第1章
【式典(セレモニー)】
十年前、宇宙空間へ飛んだ一機の宇宙船が地球を侵害していた未知の生物を倒し、奇跡の帰還を遂げた。この宇宙船の事例を受けて、宣託町は称賛を浴び、国はこの日を“奇跡の日”と制定した。その後、宣託町と幾つかの町や村が合併して宣託市が誕生した。宣託市長は、投票の結果、宣託町長が当選した。宇宙船の船員で、全員同じ高校出身の十名は、栄誉市民に選ばれた。宣託市民会館では、奇跡の日の十周年を記念する式典が開かれていた。
「どうも。宣託市長のイズミです。ここに、栄誉市民の10名が勢ぞろいしてくれました。感謝の意を表します」
栄誉市民の十名は、集まった大勢の人々を目撃した。十名は手を振り歓声に応える。タイガとウサギが話す。
「明らかに5年前より増えたな」
「そうね」
ショウとノバラが話す。
「集まる人と年数は比例している」
「比例ではなく、累乗の関係にありそうだ」
タクマとエンが話す。
「全国各地から来てるのかな」
「もしかして世界各地かも」
アヤメとベンケイが話す。
「こんなに人っているのね」
「大変な事になったな」
カズキとサトリが話す。
「みんな、サトリに感謝してるね」
「感謝するのはこっちも同じだよ。だって、奇跡を起こしたのは、僕じゃないんだから」
十名のうち、最も歓声を受けるのは、サトリだった。それは、帰還した宇宙船の第一発見者が目撃したものの噂によるものだった。記念パレードに移り、栄誉市民の十名が車の上から歓声に応える。建物の陰からサトリを見ていた女が、闇に消える。
【同級生(クラスメート)】
式典を終え、イズミが十名に話しかける。
「今日はどうも有難うございました。式典は盛り上がりました」
イズミの元に、秘書が来る。
「どうやら皆さんに用事がある人物が来ました」
市の職員に連れられて来たのは、サトリの高校時代の同級生のケンタとゴウキだった。タイガとウサギが言う。
「俺たちは帰るか」
「邪魔するのも悪いしね」
ゴウキがタイガに礼をする。タイガたちと別れ、サトリたちは市民会館の別室に移動する。「久しぶりだね」
「元気そうだな」
「久しぶり。2人も元気そうで良かった」
高校卒業後、3人は別々の進路を決めた。サトリは、大学に進学し、老人介護施設に就職した。カズキは、追うようにサトリと同じ進路を決めた。現在、サトリとカズキは同じ老人ホームで仕事している。カズキが言う。
「兄さん、サトリも夜勤明けで疲れてるんだ。長話は勘弁してあげて」
「俺は、休憩時間に抜け出して来てるんだ。長話したくてもできねえよ」
カズキの兄、ゴウキは、警察官として宣託市の安全を守る仕事をしている。サトリが言う。
「大丈夫。明日まで休みだから。ところで、ケンタは、研究の調子はどう?」
「それが、ほとんど進展してないんだ。何しろ、発見されたのは10年前の奇跡の日、一度きりだから」
十年前の奇跡の日、未知の生物を倒し、宇宙船を救った存在がいた。それは栄誉市民の十名ではなく、一人の光の巨人だった。未知の生物に襲われ、サトリが死を感じた時、巨人は姿を現した。帰還した後、巨人は空の彼方へ去った。サトリは巨人の事を報告したが、はじめは誰にも信じてもらえず、冗談扱いされた。巨人を目撃した第一発見者は、巨人の事を周りの者に話した。その事は多くの人に知れ渡り、巨人の話は真実だという噂が広まった。その噂により、光の巨人を含む通常を超えた現象は存在するとされ、超常現象またはスーパーノヴァと名付けられた。それからサトリは、他の者より称賛されるようになった。ケンタは、超常現象に興味を持ち、研究者になった。
【超常現象(スーパーノヴァ)】
近況を報告しあったサトリたちは、市民会館の前に来た。ゴウキが言う。
「またな。そうだ。長男のやつが学校の話をする時、サトリの子の話をよくするんだぜ。よろしく伝えといてくれ」
「わかった。伝えとくよ。こっちでもゴウキの子の話はよく聞くよ。よろしく言っといて」
「おう」
ゴウキが別れた後、三人が歩きながら話す。
「ケンタの研究に進展があることを祈るよ」
「ありがとう。でも、その為にはスーパーノヴァが起きてくれないといけないんだよね」
「そんな話をしたら今日起きるかもしれないですよ。噂をすれば影が差す、っていいますから」
「そうだとしたら、毎日起きてることになる」
「カズキはおもしろい」
「お2人とも笑ってますけど、今日は10周年ですよ。何か起きてもおかしくないです」
「ちょうど駐車場に着いたから、お別れだね」
「それじゃあ、みんな気をつけて」
「本当に気をつけてくださいよ」
サトリは、車に乗り、自宅に向かう。(本当にカズキはおもしろいなあ。10周年は超常現象にとって何の関係もないのに。)そう思いながら、サトリが車を走らせていると、渋滞が起きる。前方でクラクションが鳴っている。(赤信号でもないのに何でだろう。事故かな?)その時、車が一台、新聞紙のように後ろに飛んで行った。直後、激しい爆発が起きる。サトリは目を疑う。車を降りて目に入ったのは、紅蓮の炎が四足歩行の獣の姿をしたものだった。
「これは…超常現象だ」
【逃走(エスケープ)】
炎が広がっていく。サトリは、車に乗り、急いでエンジンをかける。(何だ、あれは…!)式典でサトリを見ていた、全身黒服の女が炎の獣に命令する。
「追うのよ。何としてもあの男に力を発動させるために」
サトリは、別の道路を、制限速度を超えて走る。(まさか、追いかけてきたりしないよね)バックミラーを見る。反対方向に走る車が横に飛び、炎の獣が現れる。(まずいぞ!)炎の獣がどんどん距離を詰める。サトリは、ハンドルを切り、狭い道路に入る。大きい道路に出て、また狭い道路に入る。その後も繰り返す。(ここまで来れば、もう大丈夫だろう…)そう思ったサトリの前に炎の獣が現れる。(え!なんで…)急ブレーキを踏む。Uターンして逃げる。(どうやって場所が分かったんだ…)炎の獣が目の前に現れる。(今、地面から出た…?)炎の獣の鋭い爪がサトリの車を突き刺す。直後、爆発が起きる。同じ時、チアキは娘マフユと夕食の準備をしている。チアキが切った具をマフユが鍋に入れる。
「お父さん、遅いね」
「そうね。道に迷ってるのかな」
マフユは眉間に手を当てる。チアキはそれを見て手を止める。マフユがこの仕草をする時は必ず嫌な事が起きる。急な雨が降ったり、地震が起きたりしたこともある。一種の予知能力をマフユは持っているとチアキは信じている。マフユの手が震える。
「お父さんが危ない」
「マフユ!車に乗って!」
黒服の女がサトリの車を見て、炎の獣に言う。
「ちょっとやり過ぎたかしら。でも、こうしないとあなたは来ないでしょう?」
車のドアが開き、サトリが転げながら出る。顔や服に焦げた跡がある。サトリは、炎の獣の隣にいる女を見る。
「…あなたは誰だ」
「教える暇はないわ。ほむら、やって」
炎の獣が鋭い爪をサトリの頭上に振りかざす。(うわ…!死ぬ…)その時、思わぬことが起きる。炎の獣を掴んで思い切り後ろに蹴り飛ばすものが現れる。(君は…また助けに来てくれたのか)それは、光の巨人だった。
【女神(ヴィーナス)】
黒服の女は、恍惚な表情を浮かべる。
「来たわね。待っていたわ、あなたと戦える日を。さあ、ほむら、立つのよ」
炎の獣が起き上がる。炎の獣と光の巨人が向かい合う。炎の獣が雄叫びを上げ、火炎放射を放つ。光の巨人は、光の壁を作り出し、炎を防ぐ。炎の獣は、光の壁を突き破るように突進する。壁は破れ、光の巨人は押し倒される。炎の獣は、火炎放射を放つ。光の巨人は、全身を炎で覆われ、身動きが取れなくなる。サトリが地面に手を突く。
「そんな…君が負けるなんて」
「当然よ。わたしとほむらは、この日のために10年間特訓を重ねてきたのだから。それにしても、かわいそうね。さあ、ほむら、早くとどめを刺すのよ」
サトリが光の巨人の前に地面を擦りながら移動する。サトリが手を広げる。
「僕は君に助けられた。君が死ぬのなら、僕も一緒だ!」
「馬鹿ね。人が死んでも何の意味もないのに」
炎の獣が火炎放射を最大火力まで溜める。そこに、自転車に乗ったマフユが叫ぶ。
「おとーさーん!死なないで!」
「マフユ…」
マフユがサトリに飛び込む。炎の獣が火炎放射を放つ。その時、またしても思わぬことが起きる。サトリが見ると、水色の女性が手を伸ばして、火炎放射が凍りついている。
「マフユ!見て!」
マフユが目を開ける。
「うわあ…きれい」
「綺麗…確かに。それより、僕たち生きてる!」
「ほんとだ!生きてる!やったー!」
サトリとマフユが抱き合って喜ぶ。サトリは、マフユの眉間に雪の結晶のような模様が浮かんで、水色に光っているのを見る。
「マフユ!おでこ、どうしたの!?」
「おでこ?」
炎の獣は、口元が凍り、うろたえている。黒服の女が近寄る。
「ほむら!しっかりしなさい!仕方ないわね。一旦出直すわ。帰るわよ、ほむら」
黒服の女と炎の獣は、陰に身を潜める。
「あの人、帰ったか。はあ…良かった」
「お父さん、あの人だれ?」
そこに、チアキが自転車に乗って到着する。
「お母さん、遅いよ」
「だって…坂がすごいから。それより、サトリ、大丈夫?」
「大丈夫というか、何とか生きてた」
「もう!心配したんだからね!」
「ごめん…」
「お父さん、怒られてる」
「ははは…」
「まあ、生きててよかった。うわ!ひどい怪我。あの人はだれ?助けてくれた人?」
水色の女性は、光の巨人を覆う炎を冷やして外す。マフユが答える。
「わたしたちを救ってくれた、女神様だよ」
「僕には、マフユが女神に見えたけど」
サトリはマフユが飛び込んでくる場面を思い返す。チアキが言う。
「…どういうこと?」
【報告(レポート)】
炎の獣の事件を聞きつけ、警察署や消防局から救助隊員が現場に急行する。救助隊員は、サトリたちを発見して、救助する。その後、サトリは警察署で事件のあらましを報告する。
「ですから、炎の獣が私たちに向かって火を噴いた時に、水色の女性が凍らせたんです」
「ほおー。何度聞いても信じられませんなあ」
「なんで分かってくれないんですか?」
「そう言われましても、実際に見ていませんからなあ」
「僕が見たんです」
「あなただけでしょう。死ぬ間際に、幻でも見たんじゃないですかねえ」
「娘も見ました」
「娘さんも同じでしょう。といいますのも、報告書に『水色の女性が凍らせて救った』と書いても通らないんですよ。ですから、報告書には『救助隊員の消火活動により救った』と書きます。よろしいですね?」
「はあ…」
チアキとマフユは警察署内の待合室で待つ。
「マフユ、おでこの模様、なくなったね」
「そうなの?どんな模様だった?」
「水色に光ってて、本当に雪の結晶みたいだったよ」
「へえ。見てみたかった」
サトリがチアキとマフユの元に来る。
「どうだった?」
「いや…信じてもらえなかった」
「え?またなの?10年前と同じじゃない」
マフユは悲しそうな父の顔を見る。
「わたしが言ってくる」
「ちょっと!マフユ!」
サトリを取り調べた警察官にマフユが説明する。チアキはマフユを捕まえ、警察官に謝る。
「なんでなの?お母さん」
「なんでじゃないの。警察官には警察官の仕事があるの。邪魔しちゃ駄目でしょ」
マフユは訳が分からず涙を流す。サトリはマフユを慰める。
「ありがとう。でも、お母さんの言う通りだ」
そこに、ゴウキが来る。
「サトリ、大丈夫か?」
「ゴウキ。大丈夫だよ」
「マフユさん、泣いてるけど、どうした?」
「実は…光の巨人と別の超常現象が現れたんだけど、信じてもらえなかった」
ゴウキは話を聞くと、警察官を追いかけに行く。サトリとチアキが話す。
「行ってくれた」
「大丈夫なの?」
「たぶん」
サトリたちがしばらく待っていると、ゴウキが戻って来る。
「信じてもらえることになったぜ」
「本当に!?」
「本当だ。条件として、新設する特殊部隊に入ることになった」
「特殊部隊?」
「ああ。今日みたいな、超常現象の事件を専門に扱う、エキスパートチームだ」
「そんなことになって、ごめん」
「何言ってんだ。寧ろ、俺は感謝してる。超常現象と戦える機会を与えられたんだからな」
「ゴウキ、ありがとう」
「良いんだ。俺たち、友達だろ」
サトリは、良い友達を持ったことを実感する。ゴウキは付け足して言う。
「その代わり、サトリも特殊部隊の特別隊員として、一員に含められそうだからな」
「え…そうなの?はあ…」
「久しぶりに聞いたぜ。サトリのため息」
ゴウキが笑う。サトリも苦笑いする。マフユはとりあえず父の笑顔が見れて安心する。
【朝(モーニング)】
目覚まし時計が鳴り響く。チアキが鳴り止まない時計を止めに、マフユの部屋に入る。
「マフユ。いい加減起きなさい」
「もうちょっとだけ…」
「だめ!遅刻するよ!」
マフユの布団がめくられる。マフユは、眠い目を擦りながら、仕方なく起きる。
「眠い…」
「顔を洗ってきなさい。目が覚めるから。その後、朝ごはん食べて。食器洗えないから」
「はーい」
テレビを見ながら、朝ごはんのパンを食べる。テーブルの向かいの席に座るサトリがチアキに話す。
「今日はいつもより遅くなると思う」
「わかった。例の件で警察に呼ばれたのよね」
「そう。でも、何だか、悪いことで呼ばれるみたいに聞こえちゃうな」
「大丈夫。サトリは悪いことなんてしないから。それより、早く食べて。食器洗えないから。マフユ、今日日直じゃなかった?」
「そうだ!遅刻しちゃう!
マフユは慌ててパンを飲み込み、食器を流しに片付ける。素早く仕度を整える。櫛で一撫でした後ピンで留める。マフユは髪が短くて良かったと思う。靴をつま先で押し込み、家を飛び出す。
「行ってきまーす」
「行ってらっしゃい。私もすぐ行く」
マフユは道を走る。その途中、長い髪の女の子に声をかけられる。
「おはよう。マフユさん」
「おはよう、フウコさん。今日日直なんだ。先、行くね」
「頑張って~」
マフユは何人もの生徒を追い越し、宣託小学校の校門に差し掛かる。警備員のベンケイに挨拶する。
「おはようございます!」
「おはよう!元気がいいぞ!」
マフユは教室に着く。ランドセルを置いて、中庭に行く。日直は、学校全体の当番制で、朝の授業前と後に、中庭の花の水やりをして、金魚に餌をあげる。そこに、フウコが来る。
「マフユさん。暇だから来ちゃった」
「フウコさん」
「それにしても、さっきは速かったな~」
「恥ずかしい。あ、チャイムだ。行こう」
マフユとフウコは教室へ急ぐ。
【子供達(チルドレン)】
教室には全員席についている。マフユとフウコも席につく。教室の扉を開けて、チアキが入って来る。学級委員の男の子が号令をかける。
「起立、礼、着席」
「はい。みんな、おはよう。今月は私たちのクラスが日直当番です。今日の日直当番は朝寝坊して遅刻ギリギリだったみたいだけど、明日からの日直当番は気をつけてね」
マフユは嫌な顔をチアキに向ける。チアキは微笑んでいる。放課時間に、マフユが机に顔を埋めている。フウコが心配そうに見つめる。
「マフユちゃ~ん。大丈夫~?」
「大丈夫。反省中なだけ」
「わたし、暇だよ~」
そこに、二人の男の子が来る。
「おい、お前ら、次体育だから移動してくれる?」
「あ、ごめん。わすれてた」
「お前、ショック受け過ぎだ。そんなに落ち込むくらいなら、ちゃんと起きろ」
「起きれないから辛いんでしょ?」
「知らねえ」
「じゃあ、クロオは朝ちゃんと起きれるの?」
「当然だろ。学級委員として朝飯前だ。それより、早く移動してくれ。タマもそう思うよな?」
「う、うん」
「マフユさん、行こう」
フウコに連れられてマフユは隣の教室に移動する。
「く~、あいつ、むかつく」
「マフユさん、顔がすごいことになってる」
体育の授業は隣のクラスと合同で、男子と女子が分かれて行う。この日は、男子がサッカー、女子がソフトボールをする。ボールを持ったタマが速い動きで駆け抜け、クロオにパスを出す。クロオは、ゴール前で受けたボールをそのままシュートする。キーパーの生徒が身動き出来ない程の強烈なシュートが決まる。マフユはその様子に見とれる。
「ボール、行ったよ!」
「痛い!」
マフユの頭部にソフトボールが直撃する。保健委員のフウコがマフユを保健室に連れて行く。
「大丈夫?マフユさん」
「まだ頭がジンジンする」
保健室にいるコハルが入って来たマフユとフウコに聞く。
「あら?どうしたの?」
「お母さん。マフユさんの顔にソフトボールが当たっちゃって」
「あらら、それは大変ね。冷やすもの持ってくるわ。ここに座って待ってて」
コハルが奥に取りに行く。
「フウコさんのお母さん、優しいね」
「保健の先生だから、当たり前じゃない?」
「あ、そうか」
コハルが戻って来て、マフユに氷のうを渡す。
「これでしばらくじっとしててね」
「はい」
「どうして怪我しちゃったの?」
「いやあ、えっと、その…」
「あら、言えないようなことなの?誰か好きな人に見とれてたとか?」
「ち、ちがいます!イタタ…」
「マフユさん、じっとしてなきゃだめよ」
「はい…」
その日、マフユは教室に戻った後もずっと氷のうで冷やし続ける。クロオは、マフユを見て笑い、マフユは怒るのだった。
【警察(ポリス)】
サトリは、宣託市内の警察署に着く。
「何度来ても大きいなあ」
警察署に入ると、警察官が待っていた。
「お待ちしておりました。こちらです」
「はい」
警察署内の会議室で、上官三人が特殊部隊候補の警察官十名を集めていた。
「ワカミネだ。只今から、超常現象を専門とする特殊部隊、通称NAT(ナット)の隊員7名を選出する。1人目、ゴショガワラゴウキくん」
「はい!」
「2人目、ゴショガワラレイコくん」
「はい!」
「3人目、カザブネウクオくん」
「はい!」
「4人目、チカラダダンくん」
「はい!」
「5人目、ライメイツルギくん」
「はい!」
「6人目、ミカドユラくん」
「はい!」
「7人目、ボンピンくん」
「へい!」
「以上、7名をNATの隊員に任命する。NATのリーダーには、ゴショガワラゴウキ君に頼む。
「はい!」
「君たちの他に、管轄外からNATの特別隊員として3名の協力者を迎える」
サトリは会議室の前で待っている他の2名と話す。
「ケンタも協力者だったんだ」
「一応、専門の研究者だからかな。同じく、研究者の妻も協力者の1人に選ばれた」
「じゃあ、ケンタの隣にいる人はケンタの奥さん?」
「そう」
「はじめまして」
「サトリ。ひどいじゃない。久しぶりよ」
「え…?どなたでしたっけ?」
「悪い冗談よね。サトリと同じ高校の同級生で学級委員をしてたウラワウララカよ」
「そうだったね。ごめん…」
「このやり取り結婚式で1回やったよ」
「笑えるかな、と思って」
警察官が会議室の扉を開け、三人を呼ぶ。
「どうぞ。お入りください」
サトリたちが会議室に入る。ワカミネがサトリたちを紹介する。
「彼らがNATの特別隊員3名のシンメンサトリくん、イズミケンタくん、イズミウララカくんだ。これから、未知の存在の超常現象と戦うことを激励して、上官たちから言葉を贈る」
ワカミネは隣の上官にマイクを渡す。
「フカミゾだ。君たちは、共に戦う仲間だ。お互い支え合える良い仲間になってほしい」
「シンタだ。君たちは、大勢の中から選ばれた。私がお気に入りの君たちなら出来ると信じている」
(お気に入り?)NATの何人かは首をかしげる。ゴウキとレイコ、サトリ、ケンタ、ウララカは同級生のシンタトクノスケの口癖だと知っていて、心の中で笑う。トクノスケはワカミネにマイクを戻す。
「2人とも有難う。最後に私から。皆、全力を存分に発揮してくれたまえ!では、選ばれなかった者は業務に戻ってくれ。NATの隊員たちは、事態は急を要することもあり、早速特訓に移る。ついてきたまえ」
ワカミネ、フカミゾ、トクノスケの後にNATの隊員たちが続いて、会議室を出る。会議室に選ばれなかった三名が残される。その一人、エンは呟く。
「そうか、残念だな。相棒、俺の分も頑張れよ」
その頃、黒服の女が廃工場で炎の獣を撫でる。
「さあ、第2回戦を始めるわよ」
【特殊部隊(ナット)】
NATの隊員たちは、射撃訓練場に着く。ワカミネが指示する。
「隊員の君たちには、自己紹介の代わりに、お互いの実力を見てもらう。まず、射撃の腕前を見せてもらおう」
トクノスケがサトリたちに言う。
「特別隊員の君たちは、後ろで待機していてくれ」
「「はい」」
「久しぶりだね。サトリ、ケンタ、ウララカ」
「久しぶり」
トクノスケの口調の変化にサトリたちは驚く。ゴウキたちは防音の耳当てをつけ、銃を構える。的を目掛けて連射し、的の中心に近い弾数が多いほど好成績となる。一斉に連射が終わり、ワカミネが全員の的を確認する。
「なるほど。全員流石の腕前だ。特に、ミカドくんは的の中心に全弾が命中している。これは、全国の警察官でトップクラスの腕前だ」
「「おー」」
その後もNATの隊員たちは、様々な特訓を行う。ワカミネが話す。
「以上の特訓によって、既に分かっていると思うが、確認する。ミカドくんは射撃の実力がある。ライメイくんは戦術に長けている。ボンくんは反射神経が高い。チカラダくんは体力に自信がある。ゴショガワラゴウキくんは体術が、レイコくんは薙刀などの道具の扱いが得意だ。カザブネくんはどの分野も平均的に成績が良い。君たちにはお互いの長所を活かしてほしい。最後に、シンメンくん」
「僕ですか!?」
「君しかいない。君は、超常現象を出現させる唯一の能力を持つ。今のところ、自由自在というわけではなさそうだが」
「はい、その通りです」
「しかし、我々の敵である人物は、報告を見る限り、超常現象を操っていると考えられる。つまり、自由自在なんだ。これでは、明らかに我々が不利だ」
「そうですね…」
「そこで、提案だが、サトリくんも超常現象を自由自在にするための特訓を受けてみてくれないか?」
サトリは黒服の女との戦いの時の事を思い出す。光の巨人がいとも簡単に炎の獣に捕らえられた。水色の女性が現れなければ、間違いなく死んでいた。サトリは決心する。
「受けます」
「そう言ってくれると思っていたよ。シンタくん、案内を頼む」
トクノスケに連れられ、サトリは木で出来た部屋に入る。
「ここは、自由に温度を調節できる部屋だ。簡単に言うと、サウナルームだね」
「僕は、ここにいるだけでいいの?」
「そう。だけど、途中で苦しくなったらすぐ声を出してね。外でみんな聞いてるから」
「わかった」
トクノスケがワカミネたちの元に戻る。
「案内してきました」
「では、シンメンくん、始めるよ」
「はい」
ワカミネは調節ねじを回して温度を上げる。
「まず、30度から開始する」
「全然余裕ですね」
「そうか。では、1分おきに1度ずつ上げていく。辛くなったらすぐ言うんだぞ」
「はい」
その頃、黒服の女が道に現れる。女は、下校中のマフユを見つける。
「いたわ。攻撃開始よ」
【炎(フレイム)】
マフユはフウコと遊ぶ約束の話をしている。そこにクロオとタマが偶然通りかかる。クロオがマフユに話しかける。
「お前、頭はもう大丈夫なのか?」
「うるさいなあ。なんでここにいるの?」
「知らねえよ。俺の帰り道だからだろ。そっちこそなんでいるんだよ」
「わたしも帰り道なのよ。仕方ないでしょ?」
「じゃあ、お互い様だな。タマ、先行こうぜ」
「う、うん」
「これ以上頭悪くならないように、よく冷やせよ」
「うるさい!」
クロオとタマが走って先に行く。
「タマ、来年から始まる部活動何にするか決めたか?」
「ぼ、僕は陸上部がいいんだけどサッカー部でもいいかな。く、クロオは決めたの?」
「俺は絶対文化部にする」
「な、なんで?」
「早く帰れるだろ。俺は帰ってから忙しいんだ」
その時、女の子の悲鳴が聞こえる。
「マフユとフウコの声だ!タマ、行くぞ!」
「う、うん!」
クロオとタマが駆け付けると、マフユとフウコが炎の獣に追いつめられている。黒服の女がそれを見ている。
「マフユ!」
「あら、お友達かしら。危ないわよ」
「きゃあ!!」
クロオとタマが走って去る。
「本当にいなくなったわね。あなたたちより自分たちの身を守る正しい判断が出来る子ね」
クロオがタマに言う。
「タマ!先に俺の家に行って親父に電話をかけてくれ!」
「わ、わかった!」
タマはクロオの家に着くと、靴を脱ぎ捨て、電話機の上のメモを見て電話をかける。ゴウキがスマートフォンの着信に気づく。
「はい」
「く、クロオのお父さんですか?」
「そうだが、君は確かタマだね。一体どうした?」
「た、大変です。ほ、炎のおばけと黒い女の人が、と、友達をいじめてます」
「何だって!すぐに向かうから、場所を教えてくれ」
ゴウキは電話を切ると、ワカミネに報告する。
「何!?本当か!では、早速NATの初出動だ!シンメンくん、一旦特訓終了だ!」
「はい…」
「ゴウキくん、君はNATのリーダーだ。よろしく頼む」
「はい!」
NATの隊員たちは、準備を整え、二台のパトロールカーに乗って出動する。道路を走る車をかき分け、現場に到着する。隊員たちは降りると、銃を構える。黒服の女が炎の獣に命じる。
「早く出さないと死んじゃうわよ。さあ、あの水色の女性を出しなさい!」
ミカドユラが黒服の女に向けて銃を撃つ。銃弾がかすり、頬から血が出た黒服の女は、睨む。
壁の中に、炎の獣と共に黒服の女が姿を消す。ゴウキが動揺する。
「どこ行った!?」
炎の獣と黒服の女は、ゴウキの背後から現れる。ボンピンが叫ぶ。
「危険!回避!」
炎の獣の腕が巨大化し、振るわれる。マフユが叫ぶ。
「やめてー!!」
マフユの額の模様が光り、水色の女性が現れる。水色の女性は、力を溜めた後、一気に解き放つ。炎の獣の全身が凍りつく。黒服の女が言う。
「やるわね。一旦帰るわよ、ほむら」
黒服の女が闇に消える。その場には、焼け焦げたゴウキとレイコとウクオの姿があった。
【同僚(カリギュー)】
NATの隊員たちは、直ぐに救急車を呼んだ。怪我を負った三人は救急車で近くの病院に運ばれた。被害を受けた二人の女子と目撃者の二人の男子を連れて、警察署に戻る。その途中、二台の車内で会話がされる。
「ユラ、そんなに気を落とすな」
「私は発砲したことに後悔はありません。被害を受けた少女から注意をそらす目的は果たせました。しかし、その結果リーダーたち3人を傷つけることになってしまいました」
「相手の能力を知らなかったんだ。こればかりは仕方がない。だから」
「仕方がないことなんてないです!」
「そうだな…」
「ユラさんだけでなく、ツルギさんまで落ち込まないでくださいよ」
ケンタとウララカは怪我を負った三人の身を心配し、ダンの言葉の後、誰も言葉を発さなかった。
「マフユとフウコを見つけてくれてありがとう。クロオとタマ」
「い、いえ。それほどでも」
「当然のことをしただけです」
「勇敢な友達がいて良かった。おかげで2人は助かったんだから。でも、ゴウキとレイコ、それにウクオが怪我を負ってしまって、本当に申し訳ない」
「なんで、マフユの父さんが謝るんですか。変ですよ」
「ごめん。あ、また謝っちゃったね。それにしても君は強い」
「フウコさんのお父さん、強いから、きっと大丈夫」
「…グスン」
ウクオの娘フウコを慰めるマフユをサトリは見ていた。NATの隊員たちは、警察署に到着し、ワカミネ、フカミゾ、トクノスケに報告する。
「そうか。ゴウキくん、レイコくん、カザブネくんが犠牲になったか。これは私の責任だ。ゴウキくんらの代わりに、私ら3人がNATの臨時隊員として加わる」
NATの隊員たちは、驚きを隠せない。
「それは本当ですか」
「本当だとも。但し、ゴウキくんらが戻り次第、私らは抜ける。あくまでも、彼らが戻るまでの間の穴埋めだ。では、自己紹介代わりに実力を見てもらおう」
ワカミネ、フカミゾ、トクノスケが実力を披露する。
「以上のように、私らは、いたって平均的の成績だった。まあ、つまり、なんだ。カザブネくんが3人になったと思ってくれて構わない」
「時間を取ってこの結果とは恥ずかしい限りだ」
「短い時間かもしれないが、よろしく頼む」
「それから、シンメンくんの娘マフユくんもNATの特別隊員として迎えることになった。理由は、シンメンくん同様、彼女もまた超常現象を出現することができる」
「報告では、シンメンくんには光の巨人、マフユくんには水色の女性という別の超常現象が出現している。2人に共通するのは、超常現象が2人の危機に現れるという点だ」
「まだまだ謎が多い。情報が少ない。何か分かることがあれば伝えてほしい」
ケンタが手を挙げる。トクノスケが尋ねる。
「ケンタ、何か分かったのか」
「黒服の女の正体について。さっき顔を見て分かった。あの女は、僕たちと同じ研究者で、元同僚だ」
「元同僚?間違いないかい」
「間違いない。妻もそう言っている。彼女の名前は、コウガホカゲ。彼女は、9年前、事故で夫を失った。彼女は喪失感で仕事を続けることができず、僕たちの前からいなくなった。その彼女がどうしてこんなことをしているのかは見当もつかない」
「有難う。貴重な情報だ。その他にも情報があればどんどん伝えてほしい」
そこに、三人の家族が警察署に到着する。
【家族(ファミリー)】
警察官が、NATの隊員たちがいる会議室に三人を連れて来る。
「NATの方々に伝えたいことがあるという3人のご家族様を連れて参りました」
「通したまえ」
三人の家族が会議室に入る。
「あなたがたは、我々に伝えたいことがあるそうですね」
「はい。超常現象と接触したことがあります」
「それは本当ですか」
「はい。私たちはその超常現象に力を与えられました」
「ええ!本当ですか」
「実際に見てもらいましょう」
三人の家族は謎のアイテムを取り出す。ボタンを押した瞬間、三人の家族は姿を消す。
「どこへ!?」
三人は、じんわりと姿を現す。三人とも悪魔のような黒い衣装に身を包んでいる。
「これは一体…?」
「これはアクマという超常現象の力でアククウカンという異次元空間に移動します。その中でなら、私たちも超常的な力を発揮することができます」
「まさか、我々の知らないところで超常現象と遭遇したご家族がいたとは。もっと詳しく話をお聞かせ願えますか」
「はい」
その日は、三人の家族から話を聞く上官の三人の他の者は、解散となった。そして、全員、ゴウキたちの運ばれた病院へ向かった。宣託病院の救命病棟にゴウキたちはいた。担当の看護師のウサギとアヤメが出迎え、栄誉市民同士のサトリに話す。
「ずいぶん大勢がお越しのようね」
「ウサギさんとアヤメが担当なんですね」
「そうよ。私たちが立候補したの」
「運ばれた3人は、ウサギ先輩とあたいの友人も同然だからね」
「3人の様子はどうですか?」
「命の危険はないわ。でも、また動けるようになるまで時間がかかりそうね」
「そうですか…」
マフユたちとNATの隊員たちがゴウキたちを心配そうに見つめる。そこに連絡を受けたコハルとチアキが来る。コハルがウクオに駆け寄り泣き出す。チアキはサトリに話す。
「大変だったね」
「うん。でも、今日は僕よりもマフユの方が大変だったんだ」
「マフユ!」
マフユを抱きしめるチアキ。ウクオの側で泣くコハルとフウコ。ゴウキとレイコを見つめるクロオ。
「みんな、心配なんだ。家族だから」
全員を見つめるサトリをチアキは見つめる。その傍でタマを抱きしめながら影のある看護士が様子を見守る。
【本物(リアル)】
翌日、NATの隊員たちは、会議室に集まった。ワカミネが前日の話の内容を話す。
「昨日、3人のご家族の話を聞いた。超常現象は自ら彼らの前に姿を現した。言語を理解していて、自らをリーと呼んだ。彼らに味方のふりをして近づき、敵を倒す協力を依頼して、力を与えた。実際は、リー自体が敵を作り出していた。最期は、彼らと戦い、敗れた」
ツルギが質問する。
「何のためにそんなことをしていたのでしょうか?」
「リーは、人間の感情からエネルギーを得られると言った。戦いによってより多くのエネルギーを得ようとしたと考えられる。但し、何故かリーは、わざと負けたらしい。それについてはリーがいない今確かめることができない」
「昨日、彼らは力を見せてくれました。もし、彼らが味方になれば、非常に心強いです」
「ああ。そう思って私は彼らに協力を依頼した。味方になってくれるそうだ」
「それにしても、超常現象の力を持っているとは驚きです。シンメン親子も同じように力を持つことはできないでしょうか」
「確かに。それは我々にとって大きな戦力になる。方法が分からない上に、シンメン親子は本物の超常現象を出現することができる。昨日のマフユくんの意思に応えるようにして。我々は彼らを守る義務がある。ゴウキくんら3人の分も特訓あるのみだ」
「「はい!」」
ホカゲは洞窟の中にいた。たき火を炊き、炎の獣の全身の氷を溶かすことを試みる。
「この氷、溶けないわ。あの子の意思が、超常現象の力を最大まで引き出したのね。何だか負けた気がして嫌だわ。あなたもそう思うでしょ、サマー」
ホカゲは、たき火の側に座る少年に話しかける。
「僕がいれば負けることはありませんよ」
「頼もしいわ。次は、あなたも一緒に来て頂戴。そして、あの子に勝って頂戴。どちらが本物かはっきりさせるために」
「わかりました。フレイシャドー」
「私たちの勝ちは確実よ。アハハハハ」
ホカゲが高らかに笑う声が洞窟に響き渡る。
【伝言(メッセージ)】
授業後、マフユとフウコは、宣託病院に立ち寄る。フウコの父ウクオ達のお見舞いの為だ。
「お父さん、具合はどう?」
「ああ…ありがとう、フウコ」
そこに、ワカミネがフカミゾ、トクノスケと共にお見舞いに来る。ワカミネは果物を机に置く。
「カザブネくん、目が覚めたみたいでよかった」
「先輩…すみません」
「謝るのは私の方だ。本来、私たちが率先して戦いに出向くべきだった。以前、私が交通事故に遭った時、助けてくれた命の恩人である君を傷つける形になってしまった。これは恩を仇で返したのと同じだ。私が現場で敵を倒すから、君は回復に専念してくれたまえ」
「はい…」
フカミゾが付け足す。
「私たちがここに加わることはないようにしたいものだ」
「それは断じてない」
トクノスケが伝言する。
「ウクオ、ゴウキとレイコが目を覚ましたら、責任はないと伝えてほしい。フウコさん、お父さんをよろしくね」
「はい」
ワカミネ達が病室を出る。フウコが羨望の眼差しでトクノスケの後姿を見つめる。
「かっこいいな~」
「フウコさん…トクノスケさんのこと好きになっちゃった」
宣託市内の老人ホーム『エレクト』で、サトリは仕事仲間のカズキとトクノスケの父トクシゲと話している。
「僕は特別隊員としてこの間、温度に耐える特訓を受けた」
「へえ。すごいですね」
「何度ぐらいまで耐えたんだね?」
「確か、45度くらいですかね」
「砂漠と同じくらいの暑さですね」
「そんな辛いこと良くするなあ。わしなら40度でお手上げだ」
「もうしなくてよくなったんですけどね」
そこに車いすに乗った上官ワカミネの祖父センイツが来る。
「楽しそうじゃのう。混ぜとくれ」
「いいですけど…話分かりますか?」
「分かるとも。話してみなさい」
「じゃあ、話しますよ。僕がこの間、温度に耐える特訓を受けたんです」
「鉄筋?」
「特訓です」
「木琴?あれ?今日は何曜日じゃったかの」
「水曜日です。いや、話が分からないのをごまかさないでください」
「分かるとかの話じゃない。耳が遠いだけじゃ」
カズキが気づく。
「ワカミネさん、補聴器してないじゃないですか」
「取りに行こう」
カズキとトクシゲがセンイツの部屋に行く。サトリはセンイツに話す。
「ワカミネさん、本当は聴こえてるんですよね?」
「まあな。一つだけ。心が勝敗を分ける」
「心が…」
「老人の戯言じゃ」
車いすを自分で動かして自分の部屋に戻るセンイツをサトリは眺める。
【名前(ネーム)】
授業後、クロオはタイガが師範を務める道場で稽古を受ける。クロオの弟チャオとムラサキオの二人もこの道場で稽古を受ける。
「「1、はっ。2、はっ」」
「いいぞ。特にクロオ、動きがいいぞ。チャオとムラサキオも見習え」
「「はい!」」
稽古を終え、タイガとクロオが話す。
「有難うございました!」
「お疲れさん。今日も気合が入ってたな」
「はい!親父とお袋の分も俺が強くならなくちゃいけないんで」
「ゴウキとレイコ、2人を親に持って大変だな。特殊部隊に選ばれるほど2人は優秀だ」
「でも、怪我しました」
「それは優秀だからだ。敵は優秀な者から狙うものだ」
「そうなんですか」
「そうだ。クロオはその2人の子供だ。大変だぞ。優秀になるからだ。それでも大丈夫か」
「はい!」
「ちゃんとチャオとムラサキオの面倒を見れるか」
「はい!」
「それにしても、お前たちは良い名前だ。空手の帯の強い順番になっていて覚えやすい。よし、早く帰って弁当を食わせてやれ」
「はい!」
タイガはクロオに弁当を三つ渡す。クロオ達が走りながら帰る。タイガは鼻を擦り呟く。
「出費がかさむぜ」
サトリが仕事終わりに、道端で呼び止められる。
「サトリ」
「ノバラさん!偶然ですね」
「偶然じゃない。君を探していた」
「ノバラさんが僕を探していたんですか?」
「違う。僕の上司だ。光の巨人の第一発見者の」
「本人はいないんですか?」
「いない。あの人は忙しい。代わりに僕が用件を言いに来た。毎日夢を見るらしいよ」
「恐いですね。それで、用件は何ですか?」
「実は、式典の日、あの人は炎の獣に襲われる君を見た」
「本当ですか」
「うん。そこで、敵の女が炎の獣を名前で呼ぶのを聞いて、閃いたらしいんだ」
「閃いた?」
「うん。光の巨人に名前を付けてみれば、それが正しいか証明されると言ってたよ」
「名前ですか」
「そう。その名前の候補を一つ預かっている。“のあさま”だ」
「のあさま…どういう意味ですか?」
「確か、ノアという神様の伝承がこの町にあるらしくて、光の巨人を一目見てピンと来たそうだ」
「なるほど。考えておきます」
「じゃあ、そういうことだから」
ノバラは手を振って歩いて行く。サトリは名前を考えながら家に帰る。ホカゲは、洞窟の中で、全身の氷が半分まで溶けた炎の獣を呼ぶ。
「ほむら、もうすぐよ。あなたが全力を出す時は」
炎の獣が雄叫びを上げる。
【亜空間(サブスペース)】
NATの隊員たちは、特訓の日々に明け暮れる。その中で、戦術に長けたツルギが中心になって作戦会議を行う。
「今まで敵の女は二度現れました。二度とも超常現象である炎の獣と共にいます。炎の獣は、敵の女に忠実に従っていると思われます。更に、炎の獣の能力として、火炎放射を放つことと瞬間移動をすることが分かっています。これらから、敵は次も確実に奇襲を仕掛けて来ると予測できます」
「ライメイくん、分かりやすい説明感謝する」
「一つ気になったのですが」
「ミカドくん、何が気になるというんだ」
「瞬間移動をするということですが、普通の移動と同じくらいの時間がかかっていたと思いました」
「本当かね」
「はい。発砲した後、計っていたので」
「流石、ミカドくんだ」
フカミゾとトクノスケが推測する。
「瞬間移動ではないとなると、何だ?」
「そうですね。何かに似てますね。そうだ。3人の家族が見せてくれた力だ」
その時、ワカミネに連絡が入る。
「はい。カザブネくん、どうした?何!?マフユくんとフウコくんが攫われただと!」
「はい…敵の女が突然現れて、2人を連れていなくなってしまって…」
「連絡感謝する。君たち、聞いていたか?」
「はい。あとワカミネさん、私の推測ですが、3人の家族の力と炎の獣の力が似ていると思うのですが」
「それだ!ご家族を呼ぶぞ」
その頃、マフユとフウコは見慣れないバンドで縛られ、亜空間内を運ばれていた。
「離して!」
「静かにして。こんなところで戦う気はないのよ」
暴れるマフユをホカゲが抑えたことで、ヘアピンが外れて落ちる。
「着いたわ」
亜空間から洞窟に出る。そこで、マフユは自分とよく似た少年を見る。(誰…?)投げ出されて、マフユとフウコは壁にぶつかる。
「ごめんね。勢いが良くて飛んじゃったわ」
その頃、サトリ、ケンタ、ウララカと三人の家族がNATと合流する。
「「リーフラッシャー」」
三人の家族の力で、亜空間に移動する。初めて訪れる亜空間にNATの隊員たちは驚く。三人の家族は、亜空間内に誰かがいた事を感じ取る。その方へ行くと、ヘアピンが見つかる。
「これは…マフユのものです!」
この近くにいると確信し、亜空間の外へ出る。
【決戦(ディサイシブバトル)】
洞窟の中に飛び出したNATの隊員たちをホカゲが見る。
「あら。突然の来客ね。お呼びじゃないわ。ほむら、お帰り差し上げなさい」
炎の獣が突進する。三人の家族が唱える。
「「ハンドショット」」
放たれた光線が炎の獣に命中する。
「大丈夫?ほむら」
炎の獣が雄叫びをあげる。
「そうね。痛いわよね。何だか知らないけど、反撃開始よ。サマー、お願い!」
「わかりました。たいこよ、轟け!」
少年が叫ぶと、太鼓を持った武人が現れ、太鼓を叩く。次の瞬間、炎の獣が巨大化する。
「さあ、ほむら、行くわよ」
巨大化した炎の獣が突進する。三人の家族が唱える。
「「グランドピラー」」
炎の獣が地面から放たれる光線を左右に躱す。ホカゲがサトリを見て言う。
「早く出しなさい。光の巨人を!」
炎の獣が狭い洞窟を飛んで、襲い掛かる。サトリは光の巨人の名前を呼ぶ。
「のあさま!お願いします!」
光の巨人が現れて、炎の獣を投げ飛ばす。ホカゲが言う。
「ついに登場ね。あなたを倒すことで、強力なエネルギーが放出される。もしかすると、願いを叶えられるくらいのエネルギーが貯まるほどにね!サマー、お願い!」
「フレイシャドー、これ以上は危険です」
「いいから、お願い!!」
「しかし」
「もどかしいわね!!借りるわよ!たいこ、鳴らして!!」
太鼓の武人が太鼓を叩く。炎の獣が洞窟全体を満たすほど巨大化していく。NATは異変を感じる。
「おい!全員退避!」
三人の家族が亜空間を開き、NATが退避を始める。サトリがマフユとフウコを抱きかかえる。その瞬間、光の巨人が消える。
「大丈夫?マフユ、フウコさん」
「うん…呼んでも来ないの」
「水色の女性の事?そのバンドのせいかな。それより、避難が先だ!」
ケンタがホカゲに尋ねる。
「君はホカゲさんなんだろう?どうしてこんなことをするんだ?」
ホカゲが顔をしかめる。
「願いを叶えるためよ」
ワカミネが叫ぶ。
「君たちも早く!」
炎の獣がどんどん巨大化する。ホカゲが悲しい顔をする。最期にホカゲが笑ったのをケンタは見る。三人の家族は亜空間を閉じる。
「全員無事か?」
「はい」
「一旦、署に帰還する」
サトリは横顔を見てケンタが悲しんでいるのを感じ取る。少年は、ホカゲに言う。
「だから言ったのに!まだ止まらないよ!バンドで早く消さなきゃ」
「無駄よ。ほむらは、特別なの。消すことはできないわ」
「じゃあ、早く逃げよう!」
「私はここに残る」
「どうして!」
「元々私は助からない命だった。それでも願いを叶える為に無理やり生き続けたのよ。サマー、あなただけは生きて」
「ホカゲ!!くそっ!」
少年は別の超常現象の力で逃げる。洞窟は炎の獣で満ちる。その後、しぼんだ炎の獣を回収しに来た少年は、ホカゲの亡骸を発見する。
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