第43話 脱出



とまぁそういうわけで、メリリも加わり俺たちは三人になった。


彼女に尋ねながら調味料類の買い足しを行うと、人目を気にしながら、侵入してきた壁の前まで帰ってくる。


「あぁ、ずるいですよ。セレーナ嬢。あたしが前でお姫様だっこされたかった!」

「……公正にじゃんけんで決めた結果でしょ」

「そうですけど、背中もいいんですけど、18の乙女としてはお姫様抱っこはあこがれてたんです~」


前にはセレーナを抱え、後ろにはメリリを背負う。しかも二人は食料や道具類など、大荷物まで持っている。


あまり人目につきたくなかったし、何往復もするのは面倒だ。


一回で済ませようと俺が横着した結果、こうなってしまった。手も足もかなりの重量が乗っかっている。


「ちょっと静かにしててくれよ、二人とも。ばれたら困るし、集中したいんだ」


重しをつけられているようなものだ。

魔力の質を高めなければ、この壁は超えられない。


俺は目を閉じて、肺から空気をすべて吐き出した。


魔力は心技体のすべてが揃ったとき、最大量を生み出すことができるとともに、その質が高まる。


だが正直、身体の疲れはほぼ限界に近かった。


その分は他で補うしかない。

俺は極度まで意識を集中させると、『高跳躍』を使う。


そうして無事に、壁の頂上まで上ることに成功していた。


「……今、アルバぼっちゃま跳んだ!? てっきり紐でもあるのかと思いましたよ!」

「そういえば、メリリにも秘密にしてたっけ」

「なにをです? あたしに秘密なんて」

「俺、実は魔法使えるんだよ」


えぇぇぇぇ!!!! という声を聴きながら、今度は壁の外、林の中へと着地する。


「死ぬかと思いました……、いや、いいんですけど。ぼっちゃまの背中で死ねるなら本望ですけど……!」


メリリは早口でつぶやき、まるで動物が木に登るときみたく俺に貼りつくが、大げさすぎる。


「早く降りてくれよ……」


彼女をどうにか引きはがした俺は、着地の際にできた足跡を消すため、土をならす。

その後はダイさんの住む小屋へと向かい、預けていたブリリオを引渡してもらいにいった。


そこで、彼らが林を駆けまわって遊んでいたときは驚いた。

いつのまにか、かなり懐いたらしい。


「もう、ダイさんもスカウトしたらどうかしら。しつけ役兼大工として」


セレーナの案は俺も名案だと思ったのだが、ダイさんはそれを固辞する。


「悪いな、アルバさん。俺は一応まだ雇われの身なんだ。クロレルに恩義も忠義もないが、俺が投げ出せば他の大工も苦しむ。すまない」


こうまで言われてしまっては、それ以上の説得はできなかった。

責任感の強いダイさんらしい。


「だが、いつかは必ずアルバ殿に力を貸そう」

「……ありがとう、ダイさん」


そんなわけで、未来の約束を交わしたのち彼に別れを告げた俺たちは、ブリリオに乗って三人で村まで引き返す。


すぐにでも眠るつもりだったのだけど、


「速い、すごい! 行けぇ、ブリリオちゃん~! うぉぉ、世界のどこかにいるお母さん!! メリリ、今、風になってるよ~!!」


なんて後ろでメリリがエキサイトしてしまってはそれもできない。


ほんと、どこから湧き出てくるのその活力。

もしかして俺たちから魔力でも吸い取ってる? 気のせいか、めちゃくちゃ疲れてくるんだが?


身体は重いが、目をつむっても寝られない。

瞼の裏側に浮かんでくるのは、ついさきほどまで見てきたクロレルシティの酷いありようだ。


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