第6話 ゴミのあふれた村へ、二人で。
一人のはずだった旅路が、二人となって。
俺たちは休み休みしながらも、ハーストンシティから目的地であるトルビス村を目指して進んでいた。
全行程約4日の遠乗りだ。とある事情でほぼ寝られなかったことをのぞけば、基本的には、快適な旅であった。
馬車の揺れは少なかったし、籠には魔物避けのコーティングが施されていたため襲われることもない。
食料面や飲料面は、セレーナも携帯食を用意してくれていたから困らなかったし、衛生面も途中途中の水浴び場を利用できたため問題なし。
そして、危惧していた会話が持つのかどうかという点についても、とりあえずは心配なかった。
俺は膝上で眠りこけているセレーナの白すぎる顔を覗きこむ。
馬車に乗ってからというもの、彼女は日がな眠そうにしていた。聞けばあの朝は、急遽旅立ちの用意を整えて、徹夜をして俺を待ち受けて居たらしい。
たぶんその疲れがどっと押し寄せてきたのだろう。
……いや別に、助かったとか思ってないよ?
というか、それで言えば正直今の状況だって、ある意味では危険だ。
彼女が俺の方向へ寝返りを打ったせい、柔らかいところがむにむに当たってめちゃくちゃ困っている。
しかも、いい香りも漂ってくるし! 鼻の奥をくすぐるのは、薔薇の花弁から漂うような濃密な甘さだ。
意識してしまったせいで、頭がくらくらしてくる。
俺がつい、ごくりと唾を飲まされたところで……
「そろそろ到着いたします」
御者から声がかかった。一気に、正気に引き戻される。
「あ、ありがとう……!」
俺はどうにか返事をしてから、セレーナの肩を揺すった。
と、長いまつ毛の下に潜んだ瞳が、ふっとその姿を覗かせる。
美しい藍の輝きは窓から漏れてくる夕日に照らされて、まるで精巧なステンドグラスのようにも映った。
「セレーナ、そろそろ着くみたいだから起きようか」
はじめは敬語を使っていたが、彼女の方からやめるように言われた。
俺としても、その方が慣れているのでありがたい。
「…………あら、ごめんなさい。また寝てしまっていたみたいね。あなたの匂い、なぜか落ち着くから。重くなかったかしら?」
「あぁ、うん、それは大丈夫だよ」
「……それは? ということは、なにか大丈夫じゃないこともあるの?」
「いや、別にそういうわけじゃないさ」
欲情しかけてました。
なんて本人にありのままを言えるわけもない。
俺は彼女の追及を躱して、素知らぬふりを決め込む。わざとらしくないよう荷物やらの整理を始めて、馬車が止まったところで降り立った。
「……なんだ、これ」
そして、目の前に広がっていた光景に驚愕する。
持っていた荷物を一度、地面に落としてしまった。
「ここがトルビスね。そう、やっぱりこうなっていたのね」
「セレーナ。来たことがあるのか? やけに落ち着いてるけど……普通、そうじゃいられないだろ」
「いいえ、ないわ。でも一度だけ聞いたことがあったから」
「先に教えてほしかったな、それ……」
そこに広がっていたのは、簡単に言えばゴミだった。
一応、ぽつぽつと戸建ての家が並んでいて集落があることは窺えるし、周りは山々に囲まれていて自然豊かでもある。
だが、その集落の真ん中にこんもりとゴミが積み上げられているのだ。生ごみではなく悪臭はしないが、決して快い環境ではない。
想像をはるかに超えたゴミだめっぷりだった。
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