第9話 村人にめちゃくちゃに崇められる(まじで困る)


「まぁ、なんていうか簡単に言うと、実は使えるんだよ。公言して下手に持ち上げられると困るから、黙ってたんだ」

「……ねぇアルバ。一応、鑑定させてもらってもいい?」


セレーナはそう言うと、腰元から巻物を取り出す。


彼女の特殊スキルは、アポロン家に伝わる『鑑定』魔法だ。

俺は属性魔法ならば大概を使えるが、一方でそれら固有魔法はその一族にしか操れない。


もしかすると、鑑定士としての血が騒いだのかもしれない。


「いいよ、別に。セレーナに隠しておけることでもないからね。でも無駄だと思うよ」


俺が手を差し出すと、彼女はそれを巻物に触れさせる。


「世の知をすべる賢者に、その存在の本質を問う。魔導鑑定……!」


こう詠唱をすると、巻物に文字が浮かび上がった。

そこに記されていたのは、「なし」の二文字。そう、神官と同時に鑑定士に見てもらったときも同じことが起きた。


「うそ、なんで分からないの」

「……さぁ。でも、使えるのはさっき見て分かったろ? 嘘じゃないんだ。他にも属性魔法なら何種類かは使えるよ」


ほら、と俺が荷物の中から取り出たのはメモ帳だ。


そこには、使えるようになった魔法を属性ごとにリスト化していた。


詠唱が必要な物はその文面を記しており、そうでないものは実際に使用した際の感覚を書き残して、再現性を高めている。

……と言って、そんなに厳密なものではないのだけど。


『縮突』の欄に書かれている説明は、「なんかシュッって伸びるやつ」だけである。


「……すごい考え方ね。でもまぁ少しわかるかもしれない。生きづらいもの、貴族社会」

「ああ、まったくだ。だけど、別の意味で、物理的にここもまともに生活できる環境じゃなさそうだな」

「それをここに来て言っても仕方ないわよ。とにかく、ありがとうね。今のアルバ、格好良かったわ。セリフはともかくね」

「……あ、あぁ、うん。これくらい気にしないでいいよ」


やべえ、無能を演じ続けてきたせいか、褒められ慣れてなさすぎないかな、俺。

まっすぐ言葉にされると今更ながら恥ずかしくなって、前髪を引っ張って目元を隠す。


「そ、そういうセレーナもまったく怖気づいてなかったよな、うん」


小声ながらもなんとか会話を繋げようとしたところで、後ろから「本当に助かりました」と声をかけられた。


タイミングが悪いことこのうえなし!


しかし、仮にも赴任した村の住民との初めての会話になる。俺は咳払いをして、一応は鍛えてきた外面を用意し、とりあえずそちらを振り向いた。


すると、どうだ。そこは地面であるにも関わらず、躊躇のない土下座である。


「そ、そこまでしなくても! 大したことはしてませんから!」

「いや、私たちには到底できないことです。それに、我々のような身分の低い者が貴族様にお助けいただけるだなんて、そうそうありえないことですから」


さしものセレーナも、この態度には俺の横で面食らっていた。

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