嘘。きっとマフユを驚かせたかったのよ。そうよ、きっと」
「そうかなあ」
「そう。そっくりさんは地球上に3人いるというわ。その1人よ、その子。もう忘れなさい」
「うん、わかった」
「さあ、もう寝ましょう。お父さんはホカゲさんのお葬式で帰って来ないから。おやすみ」
「おやすみなさい」
マフユは寝る時、もやもやしたものを感じる。サトリは葬式の会場で会ったケンタと話す。
「ホカゲさん、残念だったね」
「そうだね」
「あの時はどうしようもなかった。気を落とさないで」
「ありがとう。あの時、ホカゲさん、笑ってたんだ。まるで楽になることを喜んでいるようだった」
「でも、それじゃあ、ホカゲさんは、僕らと戦うのが嫌だったみたいだ」
「たぶんそうだったんだと思う。彼女に戦う理由を聞いたら、願いを叶える為、と言った。僕の想像だけど、彼女は、事故で亡くした夫を蘇らせたかったのかもしれない」
「その話を本人に確かめることはもうできなくて残念だ」
「ホカゲさん夫婦の仲の良さは僕がよく知っている。疑う理由が見当たらない」
「でも、どうやったら願いが叶うんだろう?」
「わからない。そもそも超常現象が何なのか解明されないと何も言えない」
「ケンタの研究にかかっているね。任せたよ」
「頑張るよ。サトリは研究対象になるけど、いい?」
「いいよ。協力できることなら協力するよ。そう言えば、参列者の中に洞窟にいた少年がいたよね?」
「いたね。話を聞きたかったけど、どこかにいなくなったね」
サトリとケンタが話す地面の下の亜空間に隠れていた少年は、炎の獣と共に二人の前に現れる。
「うわ!びっくりした」
「噂をすれば影が差す、だ」
サトリの前に光の巨人が現れる。
「出たね。ほむら、行け」
「のあさま、お願いします」
光の巨人が放つ光線と炎の獣が放つ火炎放射が衝撃を生む。ケンタは衝撃波で強く頭を打ち付ける。
「うっ…」
「ケンタ!」
「やりすぎちゃった。でも、願いを叶える為だから」
少年が闇に逃げようとする。
「待て!」
「またね。父さん」
「父さん…?」
サトリは思わぬ言葉を言われ、茫然と立ち尽くしてしまう。
【研究(リサーチ)】
NATの隊員たちが会議を開いている。ワカミネが場を仕切る。
「オホン!ええ、NATと敵対関係の人物が亡くなってから1週間経った昨日、新たな人物が現れた。その人物は、外見年齢9歳の男子児童だ。先日の洞窟で亡くなった第一の敵をフレイシャドーと呼び、その人物、第二の敵はサマーと呼ばれていた。昨夜のフレイシャドーことコウガホカゲの葬式会場にて炎の獣を使役してシンメンくんを攻撃した。その時、シンメンくんといたイズミくんが頭を強打する怪我を負い、現在宣託病院のゴショガワラくんと同じ病室に入院中だ」
宣託病院の病室で、ケンタにゴウキが話しかける。
「…ケンタ、起きてるか」
「起きてるよ」
「災難だったな」
「それはゴウキも同じでしょ」
「俺は仕事だから覚悟は出来てるつもりだ。だが、ケンタはそうじゃないだろ」
「まあね。そう言われたら災難だった」
別の日。
「…ケンタ、覚えてるか?高校の時、剣道部の体験入部で怪我をした日の事」
「覚えてるよ」
「あの時は悪かったな。ケンタの誘いで一緒に行った俺が打った場所が悪くて、怪我をさせちまった」
「もういいよ。その時も十分保健室で謝られたから」
ケンタの退院日。
「ゴウキ、先に行くよ」
「おう。俺もすぐ行くから待ってろ」
「うん、待ってるよ。それと、有難う」
「何がだ?」
「ゴウキのお陰で研究が進みそうだよ」
「あそう。そりゃよかった」
「じゃあ、また」
「おう」
隣で聞いていたレイコがゴウキに話しかける。
「ずいぶん嬉しそうね」
「顔が見えないのに分かるのか?」
「声で分かるわよ」
「おう」
ケンタはNATに合流する。サトリが挨拶する。
「おかえり。ケンタ」
「ただいま。サトリ。ここで何してるの?」
「ついに自分の意思で光の巨人を出現させることができるようになったんだ」
「それは凄い。頼みがあるんだけど、僕の研究に付き合ってくれないかな?」
「喜んで。それより、もう大丈夫なの?」
「うん。全然平気だよ」
それから、ケンタの研究室でサトリと光の巨人を対象にした研究が進む。そして、数日後、研究が終わる。
「出来た!」
「出来たの?」
「うん。サトリ、それにウララカ、ありがとう。これで、敵の居場所が掴めるようになるぞ」
NATの隊員たちが会議室に集まる。ケンタが研究結果を発表する。
「皆さん、特訓中お集まりいただきありがとうございます。研究結果を発表します。物にはすべて固有の波長があります。それは超常現象にも同じことが言えるとわかりました。つまり、敵が使役する超常現象の波長が特定できれば、今後は敵の居場所が分かるようになります」
「でかしたぞ、イズミくん」
「どうして思いついたんだろうか?」
「入院中、病室でゴウキに高校生の時の怪我のことを言われて閃いたんです。その時の怪我と今回の怪我が偶然全く同じ所で、超常現象にも同じ特徴的なものがあるんじゃないかと思って」
「さすが、ケンタだ」
NATの隊員たちは、優秀な人物が帰って来たと実感する。
【工場(ファクトリー)】
サトリは自宅でチアキと話す。
「みんな、ケンタの事をすごいって言ってたよ」
「そうなんだ。ケンタってやるときはやるもんね」
「次、あの少年が現れたら、敵の居場所は丸わかりだ」
「でも、その子、最近現れてないよね?」
「そうなんだよね。今どこにいるんだろう」
廃工場に子供たちが縛られている。奥から現れた少年が脅す。
「助けて!」
「さっきから言ってるよね。助けてほしかったら、早く出してよ」
「だから、何を出せばいいの?」
「この、ほむら、と同じ超常現象さ。早くしないと、どうなるかわからないよ」
「やめて!」
その時、一人の子供が気絶する。そして、甲羅の獣が現れる。
「アダマンタイマイ。いいね。君たちも早く出すんだ。痛いのは嫌でしょ?」
炎の獣が子供たちに迫る。怯える子供たちの前で炎の獣が吠える。残り三人の子供が気絶する。そして、三つ頭の犬が現れる。
「おお。番犬ケルベロスだ。こんな大当たりを出してくれてどうもありがとう」
少年は子供たちを縛る縄を解く。
「ほむら、よろしく」
炎の獣が影を伸ばし、子供たちを覆う。
「この2匹は僕が預かる」
少年は炎の獣と共に闇の中に紛れる。洞窟に現れる少年は、馴染みのある石に座る。
「誰もいない洞窟は寂しい。みんな、出てこい!」
洞窟に数々の超常現象が現れる。そこに、一際闇の深い人型の超常現象がいる。人型の超常現象が少年に話しかける。
「よく集めた」
「ありがとうございます」
「次の段階に移れ」
「はい、わかりました。マオウ」
人型の超常現象は姿を消す。少年は立ち上がる。翌日、宣託小学校でマフユとフウコは普段騒ぐ男子が大人しくしているのを見て気に掛ける。
「どうしたの?」
「お前ら絶対廃工場に行くなよ!恐い思いをするぞ!」
「何があったの?」
「覚えてないけど、とにかく、行くな!」
男子は走っていなくなる。
「変なの~」
「でも、いつもと様子が違い過ぎる。気になる」
下校のチャイムが鳴る。クロオとタマを含めた男子たちは集団で下校する。フウコがマフユに言う。
「男子、廃工場に行くのね。行きたくないよね~怖いもの」
「フウコさん、私たちも廃工場に行ってみよう」
マフユとフウコが廃工場に着くと、小学生たちが集まっている。男子たちは木の枝を持っている。
「武器のつもりかな?あんなんじゃ役に立たないよね~」
「そうだね」
「マフユさん、やっぱり帰ろうよ~」
「待って。あの男子の恐がり方は普通じゃなかった。もしかしたら…」
その時、少年が炎の獣とともに現れる。驚いて逃げ出す子や尻餅をつく子がいる中で、クロオとタマとマフユとフウコの四人が堂々と少年に向かい合う。
【混乱(カオス)】
クロオは赤い魔人を呼び出す。
「まじん、あいつを倒せ」
赤い魔人が炎の獣を掴む。マフユとフウコも戦いに加わるため、超常現象を呼び出す。
「めがみ、お願いします」
「わんこ、助けに来て」
水色の女神と白い狼が冷気を纏った風を起こす。少年が不敵な笑みを浮かべる。
「ほーる、吸い込め」
突如現れた巨大な口が風を吸い込む。その吸い込む勢いは強まり、その場にいる小学生たちが吸い込まれる。
「大変!」
「みんな、吸い込まれちゃう」
「マフユ!フウコ!お前らは親父の仲間に連絡しろ!ここは俺とタマで何とかする」
「わかった」
マフユとフウコはNATに連絡する。ワカミネが連絡を受け、NATの隊員たちに指示する。
「NATの諸君、出動だ!」
「「はい!」」
「今回の現場は、宣託小学校付近の廃工場だ。敵の超常現象が小学生たちを吸い込んだ模様」
サトリがチアキに連絡する。
「え!小学生たちが!」
「危ないからチアキは来ちゃだめだよ」
「わかった」
電話を切った後、チアキは居てもたってもいられない様子でコハルの元へ向かう。
「コハル!マフユとフウコさんが!」
クロオは、慌てるタマを落ち着かせる。
「ど、どうしよう!みんなが!口に!」
「落ち着け!親父の仲間が来るまでの辛抱だ!まずはほむらとかいう奴を倒さなきゃ」
炎の獣が闇に潜み、残った赤い魔人を巨大な口が吸い込む。
「まじん!めがみ、わんこ、耐えろ!」
水色の女神と白い狼が冷気と風を放ち続け、巨大な口の吸い込みを耐える。
「いいぞ!そのまま耐えろ!」
戦うクロオを見て、タマは言葉にならない感情を抱く。マフユとフウコが声をかけられる。
「マフユ!大丈夫?」
「お母さん!?それに、コハルさんも」
そこに、NATが到着する。
「君たち、よく頑張った。後は我々に任せるんだ」
サトリが光の巨人を出現させる。
「のあさま、お願いします」
「こうら、みつご、頼んだよ」
光の巨人の光線を甲羅の獣が防ぎ、三つ頭の犬がそれぞれの口から光線弾を吐く。
「きゃあ!」
そこに、鱗の龍が現れ、光線弾を弾く。廃工場の壁が破壊され、軋む音が響く。
「全員避難だ!」
ワカミネの掛け声で、全員が廃工場から外に逃げる。
【四季(シーズン)】
廃工場は崩れ、激しい音と地響きが起こる。サトリはチアキを見つける。
「どうしているの?」
「ごめんなさい。どうしても私は子供が危険な目にあうのは見過ごせない」
「チアキは孤児院で育ったからね。分かったよ」
「ありがとう」
その時、瓦礫から炎の獣と共に少年が現れる。
「たいこ、轟け」
太鼓の武人が太鼓を叩く。炎の獣が巨大化する。NATの隊員たちが銃を撃つ。
「だめだ。全く効いていない」
「ほむら、焼き尽くせ」
炎の獣が火炎放射を溜める。マフユが目を塞ぐ。マフユを守るように、水色の女神が冷気を放つ。火炎放射と冷気が衝突する。
「今だ!」
突如現れた巨大な口が水色の女神を吸い込む。
「めがみ、が…」
冷気がなくなり、火炎放射がマフユに迫る。マフユの横を黒い狼が走り抜ける。
「わんこ…違う、いつものわんこじゃない」
黒い狼が走った瓦礫を押し上げるように地面が盛り上がる。火炎放射は盛り上がった地面で分散する。
「もう1つの顔。大地を操る影の顔」
盛り上がった地面が巨大な狼の形になり、炎の獣を目掛けて突進する。
「こうら、守れ」
甲羅の獣が突進を真正面から受け止める。巨大な口が黒い狼を吸い込む。マフユがお礼を言う為フウコを探す。倒れるフウコを見つける。
「フウコさん!しっかり!」
「…あ、マフユさん。わたし、気を失ってたの?」
「そうだよ。あれ?じゃあ、あのわんこは誰が?」
「わたしよ」
「コハルさん…」
「マフユさん、あなたのお母さんも呼んだわ」
鱗の龍が大気中の水分から巨大な水の塊をつくる。長い尾で弾いた水の塊が甲羅の獣に当たり、後ろにいる炎の獣に水がかかる。苦しむ炎の獣を見て、少年が言う。
「炎は水に弱い。みつご、倒せ」
三つ頭の犬が放った光線弾が、鱗の龍に命中する。鱗の龍は暴れて、水の塊を大量につくる。
「ほーる、吸い込め」
巨大な口が鱗の龍を吸い込む。大量の水の塊が落ち、波が生まれる。
「イフリート、シヴァ、フェンリル、リヴァイアサンあとはガイア人だけ」
「もう1人いるわ」
波の中に、ハープを奏でながら歌う、歌姫の人魚がいる。少年が驚く。
「セイレーン!それに、これは滅びの詩!」
敵味方関係なく超常現象が苦しみ始める。
「だめだ。一旦出直しだ」
「待って!君の名前を教えてくれる?」
「ナツ。またね、母さん」
少年が闇の中に消える。倒れそうになるチアキをサトリが支える。
「わたしのお腹にいたのは双子だった。でも生まれたのはマフユだけ。冬に生まれたからマフユ。あの子の名前はナツ」
「チアキ!しっかり!」
「サトリ…」
「チアキ!」
【複製(コピー)】
ワカミネが叫ぶ。
「おーい!こっちに小学生たちがいるぞ!」
NATの隊員たちが駆け付ける。超常現象に吸い込まれた小学生たちが倒れている。フカミゾが言う。
「敵の目的は超常現象だけ、ということか」
トクノスケがケンタに話しかける。
「ケンタ、あの鱗の龍は君が呼んだのかい?」
「そうだと思う。助けてほしいと願ったからかな」
「ところで、敵の超常現象の波長は特定できたかい?」
「出来たよ。これからは、地球上に姿を現している間は位置が分かる」
「ということは、地球上に姿を現していない間は位置が分からない?」
「そうなるね。超常現象の力で生まれる亜空間にいたら分からない」
亜空間で、少年は、巨大な口が吸い込んだ超常現象を鎖で縛る。
「くさり、よくやった」
鎖の巨人が呻き声を上げる。
「かがみ、映して」
鏡の魔人は超常現象のコピーを作っていく。少年は不敵な笑みを浮かべた後、笑い声を出す。
「強いぞ。でも、もう少しだけ願いを叶える為に必要だ」
NATの隊員たちが会議室に集まっている。さらに、その場にはチアキとコハルとクロオとフウコもいる。
「えー、この度、新たに4人の特別隊員が加わる。シンメンチアキくん、カザブネコハルくん、カザブネフウコくん、そしてゴショガワラクロオくんだ」
「「よろしくお願いします」」
「こちらこそよろしく。理由はシンメンサトリくんのように超常現象を出現させることができたからだ。しかし、先日の廃工場の戦いにおいて、こちらの味方である超常現象が敵の超常現象によって奪われた。こちらにいるのは、サトリくんが出現させる、のあさま、チアキくんが出現させる、はーぷ、の2体だ。そして、この2体はかなり強力だ。敵は確実にこの2体も奪いに来るだろう。何としてもそれだけは避けなければならないわけだが、どうすればいいやら」
サトリが手をあげる。
「サトリくん、何か良い案が思い浮かんだのか?」
「いえ。思ったんですが、超常現象ってどうして出現するんでしょうか?」
「それがわからないから我々がいる」
「そうです。でも、超常現象が出現する時はいつもピンチの時ですよね?どうも僕には助けに来てくれているように感じるんです」
「そう言われればそうだ」
「それから、名前で呼ぶ時は必ず現れます」
ケンタが言う。
「おそらく、僕の予想ですが、超常現象は死を感じた時に現れます」
「死!?」
【会話(コンバーセーション)】
ケンタが超常現象の出現について予想を述べる。
「はい。思い出してください。最初の超常現象が出現したのは、サトリが死に直面した時でした。次の超常現象が出現したのは、マフユさんが死に直面した時でした。その後も超常現象が出現したのは…」
「待ってください。俺は、別に死に直面したわけじゃないぜ」
「そう。クロオさんは死に直面したわけではなく、マフユさんとフウコさんのピンチを打開するために超常現象を出現させました。でも、考えてみてください。クロオさんの身近に死に直面した人がいます」
「身近というと、家族…ゴウキくんとレイコくんか!」
「そうです」
「しかし、家族だからといって超常現象の出現を移すことができるのか?」
「確証はありませんが、家族のように繋がりが深い関係だとそれが起こるのかもしれません」
「なるほど。一理あるな」
「となると、死に直面すれば誰でも超常現象を出現させることができないか?」
「何!そんなことをしたら、世界中超常現象だらけになるぞ」
「但し、現状、超常現象は我々の周囲のほかは確認されていない。まだ分かっていない何らかの事情があるのかもしれない」
「そうか。まだまだ分からないことはあるが、我々は市民を守ることに変わりはない。その為には、特訓あるのみだ。NATの諸君、明日からもよろしく頼む」
「「はい」」
NATの隊員たちが解散する。その中で、トクノスケだけ別れの挨拶をする。トクノスケがケンタに尋ねる。
「ケンタ、今、敵の位置は分かる?」
「分からない」
「じゃあ、亜空間にいるということか。夜間は任せて」
「うん。頼んだよ」
ワカミネは帰宅する。
「あなた、お帰りなさい。風呂も沸いてるし、夕食も出来てるわ」
「ありがとう。先に風呂に入る」
ワカミネは風呂に向かうと、先に風呂に入っていたタイガと会う。
「おう。いたか」
「いつもいるだろ。親父、明日も仕事か?」
「当然だ。未知の存在を相手にしているからな。毎日特訓しなくてはならん」
「そうか。じゃあ、大会には来られないな」
「ああ。残念だが。でも頑張れよ」
「おう」
翌日、ワカミネは出勤の支度をする。
「タイガはもう行ったのか?」
「はい。早くに行きましたよ」
「そうか。じゃ、行ってくる」
NATの隊員たちが出勤する。ケンタがトクノスケに声をかける。
「おつかれさま」
「おつかれさま。夜間は平和だったよ」
「昼間は任せて。ゆっくり休んで」
「そうするよ」
宣託小学校の様子は普段と変わっていない。マフユとフウコが話す。
「みんな、昨日はあんなに騒いでたのに、今日は大人しいね」
「怖い事があったから静かなのかな?」
「でも、ちょっと静かすぎる。なんか、昨日の事、忘れちゃったみたい」
「特に、タマさん、いつも外で遊んでるのに、今日は教室にいる」
「本当だね。どうしたんだろう」
席に座ったままのタマにマフユとフウコは話しかける。
「タマさん、どうしたの?」
「クロオさんたち、外で遊んでるよ」
「え、い、今行こうとしてたんだ」
タマは慌てて外に行く。サッカーをして遊ぶ子たちに混ざったタマは走り回る。マフユとフウコは教室からその様子を見る。
「タマさん、無理してるみたい」
この日、宣託市が運営する運動競技場で、全国大会が開かれている。陸上選手のタクマは、スタート前の準備をしている。栄誉市民同士のタイガとショウは、タクマを応援するため席に着く。
「ついにこの日が来た」
「頑張れよ、タクマ!」
そのレースを狙う少年が近くまで来ていることを知る者はいない。
【大会(コンベンション)】
全国大会は中継され、テレビで放送される。老人ホーム『エレクト』で、トクシゲとカズキがその放送を見る。
「おお!出たぞ!」
「タクマさんなら勝てる」
そこに車いすに乗ったセンイツが来る。
「あんたたち、勤務中じゃないんか?」
「いや、何というか、休憩中だよ」
「そうか。わしのひ孫も出場するんじゃ」
「タイガさんですよね?一緒に応援しましょう」
宣託病院の病室で、ゴウキとレイコがその放送を見る。看護師のウサギとアヤメ、それから影のあるもう一人の看護師がその放送を見たそうにしている。ゴウキが気づいて言う。
「見たいなら見せるから言ってくれ」
「一応勤務中だから言いにくかったのよ」
「特に、ヨーメイ、お前は夫が出場する。見たくて仕方がないはずだ」
「ばれたネ。やっぱりゴウキはお見通しネ」
大勢が注目するレースの開始を見守る。タクマはスタートの準備を終え、開始の合図の銃声を待つ。その時、運動競技場に響いたのは、銃声ではなく、照明が爆発した音だった。タクマは一目散に駆け出した。タイガとショウは真上の照明が突然爆発したので、身動きできなかった。二人は死を覚悟した。その時、火の鳥と風の鳥が現れる。
「あれはフェニックスか!」
「もう1匹はバハムートにそっくりだ」
風の鳥が強い風で照明を中空に止め、火の鳥が照明を燃やし尽くす。その時、タイガの隣に現れた少年が言う。
「ほーる、吸い込め」
巨大な口が火の鳥と風の鳥を吸い込む。タイガは少年が犯人だと見破る。
「今のやったのは、君か?」
少年はタイガを一瞥してから闇に逃げようとする。タイガが追う。
「待て!」
タイガの伸ばした手が届く寸前で、少年が消える。ショウがタイガに言う。
「何が起きたんだ?」
「分からない。何かとんでもないことが起きた気がするけど思い出せない。なんでだ?」
運動競技場にいる人々は今起きたことを覚えていない。しかし、その放送を見た人々は今起きたことを覚えていた。老人ホーム『エレクト』で、その放送を見たトクシゲとカズキが驚く。
「何だ?今のは」
「今のが超常現象…」
センイツが難しそうな顔に手を当て呟く。
「世界の危機じゃ」
宣託病院の病室で、その放送を見たウサギたちが驚く。
「うわ!大変!」
「何なの、あれ?」
ゴウキが立ち上がる。ヨーメイが支える。
「こうしちゃいられねえ!」
「まだ無理しちゃ駄目ネ!」
「いや、もう大丈夫だ」
「駄目ネ!ナースの言う事聞くネ!」
「俺は行くと決めたら行くぞ」
レイコが一言で納める。
「ゴウキ。静かにして。テレビが聞こえないでしょ」
「はい」
テレビの放送が中継からニュースに切り替わる。キャスターが運動競技場で起きた事を繰り返し伝える。
「先ほど、宣託市内の運動競技場で突然照明が爆発した模様です。その直後、巨大な鳥とみられる生物が現れ、照明を破壊しました。その後、巨大な口のようなものが現れ、巨大な鳥はその中に吸い込まれました。現在のところ、けが人はいません。繰り返します」
【華麗(ブリリアント)】
NATの隊員たちが気づいたのは、巨大な口が現れた時だった。
「敵の超常現象の反応がありました!」
「イズミくん、本当か!どこだ?」
「宣託市内の運動競技場です」
「何!確か全国大会が開かれてる場所じゃないか。直ちに出動だ!」
「「はい」」
NATの隊員たちは、準備を整え、二台のパトロールカーに乗って出動する。道路を走る車をかき分け、現場に到着する。トクノスケがケンタに言う。
「ケンタ、反応は?」
「反応があってすぐ消えた」
「でも、時間はあまり経ってない。そう遠くへは行ってないはずだ」
ウララカが倒れるタクマに気づく。
「あそこに倒れてるのってタクマじゃない?」
サトリが確かめる。
「間違いない。タクマだ」
そこに、少年が闇から現れる。
「その人がもう1体を呼んでる」
少年に気づき、タイガとショウが駆け付ける。
「サトリ!大丈夫か?」
「タイガさん、それにショウさんまでどうしました?」
「とにかくその少年は危険だ」
NATの隊員たちが少年に銃を向ける。
「そこの少年、大人しくしなさい」
「父さん、その人起こしてくれる?」
「父さんって何を言ってるんだ!」
サトリがタクマを起こすために体を揺らす。
「サトリ!何してるんだ!」
「タクマ、大丈夫?」
タクマが目を覚ます。
「…サトリ、みんなも集まって賑やかだ」
「ありがとう、父さん」
少年はサトリに近づく。NATの隊員たちが少年に狙いを定める。
「動くな!」
ユラの銃弾が放たれる。甲羅の獣が現れ、銃弾を防ぐ。赤い魔人が現れ、炎の弾を放つ。
「危ない!」
サトリの意思に応えるように光の巨人が現れ、炎の弾を受け止める。赤い魔人が複数の炎の弾を放つ。
「間に合わない!」
その時、目にも止まらぬ速さで駆け抜けた何かが複数の炎の弾をすべて受け止める。
「新しい超常現象だ」
そこには、一本角の馬がいた。
「速い。コピーの力を試そうかな」
太鼓の武人が太鼓を叩き、赤い魔人が巨大化する。赤い魔人が炎の弾を連射する。一本角の馬は避けざるを得ない。甲羅の獣にぶつかった一本角の馬を巨大な口が吸い込む。
「ほーる、もうお腹いっぱいになったろう?」
その場にいる全員が見とれるほど華麗な戦い方だった。少年はサトリに言う。
「父さん、次会う時を楽しみにしててね」
少年と敵の超常現象が闇に消える。
【復帰(リターン)】
タクマがサトリに尋ねる。
「何が起こったの?」
「覚えていないの?」
「必死に走ったことは覚えてる」
「タクマのお陰で助かった。ありがとう」
亜空間で、少年は巨大な口が吸い込んだ火の鳥と風の鳥と一本角の馬を鎖の巨人に縛らせる。縛った三体の超常現象のコピーを鏡の魔人に創らせる。
「フェニックスにバハムート、それからイクシオン。どれも大当たりだ。強すぎる」
笑う少年の前に、人型の超常現象が現れる。
「ほう。たいしたものだ」
「マオウ。お疲れ様です」
「これだけ集めたのはガイア人を確実に倒すためだな?」
「そうです。あと、敵が新たに呼んだセイレーンも強いです」
「では、確実にセイレーンから仕留めればガイア人だけとなりより確実だ」
「いえ、セイレーンとガイア人は必ず一緒に出ます。次に戦う時、すべての力で、一気に倒します」
「それは確実とは言えない。私の言うことを聞いた方が良い」
「出来ません。一気に倒すしかないです」
「もし倒せなければお前の願いを叶えることは出来なくなる」
「必ず倒してみせます」
「ならば好きにするが良い」
人型の超常現象が姿を消す。少年はしばらく黙ってから呟く。
「…絶対に願いを叶える」
警察署に取材する人々が群がっている。変装したNATの隊員たちがその中を潜り抜けて、会議室に集まる。
「大変な事になってるな」
「事態。悪化」
「ツルギが変装を勧めなかったら捕まってた」
「超常現象が知れ渡ってしまったからね」
清掃員の恰好をしたワカミネが言う。
「NATの諸君。大変な中よく集まってくれた。集まってもらったのは大事な報告があるからだ。入ってくれたまえ」
宅配業者の恰好をしたゴウキとウクオが会議室に入る。
「ゴショガワラくんとカザブネくんが今日から復帰する」
「皆さん、迷惑かけてすみません。俺とウクオは、休んでた分を取り返します。よろしくお願いします」
ダンがゴウキに尋ねる。
「レイコさんはどうしたんです?」
「実は、レイコはまだ入院中だ。お腹に子供がいるからだ」
「ああ、子供がいるから…」
NATの隊員たちが驚く。
「おめでとうございます」
「祝福。歓喜」
「ということは、あの時の怪我を乗りこえたことになる」
「強い子だろうね」
ワカミネが言う。
「ということで、私とフカミゾくん、シンタくんの三人はNATを抜け、新設されたNAT支援室に配属する。そして、NATに新たに隊員が加わる。入りたまえ」
「ヒショウエンです。しっかり頑張ります」
「君か。よろしく」
「強者。歓迎」
「2人が揃う」
「ゴウキさんとエンさんは炎の名コンビと呼ばれるからね」
「よし!新生NATの諸君。リーダー、ゴショガワラくんの元、頑張ってくれたまえ」
【作戦(オペレーション)】
サトリと同じ高校の同級生たちが宣託市民会館に集まっている。タイガとウサギが話す。
「明らかにあの時の鳥、似てたよな?」
「そうね」
ショウとノバラが話す。
「あの時の夢で見た伝説の獣ドラグーン」
「何らかの関係がありそうだ」
タクマとエンが話す。
「そもそも超常現象って何だろう?」
「見当もつかない」
アヤメとベンケイが話す。
「こんなことってあるのね」
「大変な事になったな」
カズキとサトリが話す。
「みんないるから大丈夫だよね?」
「うん。そうだね」
ケンタとゴウキが話す。
「きっと作戦は成功する」
「ケンタが言うなら間違いない」
コハルとチアキが話す。
「あんまり無理しないほしい」
「ウクオは退院してすぐだからね」
ウクオとマフユ、フウコ、タマ、クロオは大きい窓の側で外を見ている。
「来るかな?」
「お父さんとお母さんが一緒にいる。来る」
「見逃さないようにしなきゃ」
「ね、ねえ、あそこ」
「おい。来たぞ」
少年が宣託市民会館に立つ木の陰から現れる。一歩ずつサトリたちのいる方へ進む。遮るように木の陰からダンとピン、ツルギ、ユラが現れる。
「僕の為に待っていてくれたの?」
「笑わせるな。待ち伏せだ」
「じゃあ、何かの作戦?」
「御名答」
少年が不敵な笑みを浮かべる。
「作戦は、勝つ為に立てるものだよ?」
「勿論勝つつもりだ」
「本当に?後悔しても知らないよ?」
「望むところ」
少年は手を前に出して言う。
「みんな、やっちゃえ」
少年の指示を受け、十四体の超常現象が現れる。
【救世主(メシア)】
外を見ているマフユとフウコがウクオに尋ねる。
「いっぱい出てきた!」
「大丈夫かな~?」
「安心して良いよ。まあ、見ていて」
炎の獣と三つ頭の犬が四人を狙い、攻撃を放つ。ピンが言う。
「ほうせき、防御!」
妖精が持つ宝石が輝き、四人の前に光る壁を生成する。ダンが言う。
「ちから、アタック!」
巨人が腕を振り回し、三つ頭の犬を殴る。少年の後ろに三つ頭の犬が吹き飛ぶ。
「1体倒したくらいで、勝ったと思わないで」
ツルギが言う。
「勿論思ってない」
少年が言う。
「そんなこと言ってられるのも今のうちだよ」
鎖の巨人が呻き声を上げ、一本の鎖に邪悪な気配を集中する。その鎖を投げ、光る壁を破壊する。そのまま巨人と妖精を縛る。
「今だ!コピーたち、やっちゃえ」
赤い魔人と水色の女神、黒い獣、鱗の龍、火の鳥、風の鳥、一本角の馬が攻撃を仕掛ける。マフユとフウコが目を覆う。ウクオが言う。
「大丈夫。ほら、見て」
マフユとフウコが目を開ける。二人が見たのは、馬乗りの剣士に斬られて七体の超常現象が倒れるところだった。
「何あれ!?」
「強い~」
「救世主さ」
少年が驚く。
「まさか…コピーたちが一撃でやられた」
ツルギとユラが言う。
「らっぱ、よくやった」
「つるぎ、ありがとう」
「え?」
「あなたじゃなくて」
「ああ」
演奏する猫が手を振りその場に消える。馬乗りの剣士が走り、消える。直後、巨大な口の様子がおかしくなる。巨大な口が氷漬けになり、水色の女神が現れる。黒い獣が走った跡に出来た盛り上がった地面が鏡の魔人が持つ鏡を割る。鱗の龍が水の弾を吐き、鏡の魔人が倒れる。風の鳥が翼で巨人と妖精を縛る鎖を断ち切る。火の鳥が熱風を起こし、鎖の巨人が倒れる。少年が察する。
「オーディンの斬鉄剣を、ケットシーの演奏で確率を上げて、僕の超常現象を一撃で倒す作戦だったのか」
ツルギが答える。
「その通りだ。はじめ、彼らが現れた時は、一体どんな能力があるのか分からなかった。しかし、彼らと特訓を重ねることで、その能力が把握できた。そして、ギリギリまで隠し通し、待ち伏せをする作戦を立てた」
ユラが言う。
「こうも上手くいくと気持ちいいですね」
少年が半分諦めた笑みを浮かべながら言う。
「僕にはまだ三体残ってる。ほむら、たいこ、こうら、僕を守れ!」
太鼓の武人が太鼓を叩き、自らを巨大化させる。マフユとフウコとタマが驚く。
「うわあ!大きくなった!」
クロオとゴウキが同時に立ち上がり言う。
「「あいつは俺が倒す」」
【熱(ヒート)】
市民会館の外に出たクロオとゴウキは、同時に叫ぶ。
「「まじん!あいつを倒せ!!」」
クロオとゴウキの意思に応えるように、赤い魔人が炎の弾を限界まで大きくする。そして、炎の弾を拳で殴る。炎の弾は太鼓の武人の顔面に命中し、太鼓の武人はそのまま倒れる。クロオとゴウキは同時に喜ぶ。
「「よっしゃ!」」
ゴウキがクロオに言う。
「クロオ、俺がいない間よく頑張った」
クロオがゴウキに言う。
「親父は絶対生きて帰って来ると信じてたから頑張れた」
かつてゴウキは自分の父を目の前で失った。空から隕石が落ちてきた衝撃で亡くなった。それは突然の事で、当時小学生のゴウキは現実の事と受け入れるまで時間がかかった。その話をクロオにしたことがあり、ゴウキは入院中悔やんでいた。クロオの言葉はゴウキの悔やみを解消させた。ゴウキはクロオに言う。
「お前は強い。俺よりも強くなる」
その時、太鼓の武人が最後の力を振り絞り、太鼓を叩く。炎の獣と甲羅の獣が巨大化する。クロオがゴウキに言う。
「親父、俺に任せてくれ」
「おう!行って来い!」
「まじん!甲羅を壊せ!」
赤い魔人が先程と同様に炎の弾を拳で殴る。炎の弾は甲羅の獣の顔面に命中したが、甲羅の獣は微動だにしない。クロオが言う。
「だめだ。びくともしない。あの剣士なら倒せるのに」
ユラが言う。
「駄目。つるぎは、一日に一度しか呼び出せない」
「じゃあ、誰があいつを倒せるんだ?」
クロオは誰にも倒せないと思う。しかし、クロオは熱い視線を感じる。その方を見る。その視線はタマの視線だった。クロオがタマに手招きする。タマは頷き、外に走る。タクマが気づき、その後を追う。クロオの元にタマはあっという間に着く。
「タマ、お前の意思をあいつにぶつけろ!」
超常現象たちが甲羅の獣に立ち向かうが全く攻撃が通らない。炎の獣の火炎放射が超常現象たちを襲う。タマが甲羅の獣を目指して駆け出す。その後を追ってきたタクマがタマを止める。
「タマ、無茶だ」
タマがタクマを熱い視線で見る。タクマの後ろから目にも止まらぬ速さで何かが通り過ぎる。
「あれは…?」
一本角の馬が助走をつけて跳躍し、甲羅の獣の甲羅に乗る。一本角の馬は甲羅の獣の甲羅と顔面を覆う骨の隙間に角を突き刺し、電撃を流す。甲羅の獣は痺れ、そのまま倒れる。クロオがタマに駆け寄る。
「やったな、タマ!」
タマはいつもの笑顔に戻り、強く頷く。少年は半分やけくそ気味になって言う。
「ほむら!殺せ!!」
「そこまでだ」
突然現れた人型の超常現象が、市民会館程の大きさの水の弾を作る。それを炎の獣に落とす。炎の獣は熱を奪われ、どんどん収縮し、ついに息絶える。
【少年(ボーイ)】
「ほむら!!」
少年が炎の獣のいた辺りに駆け寄る。
「ほむらが…消えた…」
その時、人型の超常現象が高笑いをする。
「ショーはここまでだ。ここから本当の戦い、いや戦争を始める。今までご苦労だった。後は私がやる」
「マオウ…何を…」
「使えんガキは黙って、私に体を差し出すが良い」
「そんな…うわああ」
人型の超常現象が少年に入り込む。少年が倒れる。ゴウキが言う。
「死んだのか!?」
少年が奇妙な動きをする。動きが止まり、少年が立ち上がる。少年は、自分の手を眺める。ゴウキが言う。
「お前は誰だ!?その少年をどうした!?」
「さすがNATのリーダー、ゴショガワラゴウキ。私は魔界ディスガイアの王。この体の持ち主の少年、シンメンナツは現在気を失っている。それは私が体を乗っ取り続ける間は継続する」
「その少年を開放しろ!」
「ははは。無理な要求だ。元々この少年はこうなる運命だ。私はこの世界に留まり続けることが難しい。故に、少年の体をいつか乗っ取ろうと考えていたのだ。そもそも少年が勝つ見込みはないに等しかったのだから」
その時、サトリが慌ててゴウキに駆け寄る。
「どうした?」
「大変だ!世界中で超常現象が出現しているらしいんだ!」
「何!」
少年が言う。
「始まったか」
「何をした!?」
「私はただ人間に知識を与えただけに過ぎない。私たち、魔界の住人も、彼ら、霊界の住人も、人間が呼ぶことでこの世界に来ることができる。その呼び方は、人間が恐怖を感じることのみ。恐怖を感じた時に発する脳波が、時空を超え、私たちに届くのだ。それをカメラと呼ばれる物を操る人間に教えたまで」
少年が不敵な笑みを浮かべる。その少年の笑みを見て、よっぽど元の少年の笑みの方が良い笑みだったとサトリは思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます